2002年02月12日(火)
ずっとずっと見守っていきたかった。彼らの幸せが私の楽しみだった。 …けれど、もうとうの昔に彼らはここにはいない…。
…私も堕ちよう…。
彼らはどこにも居ないけれど。 彼らのもう一つの容(かたち)なら見ることができるから…
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「…?」
呼ばれたような気がして振り返ってはみるけれど声の主はいない。少し首を傾げる。
「どうした?兄上」
不思議そうな顔をして見つめてくる蒼い、瞳。
「ん、なんでもない。気のせい…」
心配をかけないように笑顔で応える。そうして視線を握っていた書類に戻すが考える事は仕事のことではなくて。 優しく自分を呼ぶ女性の声。…酷く懐かしい…。
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「ふぅ。やはりどの方もステキな方ですね。」
と、サフィルス。
「当たり前ですよ。大事な役職なんです。いい加減なスキルで臨もうとするならば大恥をかきますからね」
と、ジェイド。 彼らは今、新しい女官長を決めるための面接をしていた。なぜなら現女官長が今月で定年を迎えるからである。
「…あ。次が最後の方ですよ、ジェイド。お城勤めは初めての方ですね。けれど今まで城で働いていた女官達を大きく引き離した優秀な成績で貴方の作ったひねくれまくった筆記試験を突破しています」
同僚に対する嫌味を露に含ませている。が、当の本人は全く気にもした様子もなく、いけしゃぁしゃぁと
「きっと私と相性がバツグンなんですよv」
などとほざく。 結果、サフィルスはしてやるつもりがしてやられてしまったのである。一瞬、目の端をきりりと吊り上げたが大事な面接中、との事をすぐに思い出し笑顔に戻る。
「…コホン、それでは、次の方入ってきてください」
サフィルスの声が響いてから間もなくしてコンコンとしっかりしたノックの音が聞こえてきた。サフィルスの「どうぞ」と言う声に一拍置いてからカチャリとドアが開かれる。 入ってきたのは、少女とも大人の女性とも言える不思議な美しさを称えた、ひと。
「失礼致します」
凛とした声が部屋に響く。再びドアがカチャリと音をならして閉じられた。
「初めてお目にかかります。私はフローライト=フローラル・フローリアと申すものでございます」
女性が深々と、けれど流れるように優雅な振る舞いでお辞儀をする。年相応にはとても見えないとても落ち着いた雰囲気を漂わせて。 一瞬、そのあまりにも麗しい姿に言葉を失ったサフィルスであったがすぐに我に帰って質問用紙に目を向けると言葉を発した。
「…えぇと、フローライトさんは…」 「…蛍石の…」
唐突にジェイドがサフィルスの質問を遮る。
「…蛍石の、花女神…?」
その言葉ににこりとフローライトが微笑む。 そこには珍しく驚いた表情を見せたジェイドが存在した。
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「新しい女官長?」
おいしそうにお茶(砂糖4個必須)を飲む奈落王・アレクが訊き返す。 時刻は午後3時。一般的に『おやつの時間』と定められているアレである。
「あぁ、先程ジェイドとサフィルスが候補達との面接を終えてきたらしい」
問題提起をしたプラチナが愛しい兄の為に2杯目のお茶を入れてやりながら応えた。
「それでそれで?誰になるのか決まったの??」
結果が気になって仕方がないという風の兄。苦笑を向けて応える。
「もうすぐジェイドたちが連れてきてくれるだろう。新しい女官長を、な」 「と、言うかもうつれて来ちゃいましたけどねv」
プラチナの言葉に間髪入れずに発言しながら登場するジェイドにアレクとプラチナはかなり驚いて飲みかけていたお茶を噴出しそうになった。
