独り言
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2006年12月22日(金) 『オレンジジュース』後記

全4回に渡り掲載した『オレンジジュース』

まず初めに、この物語は全てフィクションであり幾つかのシーンとそれに付随するストーリーが登場しますが、その中で私が実際に経験した事がある物等一切無いと言う事を堅くお断わりしておきます



「…バンド解散?聞いてないわよ…」




「…そして日記の中では子供が産ま……お父さん!!おとぅうさぁーんっ!!」


という声が遠く北の大地に響かない様にね

私の親兄弟も見てる恐れがあるのでね

当然、人もあやめてません
私は喧嘩した事さえないんですから



…本当ですよぅ…まったくもぅ





物語は平凡な日常を生きる男の、平凡とは思い難い視点で描かれています

彼がどういった経緯であの様な視点を手にしたのか、手にせざるを得なかったのかは、私にもわかりませんが、きっと人の子なら当然与えられるべき愛情を与えられずに生きてきたのでしょう


全般に渡り何度か登場する「主人公は必ず死ぬべきだ」や「その方が美しいに決まっている」という文句から推察するに、彼は自分の人生も映画の様な一つの物語であると考え、その中で死という終わりを美化し、何らかの憧れめいた感情を抱いていたのではないかと思います

そして「偶然」にも彼は、映画の様に美しい死を得られそうな「機会」と巡り合い、直ぐ様実行に移す

機会は得ようと思っても、簡単に得られるものではありません

それを彼は充分に知っていたのでしょうね



直ぐ様実行に移すが…上手くいきませんでした

上手くいかないばかりか、余計なものまで背負ってしまう羽目になる

…生きているとよくある事です


「あるあるネタ」です


はい




彼はすっかり失望し、理想とは程遠い現実的な死を得ようとする

部屋で首を吊ったり、手首を切る様なつまらない行為

そんな事しても無駄です

逃げられません




しかしそこで、かつては軽蔑していた、性の対象としてしか見ていなかった女と再会

やがて我が娘と出会い、愛に目覚め、映画の様な美しい死よりも、現実的で美しくない生を選ぶわけです

私は幸か不幸か子を持った事が無いので、シーンCの女の心情や、シーンラストでの男のそれもまた、残念ながら想像の域を脱していません



こうあるべきだなんて思いません

こうあって欲しいとも思いません



こうなんじゃないか?というだけ



男もそんな私の心情を汲み取ってくれたのか「これは詭弁ではない」と言ってくれています

…がしかし、彼も確信を掴みかねている様で「詭弁ではない」と言い切る事は避け「詭弁ではないと思いたい」と言っていますね



結局は詭弁なのかもしれません

何の裏付けも無い単なる理想でしか無いのかもしれません

その真相はわかりません…でもわかるのです


私はあの男とは違い、素晴らしい両親に恵まれ、共に暮らし、育てられ、彼等は決して「愛している」等とは口にしませんが、幼い頃から「愛されている」と感じていました




…いや詭弁でなくてな




…ゴマ擦ってる訳でもねぇよ




女が男にした様にそっと背中から抱き締めるだけの行為

親が子にする様な行為

それだけでも「愛」を示すに充分な行為かと思われます

「愛している」と口にするよりもずっと




言葉にしても伝わらないものがあります

言葉にしなくても伝わるものもあります



女は「愛してる」と言葉にし、抱き締めました

でも「愛してる」という言葉は上手く伝わらず、その想いは無駄だったかの様に見えますが、結果として男は死ぬ事をやめ、生きようと思った

男は終始冷めた視点であの部屋でのやり取りを語っていますが、その中でたった一度だけ非常に人間らしい温もりを感じた事を認めています

男をこの世にとどめたのは「愛してる」という言葉でも、女が言う「愛」の真相を暴こうとするひねくれた意志でも無く、その温もりだったのではないだろうかというのが今の私の見解です



ただ想うだけでも伝わればそれに越した事は無い

もしかするとそんな感情も存在するかもしれません…が、私にそれを肯定する事は出来ない

まったく未知の領域なので


私に言える事は、ただ抱き締めるだけ、ただ触れるだけ、ただ微笑みかけるだけでも愛情は伝わり、それは「愛してる」という言葉なんかよりずっと真実味があり、その行為がすぐ側で腐ってる誰かの人生を健やかなものに変えてしまう位に力強いものかもよって事だけ



言葉は簡単に嘘をつく

でも仕草や表情はそうはいかない

余程「性根の腐った女優」は別として




話を戻すとその逆もしかりで、抱き締めもしない、触れもしない、微笑みもしなければ、すぐ側の誰かの健やかな人生を腐ったものに変えてしまうかもよ







赤子は母親の背中にぶら下がり、その後も事ある毎に父親の元を訪れ、両親の他愛も無い会話が終わると、帰っていく

母親の手にはいつものオレンジジュースが入ったビニール袋

飲み物の差し入れは許されていないと言っているのに…




父親はあの日愛に目覚めたが、その愛が深まれば深まるほど、それに触れる事さえ許されない自分とその罪を嘆く様になり、仕舞いには恨む程にまでその心情は荒れ果てる


赤子が成長し物心がつく頃になると、その荒廃ぶりはさらに悲惨なものとなり、母親と娘が面会に訪れても、微笑みもしない、出来ない、まるで人で無しの様に、ガラスの向こうで座っているだけになってしまった


母親はそんな欠落した父親の分も娘を愛そうと努め、そしてそれはしっかりと実を結ぶが、母親が愛すれば愛する程、それとは逆に微笑んでくれさえしない父親に対し

「どうしてお父さんは私を愛してくれないの?」

と嘆く様になる



母親の絶大なる愛を幼くして知ってしまったが故に、是が否にでも得たい人の子なら当然与えられるべき父親の愛

娘はただそれが欲しかった





やがて時は流れあの娘も今では、因数分解や歴史上の人物を羅列する事等も難なくこなせる程にまで成長した


しかし父親の愛情は未だ得られず、高まり過ぎた欲求と一向に高まらない愛情の落差が彼女をあらぬ場面へとおとしいれ、かつてあの男がそうだった様に、彼女もまた平凡な日常を平凡とは思い難い視点で描き始める








グラスに注がれた黒ずんだ液体

それはまるで底の無い沼の様

その水面に映る私の顔は今日も波打ち、悲しい程に歪んで見える





受け取られないオレンジジュースを飲むのはいつも私の役目

オレンジジュースは嫌いじゃないけど…子供の頃から毎日毎日朝昼晩朝昼晩…もう飽きてしまった




だから私はオレンジジュースに色んな物を混ぜて飲む




…ゴマ油は最低だったけど

醤油は悪くない




きっとお父さんも気に入ってくれるはず





お父さんに逢いたい


…逢いたい





…逢いたくない




顔も見たくない


…位に






逢いたい






いっそ居なくなってくれればいいのに




そしたら私もこんな黒ずんだ

『ミックスジュース』

を作らなくて済むのに






別の物語へ










…なんつってなー


( ゜3゜)←将来の夢:フィジーに住む事






↑馬鹿丸出し

…ホントの天国の方がお似合いだ

地獄も可



ご清聴ありがとうございましーた



m(__)mぺそり


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