にーさん、俺、旅に行ってきます。
予行地と暑気払いの昼食をとっていたときのことであった。
どこの寺へ自身を見直しにゆくんねん? 違いますって。それをやらなきゃならないのは、にーさんの方でしょ。 日々是すなわちすべて禅なり。歩くときも食べるときも、寝ているときさえも「禅」なのだよ。
……。 ……。
もう、話していいっすか? あい……。
金沢と名古屋と三重に、行ってきます。 誰と? ひとりに決まってるでしょう。 さびしーのおー。 いいんです。強行軍ですから。
予行地はなんと、美術館めぐりをするらしい。 展示品をみるのではない。
「建物」を、見に行くのである。
有名建築家の作品、つまり設計した建物を見ることは、なかなかためになる。
そのために出かける者にそうでない者が同行すると、はなはだ疲れてしまうものなのである。
あちらへふらふら、こちらへふらふら。 近づいて、離れて、 見上げて、のぞいて、 さわって、たたいて、
「すみません、お手を触れないよう」 「関係者以外の方は、立ち入らぬよう」
と注意されることも、しばしば。
「名古屋から三重へゆくアシが、いいのがないんすよね」
レンタカーじゃなければ、近鉄くらいじゃないのん? なんで知った顔なんですか。 地図みて最初に気づく程度のことやん。 いやぁ。さすが、にーさん。 馬鹿にしとるん? いやいや……からかっただけです。
思い立ったひとり旅の心強い味方は、夜行バスである。
ひとりなら座席の空きもあるし、夜遅く出発、早朝着、新幹線の半額だったりもする。
休憩で寄るサービスエリアで食うアメリカンドッグの、鼻にガツンと抜けるマスタードがなんとも愛しく思える。
深夜なので閉まっている店やシャッターや、閑散とした休憩所の空気も、いい。
「にーさん。調べてみましたよ」
予行地が、前回わからないままになっていた問題を解いてきたらしい。
その問題とは、
「AKB48とは、本当にメンバーが四十八人いるのか?」
である。 三十路の男が、なんともイタい話である。
「なんか、いっぱい、いました」
ウィキなるもので調べてみて、メンバー一覧があり、その数を数えはじめたところで、
「もの凄く、イタい気持ちになって」
数えるのはやめたらしい。
もっと早くに気づき、忘れるべきだったろう。
「AKBって、アキバの頭文字だって知ってました?」
イタい。 イタイタしすぎる。
今さらだが、秋葉原をアキバと呼ぶのが、若者の略語や造語だと思われているやもしれぬ。
それこそ間違いである。
秋葉とかく「アキバ神社」という歴史ある由緒正しい神社がある。 つまり、アキバこそ正しい地名なのである。
昔は野原が広がっており、秋葉の野原、から秋葉原と呼ばれるようになり、アキバハラでは読みづらい、漢字を素直に読み「あきはばら」でよかろう、となったらしい。
短気早口舌足らず、の江戸っ子にはありがちなことである。
「SK……なんとか、て姉妹グループみたいなのもあるんですよ」
SKB、かしらん? さあ、そんな感じでした。 S……サ K……カ B……バ?
酒場かっ。なんか全員が、酒ヤケしたしゃがれ声で歌ってて、ひねもした感とうらぶれた感がたっぷりで、コアな支持層つかんでそうやな。 金持ったおやじたちが、小遣いつぎ込みそうですよね。 なけなしの小遣いをはたいて、なぁ。 CDとかポスター、カレンダー、写真集買い込んで、で、奥さんにつめたーい目でみられて。 奥さんは愛犬抱えて頬ずりして、だんなはそのお気に入りの子の写真集を抱いて。 ああ、終わってますね。 うむ、終わってる。
正しいかどうかはあやしいが、
SKE……48?
らしい。
S……サ K……カ E……エ
名古屋の栄を拠点としている、らしい。
東京のオタクの街である秋葉原の次に、と選ぶなら、名古屋なら別の街があるだろう。
しかし、そこをあえて選ばない戦略、らしい。
売れているのか、よくはわからないが、名プロデューサーのなすことであれば、なにかしら学ぶべきものがあるのだろう。
どこに、なにがあるのか、あなどれない世の中である。
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