「じぇ、じぇいど!?」 「ハイv」
びびりまくってるアレクの呼びかけに笑顔で返事をするジェイド。 その人を食ったような態度にぶち切れた人物がいた。
プラチナ。
するりと愛用の剣を鞘から抜こうとした。 が、
「プ、プラチナ様!!気持ちは痛いほどわかりますが止めてください!!」
意外にもそれをサフィルスに止められる。
「おぉ、怖い。客人の前だというのに容赦のないお方ですねー♪」
しかし懲りずに火に油を注ぐような発言を続ける。
「やっぱり殺す…(怒)」
再び剣に手をかけようとした丁度その時にジェイドの後ろから女性の堪えた笑い声が聴こえてくる。
「「…?」」 「だから新しい女官長を連れてきたって言ったでしょう?」
首を傾げるアレクとプラチナに突っ込む。
「どうぞ、奈落王と副官にご挨拶なさってください」 「はい」
入ってきた女性にアレクとプラチナは驚きの表情を見せる。
「お初にお目にかかります。私はフローライト=フローラル・フローリア。…お会いできて光栄ですわ、奈落王様、副官様v」
華麗にお辞儀をする女性に二人は思わず見惚れる。 そして先に我に帰ったのはアレクの方だった。
「うわぁ――!!想像してたのよりずっと若いや!初めまして、俺アレク♪えーと、ふろーらいとふろーらるふろー…」 「フローラで結構ですのよ?」
フル・ネームで呼ぼうとする可愛らしい奈落王に柔らかな笑顔で応える。 その優しい笑顔にすっかりアレクは好意を抱いてフローラに懐いていた。 一方プラチナは実は既に我に帰ってはいたのだが、兄の笑顔をいとも簡単に得ることが出来たフローラに嫉妬していた。 つまり、表情は仏頂面。 ソレを見てフローラはくすりと笑みを零してプラチナの方へ歩み寄っていった。
「以後、よろしくお願いいたしますわ、プラチナ様」
プラチナの手をやんわりと取り、手の甲に口付ける。 そのあまりにも突飛な行動にプラチナは耳まで紅くして動揺しまくる。 それを見て、腹を抱えて笑うもの、おろおろするもの、そして怒り出すものまでいる。 「あー!!ダメだぞ、フローラ!プラチナは俺のなんだからッ!!」(←怒り出す人)
それにすぐ反応してフローラは
「あら?ごめんあそばせv」
と素直ににっこりと謝罪の言葉をアレクに向けた。 しかし、その表情はすぐに変わった。今まで全く見せなかった『悲哀』といったものに。
「…本当に…あのころのあの子達にそっくりで…」
悲しいくらいですわね、と。アレクの頬をそっと撫でて辛そうに微笑む。 今まで怒っていたアレクと、固まっていたプラチナはその言葉とフローラの悲しげな表情の意味を察することが出来ない。
「似てる?」 「…ええ」
アレクの質問に静かに答える。瞳を伏せて、今度は間をおかずに。
「私はセレスと神であった『彼』の姉ですわ」 「「!!」」
一変してアレクとプラチナの表情が最上級の驚きのものに変わった。 しかしフローラはそれを気にとめず、話を続ける。
「私は太古の昔に天上を君臨していらっしゃった『御父』の第一子ですの…。でも、女性であるが為に最近になるまで隔離されていました。…『彼』が天上を支配するようになって、『彼』が私を解放してくれたのですわ…」
まるでその時のことを思い出すかのように目を閉じながら語る。アレクも、プラチナも、そしてジェイドもサフィルスも静かに耳を傾けていた。
「そして間もなく、セレスが生まれて…。姉弟3人、とても幸せだった。例え周りから女性と蔑まされて『御父の第一子』ではなく、低級な『蛍石の花女神』という地位しか与えられなくても…。いいえ、地位なんて関係なかった。あの子達の幸せを見守っていけたのなら…」
語りは途中で悲痛なものに変わっていく。けれど、誰も止めることはなかった。
「でも…」
