小川洋子著「ミーナの行進」
とにかく、泣きそうなくらいにあたたかい物語。
芦屋に住む親戚の飲料水メーカーの社長一家のもとに、母が東京で働くためにひとり預けられることになった朋子。
そこで出会った娘のミーナとその一家との忘れられない大切な思い出。
小川洋子作品に共通する「どこか閉ざされた」世界。 本作では、それは表には出てこない。
いや。
それぞれがそれぞれの内に秘めた閉ざされた世界や秘密があるのだから、出るも出ないも、ない。
喘息持ちで体が弱く、コビトカバのポチ子に乗ってしか小学校に通えないミーナ。 変わった絵のマッチ箱を集め、そのひとつひとつに物語を空想し、書き、ベッドの下にひっそりと納めてゆく。
ドイツがふたつに分かれる前に日本に嫁いできた祖母。 ミュンヘンオリンピックのテレビ放送に、特にバレーボールに首っ引きな朋子とミーナに付き合いながら観ているうちに、日本とドイツの両方が点をとるたびに喜べるなんて、なんて得なんだろう、と拍手する。 オリンピック中のイスラエル団誘拐事件に心底胸を痛める。
ミーナが特にご執心だった日本代表チームの名セッター・猫田選手、横田選手、大古選手らを空想バレーでふたりで再現し、その素晴らしさと魅力を余すところなく伝えようとする。
東京の母に手紙で、
「プレゼントに何でも好きな物、文房具でも玩具でもとありましたが、お洋服もアクセサリーもいりません。 ミーナとするための、バレーボールをください」
とお願いし、「公認球と同じ会社が作ってるボールです」と送ってもらったボールで、ミーナと空想バレーから実際のバレーの練習をはじめ、毎日のふたりの日課となる。
埃とポチ子の糞まみれのボールを水洗いすることも。
すべては、すべてのひとそれぞれが「閉ざされた」思いや世界を内包しているからこそ、あたたかいひととの繋がりが、そこに描かれる。
分厚いからと敬遠するのは、もったいない。
なかなか素晴らしい作品である。
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