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2005年06月01日(水) ■ |
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『六月の夜 鎌足さんが来る』 |
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私の部屋はアパートの三つ並んだ真ん中の部屋で両隣には人が住んでいる。
右側には三世帯くらいの大所帯。以前洗剤を持って挨拶に行くと丁寧に対応し三日後に余った天ぷらをおすそ分けしてくれた。 この頃はなぜか姿を見せず、人の気配がないがある日玄関に新聞屋さんにしばらく止めておいてと書かれた紙があったので、とにかく無事ではあるらしいことに安堵。どうやら実家が別にあるみたいだし急用で一ヶ月くらい家を空けていてもおかしくはないと思う。早く帰ってこないかなあ。そう考える程度だ。
左側には女の人が住んでいる。なんというか、特に形容の方法もないが普通の女の人。あ、まゆげがちょっと太い。 突然何の前置きも無く隣に越してきた、普通の社会人さん。おかげで今まではきがねなくテレビをつけていたが少し音量を落としている。 隣に迷惑がかかりそうなので、多分ウチで飲み会が開かれることは無い。 彼女の名はヘルレイザー・鎌足。だそうだ。
「……ヘルレイザーですか」 「はい、ヘルレイザーです」 「……えーと。どこの惑星の御出身で?」 「あははは、ご冗談うまいですね」 笑えない。 「あの、お聞きしていいのかわかりませんが、どうしてそのようなお名前なのでしょうか?」 「私の仕事に関係しておりまして、本名は別にあるんです」
……芸名かよっ!!
「それより、私も聞いてよろしいでしょうか?」 「あ、はいなんでしょうか?」 鎌足さん(仮)曰く。 「え、と……学生さんですか?」
その時私は浴衣に半纏で玄関に立っていた。
まだ二日しか経っていないが、日が昇っている間に隣から物音が聞こえたためしがない。よっぽど静かに生活しているのか、それとも仕事時間が遅いのか……
そんなわけで、鎌足さんが来た。
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