樋口有介著「夏の口紅」
今までに、見かけては通り過ぎる、ことを散々繰り返してきた作家であった。
誰かに勧められたり、何かに紹介されていたりしない限り、手を伸ばす機会はまずなかっただろう。
だからといって、今回はそんな何かがあったのかと訊かれれば、まったくなかった。
旅先の駅の売店で、次の電車までの間繋ぎのために漫画週刊誌に手を伸ばす。
そんな感覚だった。
かつてそうして手を伸ばした作品、そこに居合わせたのが我が真友たるが由縁のひとつなのか、akdにも心当たりがあるかと思う。
そういった作品は、どんな位置付けの作品であるのか。
本作品。
テレビドラマ的青春恋愛小説であるように思う。
主演女優が、たとえば小西真奈美であったり蒼井優であったり宮崎あおいであったり多部未華子であったりしなければ、座して観ようとは思わない。
失礼。 私的発言であった。
本作品に、上記の女優陣にあたるようなものがあったのである。
さらさらと砂漠の砂のように読み進めていると、「本郷」の地名が出てきた。
続いて「菊坂」
わたしがいつも歩いている地である。 そしてなんと、わたしがいつも歩く通りに、主人公たちが歩いていたのである。
「春日の駅から菊坂――」
うむうむ。 あすこをあちらへ。
「弥生町。弥生式土器の――」
うむ。 それから。
「根津に向かって歩いて、三十分は歩いている――」
ふん。 そんな馬鹿な。
「谷中墓地なら知っている。寺が身を寄せ集まっているその中の――」
石を投げれば寺に当たるくらい、ざっと百近くあるからね。
へへん、と、我が手柄のように得意な気分になる。
しかし、当たり前のことだが、わたしの手柄や功績など、微塵も、バクテリアの糞ほども、そこにないことは明らかである。
そのような縁ある地名がなくとも、はたまたお気に入りの人物がいなくとも、気楽に気軽に楽しめる作品である。
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