脳が沸騰して。 - 2003年09月20日(土) この前会ったその大作家は、デビューしたばかりのまだ新人の頃、浦沢氏の漫画の原作を書かれたそうだ。 浦沢氏は今では『モンスター』『20世紀少年』『YAWARA』のヒットを出し、押しも押されもしない巨匠にまで成り上がっているが、大作家が原作を書かれた頃、浦沢氏は短編を出してもなかなか人気が取れず、もう売れる見込みもなくなってきていたので田舎に帰ろうかどうしようか迷っていた。 そこで大作家が取り上げ、それがきっかけで少しずつ人気が取れ始めたようだ。 やっぱり崖ップチにいた人が、一躍大作家になるようなことは沢山あるのだと思った。 林真理子氏も、全く小説を書いたことも無い頃、編集者見城氏が、あなたは直木賞を取れると言ったらしい。 「わたし小説を書いたことも無いですよ」と林真理子氏。 そこから、二人格闘の日々が7年も8年もあってやっと直木賞にたどり着く。 コピーライターをやっていた林氏が小説の文章を書けるようになるには、ずいぶん苦労があっただろうと思う。 一度染み付いた文章の形を別のものにしたりするのは、初めから初心者が小説の文章を覚えて書き始めるよりも、かなり難しい作業になるからだ。 若くして賞を取ったというのは遠目に見た人が言う話で、実際は長い長い格闘の日々があったのだった。 昨日まで東京は暑かった。 一日中エアコンをつけて、それでも暑かったのに、今日になってから気候は一転、秋になってしまった。 8月は涼しく、9月に入ってから暑い夏がやってきていた。 連日の30度以上で33度という日が何日も続いた。 おかげで脳が沸騰していて、ちゃんと頭が働いているのかどうか不安なまま仕事をしていた。 毎年のことだけれど、夏に描いた漫画は質がガクッと落ちる。 そして今日から秋。 朝起きてからしばらくしてだんだんに頭が冴えてきた。 昨日まで書いていたものを頭の中で再検討し始めた。 いけない! やばい! ちょっと質を落としたものを描いているかもしれない。 後で書き直しにかかろう。 いくら頑張ってもうまくいかない。 力が無いのなら頑張ってもうまくいかない。 頑張れば何でも出来るというのは素人の世界でのこと。 プロの世界ではそうはいかない。 小説家は大手の出版社で出している新人賞をとっても、本当に力がついてくるまでたいていは10年くらいはかかってしまうようだ。 賞を取るような人の中で才能が無いなんて人はおそらくいない。 大手の賞を取る人はみんな才能はあるのだった。 ボクは小説家ではなく、漫画家で、編集者はことあるごとに僕の才能を解説する。 編集者に言わせると、僕は才能があるのだそうだ。 でも当の本人はいくら解説されても、じゃあどうやってその才能を、自分のいい所を出すのか? 結構自分には自分自身が見えないもので、それはいろいろやってみて相手の、そして読者の反応を見て、一つずつ自分の才能に近づいて行くしかないのだろうか? 描ける人はもっと初めから自分のいい所を丸出しにした状態で新人賞を取り、デビューしてくる。 でもそんな人は10年に1人だったりする。 この前、大作家に会って気がついたことがある。 いろいろ才能を解説されるのも、自分の才能に近づく一つの方法だけれど、こちらの抱えているジレンマや、もっている病理についてうんうんと頭を縦に振って神のような大きなふところで聞いてくれることが、遠くにある自分の才能への道を一番大きく縮めてくれるものなんだなと思った。 大作家は繰り返し何回も言われた。 あなたはそのうち大物になる。 それは、大作家な優しさだったのかもしれないし、哀れみだったのかもしれないけど、とにかくボクにはその言葉を信じるしかないのだった。 信じる立場にしか自分を置けないのだった。 この大作家に原作を書いてもらい、その後、力をつけて巨匠になった人は何人もいる。 そして、一旦漫画家が有名にになってしまうと、その大作家は興味を無くし、もうその漫画家には見向きもしないのだった。 こんなに有名であるにもかかわらず、サイン会などやると、2時間待ちの行列が出来るほどの人気があるにもかかわらず、大金持ちでないのは、おそらくその辺の所が起因しているのだろう。 今、大作家の神通力で、もしかしたら一気に才能に近づいているのかもしれない。 -
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