三崎亜記著「バスジャック」
「となり町戦争」で話題になった著者の短編集。 さらりとしたなかで、思いきり突拍子もない世界観や枠組みを巧妙に醸し出す。
表題作の「バスジャック」では、バスジャックが公的に認められ、様式化し、法的な取り決めもされ、日常の一部となっている。
まずは宣誓するところから、バスジャックは始まる。 宣誓が終わらなければ、まだバスジャックははじまらない。 宣誓がバスジャックをするにあたっての理念、主張が、乗客たちを納得させるものでなければ、乗客たちは「一斉蜂起する権利」を用いて、バスジャッカーたちを取り押さえる行動にでることができる。 バスジャックが無事にはじまると、継続時間、距離が記録され、公表される。 宣誓の内容、乗客の扱いなどはポイントとして足し引きされてゆく。
そうして、バスジャッカーたちは専門のランキング上位や伝説入りを目指し、乗客たちは今目の前にしているのがそれとなるのかどうか、楽しみにするのである。
他の収録作品も、さらりと軽く、そして、面白い。
もしこうだったら。
を存分に楽しんでいる。
それだけでは、ない。
恋人同士である男女の、じつはとんでもないはずの出来事を描いている作品である「二人の記憶」。
二人の記憶が、まったくすれ違っている。 行ったことのない旅行の思い出を彼女に懐かしげに語られ、それならとでっちあげた嘘の旅行の思い出話に、「そうそう覚えてる?」とさらにあるはずのない思い出を付け足して返される。
どちらが正しいのかわからなくなる。
しかし唯一、出会いの記憶だけは、二人同じだった。
それだけあれば、生きてゆける。
これから長く続くだろう二人の歴史に、別の歴史が刻まれていたとしてもかまわない。
男は確信して、二人の一歩へ向けて、踏みだそうとする。
ああ、愛とはかくも強大なものなるか。
トリックを楽しませつつも、なかなかこころあたたまる作品たちばかりである。
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