三崎亜記著「失われた町」
およそ三十年ごとに町が消滅する。 原因はわからない。
ただ。
町が意志を持って自ら消滅するのである。 消滅する町は、住民たちの意思さえをも浸食し共に消滅を受け入れさせ、共連れにする。
消滅した町は、運良く、あるいは町の意志に抗い消滅を逃れたものにも、痕跡を足掛かりにして、消滅後もなおその触手を伸ばし続ける。
地図や電話帳、個人的なメモ書きを含む書籍書類など、地名やその町と特定できるものすべて。
だから、消滅した町に関わるものすべてを、人々の前から取り除かなくてはならない。
でなければ、「感染」として町にとらわれ、そこからさらに周囲へ拡大してしまうおそれがあるからである。
町の消滅を食い止めようとするものたちの、喪失と直に向かい合うものたちの物語である。
著者は「となり町戦争」にて、町内報の戦況および戦死者一覧によってのみ、となり町との戦争が暗に実際に行われている世界を描き、「バスジャック」にてバスジャックが公的なゲームとして社会に認知されている世界を描いたりしている。
世界のどうしようもないものとたたかうものたち、あるいは順応してゆくものたちを描いている、といっては大げさだが、設定としては面白い。
しかし、どうにも物足りないのである。
個人の好みの問題ではあるが、こういった世界であれば、わたしは小川洋子さんの世界や表現のほうが、肌に合う。
閉ざされていない世界と閉ざされた世界とで、何かが喪失してゆくのならば、後者のほうが強く描ける。 そこに、届くか届かないかの差がでているのかもしれない。
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