2002年02月13日(水)
第2話 : 操られない人形―マリオネット―前編(OPS)
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…光の鳥かごの中。私は彼女とお話をしていたわ。 彼女は特殊な体の持ち主。その鳥かごを自由自在に出入りできた。羽のある私たちには無理だけど。 私はそこに居なければいけなかった。…あの子達を見守っていきたかったから。
あの子達がいなくなったら私がそこにいる理由なんてない。 羽を切り捨てて、自由を得た。
…鳥は自由だなんて誰が言ったのかしら?
地に足を付けて、歩くこと。こんなにも自由なことなのに………
―――――――――――
「マゼンタ…。マゼンタ・ダル=オフホワイトよ…!」
光の世界の中、6枚羽の天使が少女の名前を呼ぶ。
「…ここに…」
その天使を前にひざまづく少女。
「私のフィアンセが堕天してしてしまったとか?」
幾分か含みの或る笑みを交えて話す、天使。 …嫌味、とでも呼ぶべきか。
「…申し訳ございません」
応える声は力なく。
「…全ッ然、申し訳なさそうじゃないか」 「………」
今度は応えなかった。…ただ、俯いたまま…。
「まあいいです。連れ戻してきたら…不問にして差し上げますよ?」 「…寛大なお心使いいたみいります」 「本当にそう思ってますか?」 「…」 「あぁ、もう。早く行きなさい」
天使は嫌味を言うのも飽きてしまったらしい。
「彼女は…私の愛しいフローラは、私にとっても天界にとっても…必要な存在なんですからね?」 「…御意」
(嘘ばっかり…) 心の中でそう思ったことは敢えて口には出さなかったが。
すぐに少女はその部屋から退出した。
「…何はともあれ…これでフローラ様に心置きなく逢えるってことジャン…!」
先程とは打って変わって明るい口調だった。 ――少女の名前はマゼンタ・ダル=オフホワイト。天界と奈落を行き来できる術を持つ天界唯一の…マリオネット《意思を持つ人形》である。
―――――――一方、奈落城――――――
「何でなんだよッ!」
自分を着付けてくれている女官長・フローラに向かってアレクは声を荒げ、詰め寄る。
「あら?だって御忍びなんでしょう?」
いつもたたえている微笑とはまた違った楽しげな笑顔で平然と答える。横にいたプラチナはやはりこいつは只者ではないなとは思ってはいたが口には出さなかった。
「プラチナも怒れよ!」
急に話をふられてはっと我に返る。
「お忍びだからって、別にこんなカッコしなくてもいいだろ!?」
…こんなカッコ…今、アレクは…ぶっちゃけた表現をすると…女装していた(笑)
「…存外似合うと思うが…」 「なっとくするなーぁ!!」
でもプラチナとしてはかなりって言うか、当たり前に似合うと言いたかったのが本音だが。
「白いレースに白いリボン…白いフリルに白いフレアースカート…。ロマンですわーvv」 「悦るなぁー!!」
なんだか常では見られない程ツッコミ役に徹している奈落王サマ。 だが、格好が格好なだけにただ愛らしく見えてしまうだけだった。
「だいたい、お忍びなのは俺だけじゃないだろ?プラチナも女装すべきなんじゃないか?!」
びっと弟に右手の人差し指を向ける。
「あら?プラチナ様は正規のお休みですわ。アレク様は参謀様方に内緒での自主休養…つまりおサボリ。『ばれないように変装したい』と、仰ったのはアレク様ですわv」
しかしこれにも屈することなくふわりとかわす。やはり只者ではない。
「だからって何で!女装なんだよ―ぅ!!その理由を五百字以内で述べろ!!」
アレクはついにキレて訳のわからないことを言い出す。
「…似合うからv」 「…五文字…」
フローラの冷静、且つほののんとした返答にアレクはついにがっくりと肩を落として白旗を揚げた。 そして、今まで置いていけぼりを食らっていたプラチナが口を開いた。
「そう言えば…昔、ロードとプラムにもそう言う格好をさせられたことがあったな、兄上」
