突然ではあるが、上野の西郷さんに、夜、会いに寄ってみた。
なんとゆうことか。
西郷さんの背後に、チカチカとイルミネーションが輝いているではないか。
もちろん、ご本人が、ではない。 そんなことがあったらたまらない。
「チエィースっ!」
と、およばすながら、わたしが薩摩示現流の真似ゴトで切り払って差し上げることであろう。
西郷さんの背後にそびえ立つ、立派な大樹が、チカチカとクリスマスでもないのに着飾られているのだ。
わたしは、イルミネーションがダメである。 あちらがチカチカ瞬かずとも、わたしの謙虚で臆病な目のほうがへいこらしてしまい、固く閉じてしまうのである。
だから、いつもの帰り道には、イルミネーションがない道を選んでいる。
西郷さんは背を向けて立っているから、まぶしいことなどないのだろう。 しかし、自分の背後が賑やかにチカチカしているのは、たいそう気になるはずだ。
振り向きたくても、振り向けない。
気になったまま、自分の目でたしかめることもできないまま、ずっと、毎晩過ごさなくてはならないのだ。
凛々しく、威風堂々と気取ってご主人様の傍らに鎮座している愛犬も、一緒に背を向けてしまっているのだから、なんともできない。
いや。 得意げにしていることだけで精いっぱいで、背後のそんな一大事にすら気づけていないのかもしれない。
だからあんなふうに、すまして気持ちよさそうにしていられるに違いない。
こっけいだけど、なんだか愛らしいので、わん、と吠えてみた。
突如、暗闇のなかからわたしに吠えられて、きっと、喧々囂々、だったに違いない。
チカチカの逆光でよくは見えなかったが、西郷さんの顔が、ムツカシイ顔をしていたような気がした。
わたしはこの足で弁天様のとこに行きますから、どうぞおかまいなく。
とぼとぼと池の弁天様のとこに向かうと、ぴったりと戸を閉ざされてしまっていた。
こんな夜にきているのだから当然である。
美容のためと、きゅうりやなすのスライスでパックするのに大忙しなのかもしれない。
それとも、お隣の大黒様と杯を酌み交わしていい感じになっているのかもしれない。
どうせわたしは下戸ですよ。
帰って、ごきゅごきゅと野菜ジュースをラッパ飲みした。
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