わたしの部屋の目と鼻の先、根津神社表参道に続く藍染通りは、町の催し場としてよく使われている。
不忍通りに直交するも車の出入りは少なく、土日は車両進入禁止となるため、面するお宅のなかには、子供プールを出し、レジャーシートを広げ、バーベキューなぞをして過ごしていたりする。
そこにはご近所の似た年頃のお子さんをもつご家族が加わっているようである。
その向かいには、アイス最中で有名な「芋甚」に列をなす訪問者たちがいたりするのである。
その藍染通りを通りがかると、凛々しく響く女性の声が聞こえたのである。
「女性消防団。放水訓練、はじめっ」
背中に東京消防庁の文字を背負い、勇ましく、また凛々しい顔で、ぱっぱと構え、きびきびと動く。
男性の訓練する光景なら何度も見ていたが、女性消防団、ははじめてであった。
消防団であるから、ふだんは店の看板娘であったり、会社の華であったり、母親であったりするのだろう。
そんな当たり前のことが、ここにある。
さてその足で湯島を抜けて通りを歩いてゆく。
この通りは下に地下鉄千代田線が走っており、ところどころに換気口が歩道にある。
細目のグレーチング蓋なので、それを気にせず上をつかつかと歩くのだが、地下鉄が通る度、風が吹き出すのである。
マリリン・モンローが世界でおそらく最も有名な、かの名シーンを真似ることができるのである。
吹き上げる風の上に立ち、なびき上がるドレススカートを艶っぽく、悪戯っぽい顔と仕草で押さえる、それである。
わたしは男であり、ズボンを履いているので、幸にも不幸にもそんな艶だののエロティシズムとは無縁であり、それに相応しくつかつかと歩いていたのである。
と。
ごおお、という音と共に、風が足下から吹き出してきたのである。
羽織っているシャツのすそがバタバタと暴れ出し、おお涼やか、となすままにしていたのだが、その内の肌着のシャツまでもが、パタパタと膨れ上がって暴れ出したのである。
快適快適、と油断していたのである。
わたしはシャツをズボンに入れていない。 もっと寒かったり、冬であれば、しっかり入れていただろう。
しかし、まだである。
ぶあっ。
そのシャツのすそが勢いよく、万歳をしてめくり上がったのである。
恥ずかしくもふてぶてしい腹が、むき出しになる。
それくらいなんのその。 気にすまい。
むしろ歓迎しようと手を広げようとしたとき、向かいにすれ違おうと歩いてきていた女性がいたのである。
目が合わない。 しかと、伏せている。
頑なまでのその様子は、間違いない。
わたしのあられもない恥ずかしい腹を、おそらくそこに黒点を打っているヘソまでをも、見てしまったに違いない。
広げかけた両手で、慌てて両方のシャツのすそを押さえ込み、抱え込む。
お見苦しいものを、 どうもすいません。
無言で頭を下げてすれ違う。
東京の、地下鉄の走る通りにお越しの際は、男女問わずお気をつけいただきたい、と深く、真摯に、切に思ったのである。
|