Leonna's Anahori Journal
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少し前に、叔父が本を出した。
夜遅く帰宅して、郵便受けを開けたら書籍とおぼしき郵便物。amazonのユーズドで本を注文したときとよく似た体裁だったので、あれ、何か買ったっけなと思いつつ差出人を確かめると叔父さんからだった。
この叔父は母の五人いる弟のうちのひとりで、大学時代は海洋学部で船に乗って海底の地質調査や地熱の計測をしていた。そうして、卒業後はそのまま大学の出版会に入って定年まで勤めた。去年、法事で会った時に「地球の体温を測っていた時のことを本にまとめているんだ」と言っていたが、その本が出来上がって、私のところへも送られてきたのだった。
メインは観測船に乗ってヒートフロー(地殻熱流量)を調べたときの太平洋航海記なのだが、さわりの部分には、生まれ故郷のことや浪人・予備校時代のことも書かれている。この浪人・予備校時代、上京した叔父は一時東京で、私たち家族(父と母、幼児だった私と途中から登場する妹)とひとつ屋根の下に暮らしていた。
それで、本には三歳児だった私も登場してくるのだった。 姉(私の母)の家から下宿へ引っ越す前日のこと。夕食にはビフテキがならび、それとは別に姉が尾頭付きの魚を焼いてくれた、お小遣いも貰ったとある。そして翌出発の日、昼食に赤飯をいただいた、姪の×××(←チマリスのリアルネーム)は、お花とかつお節を紙に包んでくれた、と書いてあった。
お、お花とかつお節を包んだ…。なな、なんと可愛らしい!とても自分のこととは思えない。この家(私が生まれて最初に住んだ場所)のことはわりとよく覚えているつもりだったが、さすがにこのことは記憶になかった。暫く、子供時代の自分の可愛らしさに鼻まで浸っていい気分になっていたのだが、改めてその前後の光景を読むと、考え込んでしまった。
「姉は背中に○子(←妹のリアルネーム)をおぶって涙を流した」と書いてある。まだ若かった母が、下宿へ越してゆく弟を見送りながら泣いている。ほっそりとしたその背中には、生まれて間もないわが妹がくくり付けられている。その文章のなかに母が生きていた。「書かれる」ということは新しく命をもらうということ、なのだろうか。
目からなにか出てきたあたりで、本を仏壇にあげて「叔父さんの本です。ママもあたしのことも書いてあるよ」と報告した。こんなことを言って何になるのか(誰が聞いているのか)わからない。 しかし、書かれることによって生き返った母は、本の中で、その若さを保ったまま、弟を見送りながらいつまでも涙ぐんでいるのだった。
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