夢見る汗牛充棟
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2000年01月22日(土) raruru

「raru-ru」


銀杏通りの一つ裏路

呼び名もない暗い小路

しばらく行くと

影に沈んだ古びた店

看板はなく

木の鎧戸は固く閉じ

呼び鈴も音を忘れた頑なな扉

もしもあなたが見出したなら

ゆっくり押してみるといい

重たい扉は軋んで開く

そこは密かな人形工房

壊れた椅子に腰掛けて

顔も上げない男が一人

澄んだ瞳に夢の色合い

傍らにひっそり寄り添って

人形が見つめるその姿



彼が長い年月と

褪せない思い出

思慕と祈りを吹き込んで

創り上げた人形は

名前をraru-ruというのです

彼女は昔小鳥のように

身を翻して歌っていた

その口ずさむ旋律を

忘れぬようにraru-ruと

娘のような恋人のような

妻のような魂のような面差しをした

raru-ruの眼差し深き空の蒼

永遠の菫のような微笑みを

口元にたたえ

頬にたゆたうその優しさ

けれど聞こえるその歌は

過ぎ去りし時の影法師

耳に届かぬ心の歌を

聞くたび男は涙をし

目元の皺を深くする



男とraru-ruその場所で

時の川底沈んで暮らす

流れる水面に太陽が

幾度ぬくもり注ごうとも

輝く水面は流れゆき

水底までは届かない

男の傍らで

ついまでともに微笑むかたちは

魂だけが足りなかった

魂だけが足りなかった

だが男もまた



なぜなら彼女は行ってしまった

何故なら彼女は行ってしまった


恵 |MAIL