「隙 間」

2009年07月29日(水) 「バスジャック」

三崎亜記著「バスジャック」

「となり町戦争」で話題になった著者の短編集。
さらりとしたなかで、思いきり突拍子もない世界観や枠組みを巧妙に醸し出す。

表題作の「バスジャック」では、バスジャックが公的に認められ、様式化し、法的な取り決めもされ、日常の一部となっている。

まずは宣誓するところから、バスジャックは始まる。
宣誓が終わらなければ、まだバスジャックははじまらない。
宣誓がバスジャックをするにあたっての理念、主張が、乗客たちを納得させるものでなければ、乗客たちは「一斉蜂起する権利」を用いて、バスジャッカーたちを取り押さえる行動にでることができる。
バスジャックが無事にはじまると、継続時間、距離が記録され、公表される。
宣誓の内容、乗客の扱いなどはポイントとして足し引きされてゆく。

そうして、バスジャッカーたちは専門のランキング上位や伝説入りを目指し、乗客たちは今目の前にしているのがそれとなるのかどうか、楽しみにするのである。

他の収録作品も、さらりと軽く、そして、面白い。

もしこうだったら。

を存分に楽しんでいる。

それだけでは、ない。

恋人同士である男女の、じつはとんでもないはずの出来事を描いている作品である「二人の記憶」。

二人の記憶が、まったくすれ違っている。
行ったことのない旅行の思い出を彼女に懐かしげに語られ、それならとでっちあげた嘘の旅行の思い出話に、「そうそう覚えてる?」とさらにあるはずのない思い出を付け足して返される。

どちらが正しいのかわからなくなる。

しかし唯一、出会いの記憶だけは、二人同じだった。

それだけあれば、生きてゆける。

これから長く続くだろう二人の歴史に、別の歴史が刻まれていたとしてもかまわない。

男は確信して、二人の一歩へ向けて、踏みだそうとする。

ああ、愛とはかくも強大なものなるか。

トリックを楽しませつつも、なかなかこころあたたまる作品たちばかりである。


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