「隙 間」

2009年04月02日(木) 「蘆屋家の崩壊」と旅と食い物

 津原泰水著「蘆屋家の崩壊」

 幻想怪奇短篇集。
 お馴染みの組み合わせの、落ち着いた第三者である男と語り手である頼りないが騒動の渦中にいつも巻き込まれる、いや、騒動の種を呼び寄せる男のデコボココンビ。

 だからといって、騒動を解決したりはしない。

 騒動から逃れる。
 そこまで。

 そこまでで、律儀に分をわきまえている。

 ちなみに「蘆屋家」とは蘆屋道満の一族のことであり、道満とは、陰陽師の安倍晴明のライバルであったらしい。

 もとい、デコボココンビのそもそもの発端は、

「無類の豆腐好き」

 で、美味い豆腐があると聞けば、北海道だろうが沖縄だろうが、飛んででも食べにゆく、ことが奇妙にも見えるふたりの繋がりをもたらしたらしい。

 豆腐でなくていい。

 美味い「何か」を、たらふく食いたい気にさせられた。

 さて。

 品川駅のアトレの前で、その向こうにツアーの誘導手旗が人々の頭の上に、にょきっと突き出していた。

 フランス国旗である。

 近づいてくるにつれ、ツアー客の面相がわかる。
 二十人ばかりの、おそらく全員がフランス人の御一行だろう。
 年輩者ばかりだったが、並みの年輩者ではない。

 御年八十から九十歳に容易に足を踏み入れているような方々ばかりである。

 しかも皆、自立して歩いておられる。

 なかには手をとってもらっている方もおられたが、それでも「手をつなぐ」程度のものであった。

 車椅子も、杖さえも、誰ひとりついていない。
 直角に背中が曲がってしまっていても、である。

 想像してみよう。

 そんな御年で、旅行にゆけるだろうか。
 周りが悲しいかな、「心配だ」ととめるだろう。
 まして海外、陸続きの欧州内ではなく、地球の裏側である日本へ、である。

 旅行が文化・生活の一部であるのかもしれないが、驚かされてしまった。

 もちろん、一部をみてそれがすべてだと、安易に決めつける気は毛頭ないが、しかしそれでも、である。

 若輩者ではあるが、いやもはや「若」という歳でもないのだが、未熟ということにおいては十分「若輩者」であるのでそういわせてもらうが、旅に出て、何か食いたい。

 諸々が許されるか、いつぞやのように衝動に駆られるのを、待とう。


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