ぴくりとアレクの肩が動く。それからぎぎぎとでも言う音が鳴ってそうな動きで顔を上げてきた。
「よくそんな100年も昔のこと憶えてるなー…」
アレクがあまりにも恨みがましく睨んでくるものだからイジワル心がむくむくと頭をもたげてきて…
「クレア…と名乗っていたな?!」
結果:プラチナいじめっこ化(笑)
「まぁvvクレアですって?何て可愛らしいお名前でしょう♪」
アレクが非難の声を上げる前にフローラが感嘆の声を上げた。
「そうですわ、アレク様!これから御忍びをなさる際にはその『クレア』の格好をすることにしましょう?!」 「えぇぇッ!?で…でも!素性の知らない女の子なんかこの城簡単に出入りできないだろ!」
確かに。しかしそれに気にした様子も無く続ける。
「名前は『クレアシード=フロル・フローリア』可愛いでしょう?身分は…私の妹ということにすれば問題ないでしょう?」
恐るべき速さで何だか話が展開していっているのにアレクは眩暈を覚えた。 …何か、もう諦めた方がダメージは少ない。
「それに、どうせ手とか繋ぐのでしょう?男同士が手を繋ぐのは喩えご兄弟でもおやはり気味の悪いものですわ」
この言葉はプラチナに甘えることが大好きなアレクに改心の一撃を与え…結局、アレクはこれからも度々、『クレア』の姿で出歩くことになった…。
――――――――――所変わってここは奈落のとある平原――――――――――
心地よい風が吹き抜けていく。少女の――マゼンタの二つに分かれた長い後ろ髪がゆっくりとたなびいていた。
「…ここが、奈落…」
初めて見る奈落の地に色々な感情が沸き起こる。
「光だけのあの世界と全く違うジャン…」
大天使たちに聞かされていたものとは正反対だった。 大地の暖かな茶色や木々の優しげな緑、花や蝶の可愛らしいピンクに爽やかな空の蒼。命の息吹がとくとくと感じられる…美しい。素直にそう思えた。 すうと大きく深呼吸をしてにっこりと笑う。
「アタシ、ここ気に入ったジャン☆………いいカンジのヤヲイもありそうだしー♪」
るんるんとその場から離れて先ずは城下町を目指す。
「ここはまん●らけとありそうジャンね〜vvさぁて!どんなホ●達がいやがるのかなん♪」
…………彼女、マゼンタは同人娘でもあった(笑)
――――――――――アレク…いや、クレアは悪寒を感じてぶるりと身を震わせた。
「どうした?兄上」 「ん、何か狙われてるような気がして…」 「…!!殺し屋か?それとも変質者か!?」
すぐに警戒しはじめる。
「…えっと、多分そんな感じの物騒なヤツじゃないと思う…」
冷や汗だらだらになりながらも今にも誰彼構わず一般市民に切りかかりそうなプラチナを制止する。
「何か、こう…結構平和的なんだけどどすピンクなカンジの…(笑)」 「…どすピンク??」 「ゴメン、自分で言っててもわからない(汗)でも100%有害じゃないから」 「…そうか」
兄の言葉をとりあえず信じて剣を鞘に収める。 プラチナ達は今、城下町の市場でいわゆるデートをしていた。アレクは勿論クレアの姿。 初めは恥ずかしくて仕様が無かったけれど段々慣れて…と言うか開き直って堂々と腕なんか組んで歩いていたりした。 美男美少女のカップル。注目を受けない訳が無い。道行く人々から振り返られるのはかなり気恥ずかしいが、『プラチナは俺の物v』という普段主張できない行動が堂々と出来るため、結構爽快だったりする。そしてプラチナもいつものように剣を抜いて威嚇しなくてもアレクがべっとりとくっ付いてくれているので不埒な考えを持つ輩に要らぬ嫉妬や怒りを憶えなくて済んでいた。
「えへへ〜♪」
突然の笑み。
「…何をにやけている」
判ってはいるけれど。
「だって〜」
答えにはなっていない。
「何がだってだ」
判ってる。
(…幸せ、だね)
同じ事を考えているのは。
□□中書き□□
無闇に長い話になりますので前後編に分けました。 すみません…話まとめるの下手なヤツで…
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