有川浩著「塩の街」
皮肉にも似たような「町、あるいは街」を題材とした作品が続いてしまった。
まさに、皮肉、である。
本作は有川浩のデビュー作、とのことである。 有川浩といえば、「大人が読むライトノベルを書き続けたい」と公言し、「図書館戦争」シリーズはアニメ化し、「空の中」「海の底」そして本作「塩の街」三部作で、それを見事有言実行してみせている作家である。
本作が、三部作の第一作であり、デビュー作。
なのである。
七年前の作品、とのことではあるが、えい、関係ない。
地球各地に飛来した巨大な塩柱。 それを機に、人類は肉体が塩の結晶化してゆく恐怖とたたかう日々がはじまった。
ウイルスなのか。 感染経路はなんなのか。 防護策はあるのか。 塩化を食い止める、治療法はあるのか。
塩化が末期まで進んだとき、はじめて、そしてようやく、自分が本当に最期にそばにいてもらいたい相手に気づき、ほんのわずかだけの間、恋人同士になれた。
彼女は、海にゆきたい、といった。連れて行く、とこたえた。海の家をひらいて、ずっとそばにいてやる、と約束した。
彼は交通が完全に麻痺したなか、群馬から徒歩で、大きなバッグを担いで、海を目指して東京までやってきた。
東京湾岸にそびえる巨大な塩柱の向こう、湘南の浜まで、道中助けられた青年と少女と共にたどり着く。
バッグの中身は、かろうじて人型をとどめていた塩化した彼女だった。
泣くなよ。 涙が流れたあとが溶けていってしまうのをとめることもできずに、ただやさしく抱きしめてあげることしかできなかった。 抱きしめた手のひらに、髪のすき間から、塩の結晶のざらざらとした感触が。
彼女を海に返すため、波に入ってゆく彼。
彼を東京からここまで送ってきた青年は、連れの少女に、振り返らぬよう、帰ろうと促す。
彼も塩化がはじまっていたことに、青年は気づいていたのだった。
青年は航空自衛隊のエースパイロット。両親を塩化で失い、ひとりで街をさまよっていた少女。
ふたりの、世界を救うためのたたかい……ではなく。
好きな相手をなくしたくないがためのたたかいがはじまる。
その「ついで」で世界が救われるなら、勝手に救われてくれ。
愛で世界なんか救われない。 救われるのは当事者たちだけだ。 だけどそれだけで、十分。
さすが有川浩。
である。
物語の展開、登場人物たちの魅力、そしてそれらはツボを外すことがない。
この作品は、十分、物足りた。 さすがである。
さて、三部作で残るは「海の底」である。
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