「隙 間」

2009年11月15日(日) 上野動物園

本日、およそ四年振りに上野動物園の園内に入ってきたのである。

前や後ろや真ん中のすき間は、毎週、毎晩のように通っていたのだが、中に入るのは、一時期、上野駅前への抜け道代わりにと、年間入場券を手にしていたとき以来である。

木曜から本日まで、天皇陛下の二十周年祝賀ということで、入場料が無料だったのである。

昨日、電話でちょうど上野動物園の話をしたところであったので、まさに入ってみなければなるまい、と意を決したのである。

我が家は徒歩十分とかからず、西園つまり不忍池口まで至り、当然そちらから東園つまり上野駅側の正門へと向かうことになる。

西園には「こども動物園」があり、動物たちとじかに触れ合えるのである。

そこでとあるやぎのブロマイドでも撮影しようと、しゃがみ込み、狙いを定めていたのである。

すると。

何やらあたたかいものがわたしの空いている腕のあたりをつかみ、はなさず、ムシャムシャとはんでいるような感触に襲われたのである。

えい、シャッターを切るまでちと待たれい。
次にお前を撮ってやる。

と、写真職業家の誇りを気取り、不動のていを保っていたのであるが、内心の本心では、よだれでべっとりにされてはかなわない、と恐々としていたのである。

「ほら。あ、すみません」

シャッターを切り終えたわたしが振り向くより早く、女性の声がしたのである。

やっと振り向くと、やぎやひつじがはんでいたのではなく、おとこのこが、わたしのシャツを掴んで、わたしが撮影していたやぎを見ていたのである。

いえいえどうも、と何がどうもなのかわからないが、楚々とわたしは立ち去った。

こどもの体温とは、かくもあたたかいものである、と久しぶりに思い出したのである。



誤解してはならない。
わたしにこどもはおらず、かつて別れたなどということもない。
友人らの子らを抱えたりしたときのことを思い出しただけである。



さて、頭上をモノレールが過ぎるのを見上げながら、東園へ渡る。

猿山で猿たちを冷やかし、ぞうの群れを横目に過ぎて、ライオンの昼寝を妨げぬよう背後を通り抜ける。

我が干支でもあるトラにご挨拶とねぎらいの言葉を、ぜひとも掛けなければならない。

年の瀬も迫り、年賀状に引っ張りだこの大忙しのはずでまいっているのではなかろうか、とのわたしなりの気遣いである。

群がる観衆の前を、しかもいつも以上の大観衆の面前を、いったりきたりと忙しくしていたのである。

まさに、

東奔西走。
右往左往。

わたしはソフトクリームのバニラをひとりねぶりながら、涼やかな顔で園を後にしたのである。

動物園は、ひとも含めて生き物のにおいが濃く立ち込め、いいものである。


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