★悠悠自適な日記☆
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早朝5時、私は部屋中に新聞を敷き詰め、もう一度鏡の前の自分と向き合った。私は決意した。
短い髪に憧れていた訳ではなかった。前日まではパーマを当てたいと思っていた。しかし私は右手にハサミを握っている。まずハサミでとことん短く切って、それからバリカンで一気に刈りあげよう。当初の計画はこうだった。
私は坊主頭にするつもりだった。理由は簡単だ。今の髪の毛に我慢ができなくなったからである。
私は頭皮にアトピーがある。中学2年生の時に突然発症した。牛乳やタマゴ、動物のような外的なものには反応するのではなく、主な原因はストレスからくるものだと言われている。当時の私のストレスなんて全然覚えていない。しかし一度発症するとやっかいなのがこのアトピー性皮膚炎。現在の私の体は完全にストレスに弱い体に出来上がってしまっている。私自身がそれほどストレスを感じていないと思っていても、体がついてこない。いくら私が気合十分、やる気満々であっても、体がそれを拒んでしまう。今の私は「頑張りたい気持ち」と「頑張れない体」の戦いの渦中に存在している。
私は去年大学受験に失敗した後、体のことを考えて浪人することを両親から反対された。しかし私はどうしても自分のやりたい勉強を諦めることはできず、もう1年頑張ることを許してもらった。ところがいざ体を気遣いながら勉強をするとなると、口で言う程容易ではないことが身にしみて分かる。右手で鉛筆を動かしていても、左手は無意識のうちに頭を掻き毟っている。そこで落ちてくるフケが気になって、更に掻き毟る。勉強をしていたはずの脳はいつのまにか停止している。あまりにも気持ち悪いので髪の毛を洗う。が、乾燥してまた痒くなる。他人の目が気になる。こんな自分の体にイライラする。こうして悪循環を繰り返してしまうのだ。
アトピーのせいで私の髪はパサパサになってしまった。理想からどんどん離れていく私の髪に、私は耐えられなくなった。自分の髪にリセットをかけたい。そこで私は肩まで伸ばした髪を一度全部切り落とそうと考えたのである。
女の子が坊主頭になる―誰が禁止した訳でもないが、日本でこれを自ら実行する人は、それなりにポリシーを持っているような少数派で、私の状況とは違うように思う。私は怖いと思った。できることならやりたくないと思った。しかし、やらなければ今に自分から開放されない。
―ザク。私はおもむろに髪を掴んでハサミを入れた。しかし手に掴んでいた髪の束は一瞬のうちに、パラパラという音と共に私の頭から離れていった。ザクザクザクザク―続けて私は掴んでは切り、掴んでは切る。何も考えず、ただ無心に私はハサミを入れ続けた。
後はバリカンで刈り上げるのみというところまで切って、一度ハサミを置いた。あぁ、自分はとんでもないことをしてしまったのかもしれない。切るまでの過程に後悔はないが、切り終えた結果は不安でならない。鏡を直視するのが怖かった。こんなにも鏡を見るのが怖いと思ったのは生まれて初めてかもしれない。
いち、にの、さん―息を呑んで下向きだった頭を前に上げる。するとどうだろう。予想ダニしなかった光景が目に飛び込んできた。なんと私の髪型が、クラスの男の子達よりも短い短い髪の毛が、自分にとてもよく合っているのである。私はしばらくの間呆然と立ちつくしてしまった。
ふと我に返り、最初の決意を思い出す。坊主頭にするのではなかったのか。こんな中途半端なところでやめてしまっていいのか。自問自答を繰り返す。けれど私はこの先の作業に入る気にはなれなかった。
坊主頭にしたら、キレイな髪のカツラを買って、とにかく人目につかないようにすることばかりを考えていた。しかし坊主頭の一歩手前のその時、私の中に芽生えたものは新たな自分に対する欲望だった。あんな服が似合うかもしれない、こんな格好をしたいかもしれない―様々な可能性が次々と頭に浮かんでくるのである。
パーマを当てたいと思っていた私が坊主頭になることを決意し、その一歩手前で新しい可能性を見つける。頭の痒みはつらいままだが、その中で私はちょっとした自分探しの方法を発見した。
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