金曜の帰り、駅構内のとある書店の店頭モニターで、発売された「ワールド・ベースボール・クラシックへの道」の映像が流されていた。
都内有数のターミナル・ステーションのひとつである。
会社帰りのサラリーマンたちが、腕組みあごをひき、黒山の人だかりを形成し、画面に食い入っていた。
わたしも及ばずながら、画面と画面に食い入っていた皆の姿をその末席にて観させていただいていたのである。
何事かとわたしの脇に紛れてきた若いカップルが、睦事のような口調で言葉を交わし合う。
ねえ、すごいひとだよぉぉ。まだ観てくぅ? いや、もう行こっか。 いいのぉ、観てかなくてぇ? このイチローが打ったら終わりだから、そしたら「どうせ」、サァーッとみんないなくなるから、今のうちに行こうぜ。
サラリーマンたちの肩が、ピクッと、揺れたような気がした。
「大将、後は頼んます」とベンチから川崎宗則が熱く見つめている。 まさに、感動の、あの場面である。
ウワァーッ。
画面の中に大歓声が湧き上がる。 それを観ているこちら側のサラリーマンたちからは、歓声が上がることはない。
すでに一度、その熱い感情と歓声は、吐き出してあるのだ。
大人の、企業戦士たるもの、ぐっと腹で堪えるべきである。
いや。 それだけではない。
先ほどの若者の発言が、皆の耳に、胸に、引っかかっていたのだ。 それだけではない。 それは皆の足までをも、地面に引っかかったままにしていたのである。
ご存知の通り、試合はその裏に日本代表、サムライジャパンが守備につき、守りきって、そうして万々歳、拍手喝采、雨あられとなるのである。
そのときを迎えるまでを、皆がむずむずしながら、固唾を飲んで見守っているのである。
絶対に負けられない戦いが、そこにはある。
やはり皆、サムライなのであった。
ベンチからサムライたちが飛び出す。
そして。
画面の前からサムライたちが去ってゆく。
「どうせ」と云われて、負けてなるものか。
負けられない戦いが、あるのだ。
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