確定申告である。
昨年は家賃ほどの還付金をいただいたので、今回もそれをわずかながら期待していた。
しかし、忘れてはならないことを忘れていた。
昨年、つまり一昨年はほぼ失業者であったのだから、それだけの還付金になったのである。
今年は違う。
医療費控除のみである。 束になった領収書だけが頼りなのである。
期待は、しおしおと音をあげてしなびてゆく。
「還付金ていっても一万円くらいじゃん」 「『くらい』っていうけど、お洋服買えるじゃない」
前に並ぶベビーカーを押す若夫婦である。
「この子のだって、何十着、て買えるんだよ。ありがたいじゃない」
旦那はへの字に閉口した。
いかにも。
若夫婦は上野税務署管内に住まわれているようであり、「何十着」という数字はうなずける。
にっぽり繊維街もあれば、商店街の小店もあることだろう。
わたしは、あわよくばとよからぬ企みをしていた自分に、その若奥様の言葉をよおく言い聞かせた。
わたしも、への字に閉口した。
しかし、への字のすき間から、ささやかな企みがぷすぷすと漏れ出そうとする。
漏れ出したものが何なのかは、わたしにも預かり知らないものである。
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