| 2009年05月12日(火) |
「ブラフマンの埋葬」 |
小川洋子著「ブラフマンの埋葬」
僕が夏のはじまりのある日に出会った不思議な生き物――ブラフマンと名付けた――とのひと夏の物語。
ブラフマンは、ボタンのような鼻とひげをもち、肉球とそこに折り畳んで隠された水かきももっている。 体長の一.二倍の長さの尻尾があり、全身と同じ短い体毛が生えている。 鳴かない。鼻息で鼻が鳴るだけで、意思疎通のために、思慮深くじっと僕の目をみつめ、僕の話に耳を澄ませる。
暗闇と孤独を恐れ、駆け回っていても必ず、僕の位置を確かめる。 夜寝るときは、僕が電気を消す前に必ず僕のベッドに潜り込み、その前に暗くしてしまうとパニックをおこすか、ひどいことをするじゃないですか、と訴えるような目で僕の目をのぞき込む。 僕が寝返りをうってブラフマンから離れてしまったりしないよう、彼は自分の尻尾を僕の足にからめ、僕の方を向いて横になる。
扉も引き出しも、鍵さえも開けて、中身を引っ張り出し、おもちゃ代わりにかじったり丸めたり、撒き散らしたりする。 悪いことをしたとその場は物陰に小さくなるが、顔は、わたしはなぜこのような有り様になってしまっているのか皆目見当がつきません、と不思議そうに僕の目をみつめる。
とにかく、ブラフマンが愛くるしい。
癒されること間違いなし。
しかし、忘れてはならない。これは小川洋子作品なのである。
最期に僕は、ブラフマンの鳴き声を聞くことができる。
「ブラフマン」の埋葬とは、なかなか意味の深いタイトルでもあり、読後にあらためて、タイトルの意味を様々に、思いしらされる。
癒されることだけでも、是が非でも、本作品を読んでみることを勧めたい。
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