さて新しい保険証も届いたことだし、健康診断の結果も伝えなければならないし……。
ということで。
大森です。
わあ、久しぶりですね。もうずいぶんお会いしてなかったんじゃあ……。
と出迎えてくれたのは、ふた月近く顔を合わせてなかったケイさんでした。
久しぶりのケイさんは、朗らかに元気よい様子で、だけどずいぶんスリムになっていました。
ケイさんは、わたしとイ氏がとりとめない無関係な話にいくら花を咲かそうと、きちんと椅子に、控えめにやや下がったところに腰掛け、その話を聞いています。
「おお。優秀、優秀。こりゃ祝杯だね」
健康診断の結果を眺めて、イ氏はニコニコとわたしを見ました。
「でもね。
中性脂肪がずいぶん低いね……。これじゃあ、元気出ないでしょう」
正常値内の、下限にほど近いところの値だったのです。
「ま、健康優良、てことで」
と話に早々に片を付け、それじゃあ、
「そろそろあなたも、身を固めなきゃね」 「なぜにここで、そろそろ、が固まる話になるのでしょう」
イ氏とふたりだけでのそんな話ならば、あれだこれだとトウカイすることもできる。
だけど、いまはそこにケイさんがいるのです。
以前、やはりこの三人でいるときに、高村光太郎の智恵子さんへの性的欲求の激しさによって智恵子さんが失調症になっていた話をし、
「女性として、ヤだよねえ」
と、イ氏がケイさんに不意に尋ね、いやそれはできれば尋ねたりしないほうがよいでしょうに、とわたしがハラハラした思いになったことがありました。
そんな心配をよそに、イ氏はずずいとわたしに切り込んできます。
いやあ、実際、書いたり読んだりするだけで一日が手いっぱいで、そこにほかの誰かさんと時間を過ごすのは、なかなか面倒や億劫に思えてですね。 それに、書いてます、というとヘンなひとだと思われるし、そう思われないような実績もいまいちないですし。
「だけどもね。 書いているのが好きなんでしょう。 優先させたいんでしょう。 だったら、それをヘンに思われようがいいじゃない」
それはそうなんですが。
横目でチラとケイさんをみると、ぱちくりと、何のお話ですか、と黒目が右往左往しています。
「プロ目指すわけでもないのにゴルフにあけくれているサラリーマンたちに比べれば、よっぽど経済的じゃない」
うんうん、とイ氏は強くうなずいて、置いてきぼりだったケイさんもなんだかわからないけれど、ゴルフよりいいことなんだ、というところだけ理解して、曖昧ながらもうなずいてました。
「ひとりじゃなくて、ふたりになって書いてゆけることもあるんだから、それもまた大事なことだしねえ」
take me baby or leave me!
「結婚なんて、支え合うとか、そんなもんじゃあないんだから」
じゃあ、忍耐、でしょうか。
「いやいや。そんな生易しいもんじゃあないよ」
ぱちくり、ごくん、とケイさんとふたり、イ氏を見つめ返すと、
「やりたいことを主張しあう戦いだよ」
戦うのは相手があってのことなんだから、相手がいない不戦勝ばかりじゃ飽きちゃうでしょ。
ケイさんの目が、こころなしかさっきより力に満ちてイ氏の言葉を聞いているように見えました。
戦いに臨もうとする者の目です。
一方、不戦勝どころか戦場からなるだけ離れて、避けて、竹林の奥に引きこもっているわたしは、どんな目をしていたのでしょうか。
茫として定まらず。 漠として判ぜず。
「頑張って相手を見つけてよ」
唖々としてわたしの背を叩いたイ氏でした。
「バテないように、脂肪が取れる食事しなさいよ」
脂肪を取って、コレステロールを取らない食事って、いったいどんな食事でしょう。
また新しい悩みが増えてしまいました。
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