独り言
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2006年07月09日(日) |
テリーデイズというBandについて・その28 |
16時になりステージへと上がる直前亜龍はすぐ隣に居ても聞き取れない程に小さな声で何かを呟いていたという
「何を言ってるの?」と問い掛けたスージー・キューに対し亜龍はただ一言「呼んでるんだ」とだけ答えステージへの階段をゆっくり上がっていった
どう見ても偽物とわかる金色のカツラの上に今時子供でも欲しがらない上海ガニの帽子を被ったフロントマン それとは対照的に真っ黒なロングへアーを携え大人びたスリップドレスを身に纏った女性ギタリスト そしてナンセンスと呼ぶにもおこがましい軍帽を被り顔には何故かピエロのお面を付けた余りにも小さ過ぎる少年ドラマー
そこにいた観客の全てが「これが本当にあのテリーデイズなのか?」と疑心暗鬼に陥り会場内はライブ前とは思えない程静まり返っていたという
しかしその静寂も亜龍の言葉にならない叫び声により一瞬にして切り裂かれそれをきっかけにテリーデイズは約40分間のステージを一瞬の静寂も許す事無く演じ続けた
スージー・キューはこの日のライブの事をこう振り返っている 「後にも先にもあんな経験をした事は無かったわ 私って理数系の人間だから占いとか幽霊とかそういった所在の明らかにならないものって一切信じないんだけど…あの日あのステージ上には間違いなく何かがあった 言葉じゃ説明出来ないけど…私達3人の間には明らかに目に見えない力が存在してたの 強く突き動かす何かが 亜龍が呼んでたものってそれだったのかもね そこには理屈もへったくれも無いのよ 上手く演奏しようとか格好つけようとかそんな事微塵も考えなかったわ ただ何処までも広がる音に身を投じて身体は勝手に次のフレーズを手繰り寄せて…あとはなるようになっちまえってそれだけ でもね…そんな中でも冷静な部分っていうのは私の中に残ってて…言うのよ 『これ以上必要なものなんて無いよ』って そして私は確信するの 『あぁ…これでいいんだ』ってね」
ジョージもまたこの日のライブにはいつもと違う感覚が存在したと言っているがその内容はスージー・キューのものとは多少異なりをみせている 「ステージに上がってすぐにアルがマイクに向かって叫んで 僕は『あっ始まるんだ』と思って 1曲目はツェッペリンの『ロックンロール』のカバーだったんですけどあれってドラムから始まるじゃないですか? それで『あっ叩かなきゃ』と思って叩き始めたんですけど 勿論ライブですししかもあれだけの大ホールですから2人のアンプの音量もかなり上がってたはずなんですけど…凄く静かに感じました いや実際には静かじゃないんですよ 聴覚的な問題じゃなくて…第6感とでも言うんですかねぇ? …とにかく静かでした そしてドラムを叩きながら目を閉じて耳を澄ますと絶対に聞こえてくるはずの無いものが聞こえてきたんです アルの息遣いや流れ落ちる汗の音 スージーさんがフロアを強く踏み付ける音や加速していく心臓の鼓動まで聞こえてくる様な気がしたんです それよりずっと前にアルに一度だけ言われた事があって…『お前は音を聴きすぎてるからダメなんだ』って その時は『音楽やるのに音を聴いて何がいけないんだろう?』って思ってたんですけど…あの時アルの言葉の意味が初めてわかった様な気がしたんです 僕が意識するべきだったのはアルの歌や2人の鳴らす音じゃなくてもっと根源的なものだったんだって 呼吸とかそういった凄くシンプルなもの それに合わせて僕がドラムを叩きその上に2人の音が乗りそして一番最後にアルの歌がきて初めて曲が完成するんだって 論理的に説明するとそうゆう事なんですけどこれって凄く感覚的なもので…偉そうにこんな事言ってますけど実は僕もあんな感覚を掴めたのはあの時が最初で最後でしてそれ以降も頑張って意識してみるんですけどどうにも上手くいかないんです 多分あの日あのステージには何かそういった感覚を呼び覚ます目に見えない力が存在したんでしょうね」
こういった人知を越えて存在する神掛かり的で圧倒的な力は確かにそこにあった様でステージ脇から終始見守っていたケビンの言葉を借りてこの日のテリーデイズのライブを表現するなら 「子供の頃に読んだ童話に載ってた天国と地獄の挿し絵を重ね合わせて見ている様だった」という事である
またケビンはこうも言っている
「永遠に尽きる事が無いと思わせる程に強烈なエネルギーを放っていた でも終わってみるとそれは驚く程一瞬のとても些細な出来事だったんだと気付いた …まるで一人の人間がこの世に生を受けそして永遠の中の永過ぎる一瞬であっさりと息絶えていくのを目の当たりにした様だった」
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