「隙 間」

2010年01月28日(木) そんな時代にけんしん

「定期」健康診断があった。

準備万端抜かりはない。

とはいっても、それでも高い値が出るのはしかたがないので、最低限の努力をするのみにとどめるだけである。

しかし、気になることは気になるのだから、多少、ひとの話を聞いてみるくらいはよいだろう。

隣席の馬場さんに、ふと尋ねた。

「ご主人の健康診断の結果をみて、栄養バランスとか考えて晩ご飯をつくったりしてますよね」
「うちは、ほとんど一緒に食べないから」

ああそうか、お子さんがいるからご主人よりもお子さん主体の料理になるのか。

「ううん。ダンナが仕事から帰ってくるのが毎日二時頃だから」

そうであった。
馬場さんは月に二日しか休みがなく、毎日終電もしくはタクシーで帰宅が当たり前、のアトリエ系設計事務所に勤めていたのであり、ご主人とはそこで出会われたのだった。

「栄養バランスという以前に、全部が足りてなさそうだし」

仕事休めないひとだから、熱でふらふらしてても絶対に休まないの、と仕方なしに笑う。

体は壊しても治るものだと思っていても、そうはいかないもんなんですからね。

あは、そうだよねえ、と仕方がないのだから仕方がないと笑いを付け足す。

「それが普通、の業界だからねえ」

ここはほんとに、別世界みたいだよね。残業て観念があるんだもの。子どもが熱出した、てなっても休めるし、早く帰れるし。

「もう、ほかのところでなんか働けない体になっちゃいました」

やれといわれれば、私はやるけどねえ。好きだから。

ふふん、と鼻をとんがらせる馬場さんに、わたしがかなうわけが、ない。

「ご主人もちゃんと好いて、体をいたわってあげてください」

失礼な、と反論する。

「ちゃんといたわって、ねぎらってあげてるのに、こないだなんて」

夜中二時頃、馬場さんが寝つけず居間にゆくと、ちょうどご主人が帰ってきたあとのテレビをぼおっと眺めていたところだった。
なにか話したりしようかとちょろちょろしていたら、

「ひとりの時間なんだから、早く寝てくれるかな」

とにべもなくいわれたらしい。

「失礼しちゃうと思わない?」

そりゃあ、気持ちはわかるけど。
わかるけど、と口をとんがらす。

「で?」

ぐい、とわたしに何の話だっけと振り返る。

あわわ。

そんなストイックなお話のあとで、わたしの高カロリーな話などできようはずもない。

いや、その、どうぞお大事に、と。

「ふうん」

ま、いっか、と前に向き直る。

そんな時代も、
あったね、と。
笑い話せる日がくる。

そんな時代を過ごす必要がなく済ませられれば、それにこしたことはないのである。

ましてや、年間を通して毎日が、などともはや古きよき思い出ですましたいものである。


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