| 2009年01月26日(月) |
やわらかく抱きしめる |
寒さで指先もつま先も、なぜかあごの付け根まで、じんじん痛いくらい冷えきっていた。
車がわたしの横を通り過ぎるたびに、襟元を引き締め、恨むような目でその一台一台をひとにらみせずにはいられない。
にらんでも、それで引き返してきて謝ってくれるわけでもないのだから、なんのなぐさめにもならないとわかっている。
だけどそうせずにはいられず、やるだけやって、そしてかくかくとまた歩き続ける。
ようやくたどり着いたいつものお弁当屋さんは、いつもらしくないくらいにひとがひしめいていて、それぞれがそれぞれのお弁当ができあがるのを、肩やひざをゆすったりしながら待っていた。
わたしはお店のおばちゃんの「ごめんね、だいぶ待たせちゃいそうなのよ」といいたげな目に、「いいですよ。背に腹はかえられませんから」と、目でかえす。
どうやら調理担当の女の子が新人らしく、段取りやら勝手やらに慣れていないようだった。さらにこの次から次へと舞い込む注文に、彼女自身がキッチンのなかでくるくる舞い回ってしまっていた。
ほら、これが先でしょ。 こうしておいて、次はこっち。
おばちゃんはベテランなので、レジに押し寄せるお客さんたちを、ひらりひらりとさばきながら彼女にアドバイスをおくっていた。
そう、それでこれには唐揚げも一緒だから忘れないでね。 ほら、急いでも忘れたらだめになっちゃうんだからね。
そういわれている彼女の頭上に、あたふたあたふた、という文字が見えてきそうだった。
砂時計の砂が、たとえひと粒ずつでもやがて落ちてなくなってゆくように、ひとりずつお店のドアからできたてのお弁当を片手に出て行く。
わたしは行列に並ぶのは嫌いだけれど、冷たい外の風でかちこちに固まった指先やあごの付け根が、あたたかい店内でじわじわとほぐれてゆくのは気持ちがいいので、しばらくじっとほぐされていたいと、よく思ったりしている。
とろんと身体だけでなく、視界までとけだしてしまいそうになったとき、
「お待たせしました」
おばちゃんの声が、とけだしてだらしなくなりかけていたわたしを、わたしの身体にすくって戻してくれた。 身体のなかで、まだふるふるとさざ波をたてているわたしに、
「はい、どうぞ召し上がれ」
「召し上がれ」の言葉が、最後のひと波にもぐりこむ。
「いただきます」
わたしは「召し上がれ」をやわらかい、ふるふるしたもののなかにそっと閉じ込め、崩れてこぼれ落ちてしまわないように気をつけながら夜道を早足で帰る。
ちょっとくらい駆けたって、きっとだいじょうぶ。 寒さでまたかたまりかけてるから、それはこぼれ落ちたりしない。
だけど両手で、温かいお弁当といっしょに抱え込んでしまっているから、やわらかくなってしまうかもしれない。
だけどだけど、そのぬくもりは両手で抱えずにはいられないんだもの。
この軒先をくぐれば、もうすぐ。
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