「隙 間」

2009年04月15日(水) 魚屋さんが驚いた。ぎょっ。

鯉が、口を開けていたのである。

橋のしたで、群をなして。ぱくぱくと。

濁った水面に、墨でひと書きしたようなその「入り」のところだけが、白っぽい輪が閉じたり開いたりを繰り返していた。

これが「鯉」の口ではなく、「恋」の口であったなら、なんてよりどりみどりなんだろう。

飽きもせず、意地になっているようすでもなく、ぱくぱくと繰り返している。

口の輪の中をひとつひとつのぞいてみると、うす暗く濁った闇がうずくまっているようだった。

薄いのや濃いのや、
白っぽいのや真っ黒なのや、
じっとしているのやもぞもぞ蠢いているのや。

指を入れてすくってみたら、きっともっとはっきりしたことがわかるかもしれない。

ポケットの中で、指がむずむずしてきた。

やめておこう。

鯉も、恋も、軽いお試し気分でひっかき回してみるものじゃあない。

だけど、指に吸いつかれた感触が、ざらりとした心地よさのようなものだったような気がして、なかなか捨てがたいようにも思えてくる。

ぶるる、と身震いをして、やっぱりやめておこう、と胆を決めた。

こっちの水は、ああまいぞ。

端から順に輪唱がはじまってゆく。

えい、やかましい。
ただじゃないことは、おおかたわかっているのだから。
魚心あれば水心。

ぎょっ。

と、図星にされた悲鳴が、また端から順に輪唱がはじまってゆく。

滝のようにうめき声が背中に降りそそぐ。

登ってやらいでか。


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