「隙 間」

2009年01月24日(土) 名も無き背中

 さて朝、目覚める。

 部屋の都合上、わたしの足元のほうでTの字の形で友が寝ている。

 ごそごそと彼が起き、だからといってわたしも起きなければ、という気持ちはあったが、そうはいかない。

 しかし、わたしの携帯が目覚ましの振動をあげはじめた。

 起きぬわけにはいかない。

 テレビをつけ、TBSに合わせる。番組最初のブックコーナーに間に合った。
 そうして気がつくと昼になり、食事と買い物をしに出かける。

 友はその足で帰るため、大荷物をしかと肩から下げている。

 買い物というのも、友がパソコン関係の機器を購入したいとのことだったので、我が家がある谷中から秋葉原まで向かうことにした。

 我が家から秋葉原にゆく場合、まず日暮里駅に歩いてゆくのと、上野、御徒町駅に歩いてゆくのは、五分程度しか変わらない。
 御徒町からはすぐ秋葉原のビルが見える。

 であれば、歩いてゆこう。

 ということにした。

 重い大荷物を、友は肩から下げたままである。

「駅の階段を上り下りするのを考えれば」

 ありがたい言葉をもらい、背を押してもらった。
 押されずとも勝手に歩いてゆくのだが、やはりありがたいのは心強さをもらえる。

 森鴎外住居跡を、塀の隙間から、ちらとのぞける道を回り、上野から秋葉原へとぬける。

 途中トイレに寄った際、その間に荷物を持つくらいの、ささやかすぎるくらいの手助けはさせてもらった。

 そうして秋葉原の某量販店にて品物を物色し、会計時にわたしのカードを使ってもらった。

 支払いは友自身のカードだが、付録をわたしのカードにつけてもらうという、厚かましい願いを聞いてもらったわけである。

 しかし、一緒にいるとつい、こちらも買い物をしたくなる。

 会計の列に並ぶその直前までいってしまったが、なんとか思い直すことができた。

 危うかった。
 列が長蛇でなかったならどうなっていたかは、容易に想像ができる。

 せっかく友につけてもらった付録は、大切に有意義に、使わせてもらおうと思う。

 そうして友は、そのまま、愛する妻子が待つ家へと、急ぎ足で改札を抜けていった。

 急ぎ足で帰りたくなる家がある友の背中は、小躍りするように、じれったさに急かされるように小刻みに揺れていた。

 その背中が他の背中に紛れて見えなくなると、わたしはようやく、名も無きただの背中のひとつになってゆく。

 名も無きものが名を持てる。

 友は、よいものである。


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