Leonna's Anahori Journal
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グレゴリー・コルベールの "Ashes and snow"を観にお台場へ出かける。
最寄り駅の青海でゆりかもめを降りて歩いているうちに、強風が吹いて雨粒が落ち始めた。必死でヴィーナスフォート裏の会場を目指すも、目前で大雨(豪雨と呼んでいい)につかまってしまった。なりふり構わず会場入口へ走りこむ。息を整えつつ前をみると、丘の上に巨大観覧車が鉛色の空に向かってそびえ立ち、海側から射す鉛色の光に下方から照らされて何やら異様(地獄の一丁目みたい)な景色が広がっていた。 会場のノマディック美術館は、貨物用のコンテナを積み上げて作った仮設美術館だ。中へ入ると広くて薄暗い空間に大きな写真がズラリと展示されている。見上げれば、壁はたしかに船積み用のコンテナをドンドンドーンと組んだもの。とっさに、地震が来たら恐いなこりゃと思ったが、この日この美術館を揺るがしたのは、地震ではなく暴風雨。館内に静かに流れる音楽をかき消して、屋根代わりのシートを雨が叩き、風がばたつかせる。いっそ音楽を止めてこの自然のBGMだけでもいいと思ったくらい。そうしたらまるで、本物のジャングルの中にいるみたいだったろう。
映像作品は三本。三ヶ所のスクリーンで、それぞれ繰り返し上映していた。 どの作品にもたくさんの動物が出てきてうれしくなってしまうのだが、しかしこんな映像をいったいどうやって撮ったのだろう。きっと何年もかかって、来る日も来る日もフィルムを回し続けたのに違いない。私たちが目にするのは、そのすべてのうちの何百分の一でしかないのだろう。
動物以上に印象に残ったのは、水(雨、川、海)や砂漠の砂などに直接身をゆだねる人間の姿。どの映像も独特の皮膚感覚に満ちていて、これがコルベールという人の特徴だなと思う。中でも一番長い作品に出てくる、一組の男女の水の中でのパフォーマンスは、最高にエロティックで、素晴らしかった。あの絵は陸に上がっては無理、水中でなければ撮れない。 けっこう長居して、表に出る頃には雨風も収まっていた。湿気がとれて、来たときの蒸し暑さがうそのように空気がひんやりしている。寒さと、広い会場を歩き回った疲れで「コーヒーが飲みたい」と思ったけれど、この仮設美術館にはカフェがないのだった。残念。 -- あとから知ったのだが、この"Ashes and snow"は、2002年にヴェネチアのアルセナレ(海軍造船所)からスタートして世界を巡回しているらしい。 アルセナレは、私と友だちがヴェネチアで滞在していたホテルの運河をはさんだすぐ隣だった。霧の出た夜に、橋を渡って散歩したことがある。水に落ちるのではないかと思うと恐くて、それでもずっと歩いていたかった。
ヴェネチアで"Ashes and snow"って、ちょっと似合いすぎる。きっと、すごく官能的な展覧会だったんだろうな。
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