「隙 間」

2009年02月09日(月) 「なぎさの媚薬8」とやり直し

 重松清著「なぎさの媚薬8なぎさ昇天」

 シリーズ最終巻。

「こんなにもせつなくて甘酸っぱい官能小説、あっただろうか?」

 みずからが作り出す媚薬によって、幾多の男たちを絶望から救い出してきた「なぎさ」。

 白い霧に包まれていたなぎさ自身の謎が、溶かれてゆく。

 このシリーズの、いや「なぎさ」の背景は、実は桐野夏生さんも、おそらく同じ事件の被害者を元にして描いている。

 切り口や視点や語り手は全くの別物ではあるが。

 正直な感想として、結論にたどり着かせるために、重松さんの流れのようなもので描かれていなかったように思う。

 しかし、胸をえぐる言葉はある。

 自分の媚薬を使っても、決して使った男自身の人生は変わらない。それなのに自分は男を救ってあげられているのか疑問に思うなぎさ。

「男は、自分が幸せにならなくたっていい。自分がいちばん大切にしている人を幸せにしてやることができれば、それがなによりの幸せなんだ」

 男に限った話ではないが、幸せとは、やはり自分でつかむだけのものではない。
 そんなものは、つかんだところでたちどころに、雲のように指をすり抜け、またもくもくとあやしげな灰色を帯びて湧き起こる。そしてそれを果てなく繰り返すにすぎない。

 このシリーズにおいて、男は重要なそれぞれの分岐点である過去の、自分が知らなかった背景を見たり、またそのときに戻るが、自分に関しての未来、つまり、現在を変えることはできない。

 やり直せるとしたら、いつに戻りたい?

 あの頃、あのとき、などと思い浮かぶ過去の日はあるが、それで今の現在の自分を変えたい、という思いは、ない。

 いや、ほんの少しだけなら、ある。

 しかし、ものぐさなわたしである。

 中途半端に戻って、そこからやり直すなどと面倒くさいことは気が進まない。

 今の友らとも、関係が変わってしまっていたり、関係がなくなってしまっているかもしれないなど、あまりの恐ろしさに悪寒がはしる。

 あたらしい可能性をもった出会いがあるかもしれないじゃないか、というならば、それは必要であるならばこれからもあるだろう、わざわざ戻ってまですることのほどではない。

 おぎゃあ、と生まれるところからならば、潔し。

 なにはともあれ、今は「生きている」。
 せっかく生きてきたのだから、やり直すなんぞ勿体ない。

 いや、もちっとはマシな人生をやり直せるかもしれないが、今は今のでもよしとできる。

 いまわの際に、そう思うかはわからないが、そんな心配は今しても仕方がない。

 おそらく、たとえそうでなくとも、そうだったと自分を思い込ませるだろうことは、間違いないとは思う。


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