「隙 間」

2009年07月15日(水) 予行地来訪たくしーだい

夕刻、ぞわぞわと首の毛を逆立てるような気配を感じた。

「にーさん。仕事しなきゃ駄目じゃないすかぁ」

ふん。
しとるやないのん。
なぁにをカバチたれとんにゃあ。

予行地が、ふわふわとすり寄ってきたのであった。

やめい。さぶいぼたつやないけ。
そんなぁ。嬉しいくせにぃ。

誤解なきよう。
決して肌が触れていたりなど、していない。

断じて。

ただそのていで交わしているお馬鹿な会話である。

「にーさん、と見込んでお願いがあるんですけど」

未婚で、お願い。
うむ。わたしなんぞでよければ。
で、その女子とはどんな女子ぞや。

あー、はいはい。
それでですね。

……流しやがった。
食らいついてやらいでか。

「かくかくしかじかの、仕様書とか要項とか、持ってませんか」

ふっふっふ、
ふっふっふ、
ふっふっふ。
……「ふ」が九、三十六景。

にーさん。それ、まさかあと三十六回やる気っすか。
……すまん。そんなつもりはなかった。
いや。どーしてもやりたいんなら、俺は止めませんよ。俺はさっさと立ち去りますから。
いや。せめて止めてから去ってくれ……。
ヤです。で、持ってるんですか。
……。
持ってるんですね。
……。
わかりましたよ、もう。メンドクサイなぁ。

わたしは眠ったまま、一度も開いたことのなかったブリーフケースの扉を開き、その中からデータを引っ張り出す。

「おおっ。さすがにーさんっ」

なんのナンノ、南野陽子。
……。
おまんら、許さんぜよ。
……もう、いいっすか。
といきーで、ネット……は、便利だねぇ。
……。

「いやぁ、助かりましたよ」

予行地は、トンテケテと笑顔で去ってゆく。

あ、ところで、と引き返してきた。

「今週のどっかで、昼飯いきましょうよ」

うむ。忙しさの波が読めないが、いついつにしておこう。
じゃ、いついつということで。

そのいついつ、がかなうように、祈るしかない。

タクシーで帰るとしたら、いくらくらいかしらん?

そう尋ねられたことだけが、引っかかっているが。


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