「隙 間」

2009年03月08日(日) 「海」

 小川洋子著「海」

 短編集なのだが、「ガイド」がわたしにとって秀作だった。

 ガイドが母の少年とツアー客の老人が出会う。老人は職業を、元は詩人だったがやめてしまって今は「題名屋」だという。
 思い出に、それにふさわしい題名をつけてやる仕事。
 題名のない思い出は忘れ去られやすいが、題名があれば、それは忘れにくく、また思い出しやすい。

 そして。

「詩など必要としないひとはたくさんいるが、
 思い出をもたないひとはいない」

 グサリと、くる。

「HOW TO」本を必要とするひとはいても、
 小説を必要とするひとは少ない。

 である。

 著者もそれに触れ、苦笑いしている。

 しかし少なくともわたしは小川洋子作品が、好きである。

 日常のなかの、ありふれた満ち足りているなかに潜んでいる不完全さ、である。

 その不完全さが、とても触れがたいほどの聖性をおびた、愛しいものとして描かれている。

 これほどまでの力を孕む言葉たちを紡ぎ出すことが、できるのだろうか。

 いや、やらねばならないのである。


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