不意にジェイドが口を開いた。
「幸せは長くは続かなかった。俺が貴女にお逢いした時には既にセレス様と『あの方』は存在していませんでしたからね」
もっとも、あの時は『あの方』が居なかったなんて確認取れませんでしたが。と付け足す。 その言葉にプラチナは目を丸くして訊く。
「お前達…知り合いだったのか…?」 「ええ。ジェイド様は男女差別に反対してらっしゃったお方ですのよ!?天上での女性の扱いはこの奈落よりも遥かに酷いの。ただ、子孫をなす為だけの卑しいもの…。その中で女性を差別しなかったのは私の知ってる限りではあの子達とジェイド様だけ…」
プラチナの表情がさらに驚いたものとなる。
「ただの女好きじゃなかったのか!!」 「プラチナ様はそーいう目で俺を見てたんですね…」
ジェイドの背中が少し哀愁が漂ったものとなった。 その親子漫才(?)を見て柔らかな笑みに戻る。
「まぁ、私の生い立ちはおいおい話していきますわv今わかっていて欲しいことは私は天使ですがあなた達の敵ではないこと、むしろ味方であること、そして、誰よりもあなたたちの幸せを願っていることの3つですわ」
さっきとはうって変わって幸せそうに微笑む。 その時、アレクが当然の質問を投げかけてきた。
「ねぇ、フローラはどうして天上からこっちにきたの?サフィ達みたいに落とされたの?羽だってないし…」
プラチナ達がはっと驚いた表情になる。 確かにここにいるということは何らかの理由があり、そして天使のはずのフローラの背中には羽が無かった。
「羽なんて無くても生きていけますわ…。ここへは自分の意思で来たの…。あの子達のもう一つの容である、あなたたちを見守るために…」
…願って止まないのもう一度、あの幸せを…。
「フローラはセレス達が本当に好きだったんだねv」
警戒心もなく無邪気な笑顔付きでそんなことを言われてしまっては…嬉しくて仕方なくなってくる。
「えぇ、大好きでしたわ…。ごめんなさい、私ったらあなたたちをあの子達の代わりとしてみようとしてた…でも、今ここにはっきりと言えます、誓えるわ…」
言って、跪く。
「アレク様、プラチナ様…。私はもう貴方達の虜ですわ。貴方達のことが大好きですの。…どうかお傍にいさせて下さいましね?」 「うん!俺もフローラ大好き♪ずっと一緒にいてねv」 「有難き幸せでございますわv」 「兄上!そんな簡単に…」 「プラチナは嫌?フローラが傍にいてくれるの」
うっと言葉につまる。 それは超絶可愛いアレクのおねだりモードの潤んだ瞳だけではなかった。プラチナもフローラを気に入っていたのだ。彼女の持つ姉のような、母のような暖かさが心地良くて。
「ねー、ダメ?」
そこに大好きな兄のおねだりが加わったのでは否定することなんて出来る訳がない。
「…宜しくなフローラ」 「はいvv」
ついには白旗を上げた。そしてジェイドとサフィルスはと言うと
「私は無条件で賛成ですよ。フローラ様の事はよく知ってますし」 「えぇ。私はジェイドみたいに直接お逢いした事はないのですがフローラ様の人となりはいつも聞かせて戴いておりましたから」
と、快く承諾してくれた。
新しい奈落の物語の始まりである。
□□後書き□□
やっとプロローグ完成です。10P以上も使っちゃった―――☆(死)ずーっと頭の中で暖めてきたネタなのでようやく日の目に晒し始めれて嬉しいですvv この後も2,3人ほど私の作ったオリジナルキャラが出てきます。一応、大体の設定は『オリジナルプレミアムストーリーズ設定資料集』に書かれてありますのでそちらの方を参考にして下さい(笑) 今回はあまりプラ×アレ感が出ませんでしたが、次回は嫌でもイチャイチャさせるのでご安心くださいませvv(死)
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