| 2009年05月17日(日) |
三社祭とサルガッソー |
浅草三社祭。
何樫と甘木が観音様を拾い奉ったところからはじまった浅草の伝統行事である。
浅草を歩けば、神輿に当たる。
まさにその通りな日である。 なにせ、およそ四十もの神輿が、あちらこちらからそちらどちらまで、雷門前の雷門通りを根城に行き交うのである。
そのために交通封鎖である。
観光客でふだんは埋まっている仲見世通りも、神輿がくれば、どやどやと道をゆずらねばならない。 さらには、神輿のために雷門の大提灯でさえも、身を縮めて道を開け放つ始末である。
しかし、そのような路上封鎖もなんのその、と一切を気にかけない輩があったのである。
魔の浅草神社前広場。
それはそれは、もう、何人もとどめることはできそうにありませんづした。 ふよふよと漂っているだけかと油断していると、引き潮より早く、もう姿は別のところにあるんですもの。 しかも、じっと、露天の前でにらんでいたかと思うと、ついぞ手も出さずにまた姿が消えたかと思えば、手には獲物を持ち、むしゃむしゃと頬張っていたり、やっぱり何もなかったり。
上州名物「焼きまんじゅう」の串を食いちぎってる有り様は、あれはすごかったね。 口の周りを味噌ダレが汚しているのにも構わず、食いちぎっては頬張り食いちぎっては頬張りを一心不乱に繰り返してるんだからね。 だってひとつが握り飯くらいのヤツが四つも串に刺さってたんだぜ。よくよくあの量を食えたもんだよ。
私はまず、彼が食らいついているハンバーガーの大きさに目を奪われ、それからそれを苦もなく満足げにもしゃもしゃと頬張っている彼に、気がついたんです。 「佐世保バーガー」の前に、皿ほどの大きさと国語辞書ほどの分厚さのそれを、本当に買って食べている者がいるんだ、と。 あの大きさに目を奪われて、気がつくと彼の姿はありませんでした。
ワタシが見たのは、「元祖ジャンボメロンパンの店」と看板のあるところでした。 そこにはメロンパンだけじゃなく、ソフトクリームも売っているんです。 メロンパンは焼き上がりまで一時間待ち、とのことでしたから、ワタシは諦めようか迷っていたんです。 すると隣で、ソフトクリームの品書きを、じいっと、それこそお店のお姉さんが声を掛けるのもはばかるくらいに、にらんでいたんです。 品書きが三十種類くらいあって、たしかに迷いそうでしたが、それは、こういったら失礼だけど、たかがソフトクリームでしょう。 ぶつぶつとつぶやいてたんです。 「黒胡麻、杏仁、え、枝豆っ、さくら、やっぱり抹茶、抹茶みるく、マンゴー、パイン……」 ええ、最初はどこかお経とかお題目の一部をつぶやく怪しいひとなんじゃないかと、ワタシは一歩後ずさってしまったんです。 でも、どうやらどれを注文しようか迷っているんだな、と怖さはなくなったんですが、やっぱり不気味で、すぐにワタシは自分の完熟マンゴーソフトクリームを受け取ってそばを離れたんです。 ワタシのソフトクリームを見て、何やら納得したように頷いたようだったんですが、もう、それきりで。 だけど、その後すぐ注文していたようには見えませんでした。やっぱり腕組みしたまま、じっと品書きをにらんでいたような。
おそらく、上記のような目撃談を拾い集めることは至極容易であろう。 縁日の露店街は、サルガッソーのごとく、わたしを深く絡めとる。
かつて、銀河鉄道999でサルガッソーの回があった。
宇宙の底は、底がない。
ということで、飲み込まれた列車ごと、しまいに反対側から突き出て解決する、という顛末だったのだが、それに似た通りである。
ふらふらと品定めし、吟味し、比較し、ときには衝動的に、端から端へと辿ってゆけば、端の先は、外である。
ぽんぽんと腹を叩きながら、満足げに、苦しげに、雷門をくぐって出た。
わたしのために、やはり大提灯は身を縮めて道を空けてくれていたのであった。
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