2002年01月06日(日)
今は昔の話。
ここ、奈落と呼ばれる国の王宮の一室で静かではあるがかなり熱い戦いが二人の男によって繰り広げられていた。
「う〜〜ん…」
一人はサフィルス=ホーソン。戦況が芳しくないらしく、先程からこの調子で唸りっぱなしである。
「早く打って下さいよ、坊ちゃん!?」
対するもう一人はジェイド=デイヴィス。こちらは打って変わって余裕の表情を浮かべていた。
ことの発端は数刻前のことだ。次代の王を育成するという大役を任された二人ではあるが次期王の作成がまだ終わっていないため、彼らは待つだけの日々を与えられていた。その退屈な時間を埋めるために二人は世間話などをしていた。と、言ってもいつもジェイドが押しかけて来て、サフィルスがしぶしぶとそれに付き合うというのがお決まりのパターンではあるが。 そして今日、つとジェイドが言い出したのだ。
「これからするチェスに罰ゲームをつけませんか?」 「罰ゲーム…ですか?」 「そう、罰ゲーム。負けた方は勝った方の命令を明日1日忠実に聞くんです」
一瞬、何を突然言い出すかと思ったが彼が唐突なことを言い出すのはいつものことであったし、断っても押し切られて結局は言う通りにさせられるのが目に見えていたので逆らわないことにした。もし負けて何をされるかは判らないが、チェスならまだ勝ち目はある。サフィルスはこの勝負を受けてたつ事にした。
そして、今。自分の選択は間違っていた事に気付く。 そもそも言い出す、という事はジェイドには負ける気がなかったからだ。平たく言えば勝てるから持ちかけた。 まだ勝負は決してはいないが負けるのはもう時間の問題であった。それでも一生懸命抵抗の駒を進める。…が。
「チェックメイト♪」
予想通り勝利をもぎ取ったのは翠の髪をした同僚。敗者は大きなため息しかその唇から発せられなかった。
「じゃぁ、明日は朝一番にこれを着て私を起こしに来てくださいね。あぁ、朝食の準備もお忘れなく」
勝者となった同僚が一枚の衣服を自分に差し出してさも楽しそうに告げる。罰ゲームを受けることには反論はしない。…しかし…
「何ですか、この服は?」 「メイド服ですよ!?」
何か問題でも?と更に付け加える。その悪びれも無い態度に頭痛を憶えた。
「…女装は罰ゲームのうちには入っていなかったと思うのですが…?」
こめかみを抑えて抗議の意見を何とか搾り出した。だが、相手は少しも堪えず、「罰ゲームは明日1日勝者の言うことを忠実にきく、でしたよねぇ?つまりは私がこれを着ろ、と言ったらそれは罰ゲームの内に入ってるんですよ?坊ちゃん」などと言ってのける。確かに彼のいう事はもっともだ。 サフィルスにはもう少し深く考えるべきだったと後悔するしかなかった。
シャッ!!
勢いよくカーテンが開けられる音がする。
「朝ですよ、ご主人様!」
朝。 サフィルス受難(罰ゲーム)の1日の始まりである。 あの後、ジェイドによる命令がもう一つ追加されていた。それは自分のことを『ジェイド』ではなく、『ご主人様』と呼ぶこと。 理由は「男のロマンですよ♪」と、あまりにもくだらなさ過ぎて本当に涙が出た。 けれど、負けた自分が、勝負を受ける前にちゃんと考えなかった自分が悪いのだ。
「朝食でございますッ!!」
ばんっと荒々しくテーブルに置く。
「……お前ね〜、そんな格好してるんだからもう少し大人しめに出来ないか?」
起きたばかりのジェイドは不満の声を漏らす。
「好きでやってる訳じゃありませんからね!」
サフィルスの青筋マークを立てながらの反論にジェイドは怖い怖いと言いながらも全然怖くなさそうに一人ごちた。
「で、次は何をすればいいんですか?」
朝食を済ませ、サフィルスの淹れたモーニングコーヒーをおいしそうにすするジェイドに苛立たしげに質問する。
「…そうですねぇ…」
ちろり、と。サフィルスのメイド姿を一瞥する。 普通の女性に比べれば高い背をしてはいるが体格がもともと細い為あまり違和感は感じられない。むしろ長身の美女と言った感じで似合っていたりさえする。
(まぁ、お楽しみは夜にとっておきますかね…)
思わず邪な笑みが零れる。それをサフィルスが見逃すはずはない。
「何ですか?!貴方が、このような格好をしろと言ったんじゃないですか!」
顔を真っ赤にして怒る姿また可愛らしくてついつい苛めてしまいたくなる。
「いえ?よく、お似合いですよv」
本当に心の底からそう思う。しかし、事実でも言っていい事と悪いことが世の中にはあるもので。ジェイドの言葉は後者の方であった。
「馬鹿にしてッバカにしてッ馬鹿にしてっ!!」
サフィルスの怒りは『ご主人様』ジェイドに命ぜられた部屋の掃除で発散されていた。
「大体何故あんな人が次期王の教育係になったんでしょうかッ?」
はたきで埃を落とす。かなり乱暴な動作で。
「彼に育てられる王子が可哀想で仕方がありませんよッ!!」
キュキュッとテーブルや窓を磨く様に拭いていく。
「きっと史上最高にヒネくれた奈落王が誕生しますねッ!」
ばふっ!干していた枕をベッドに投げつける。
「……終わりました!」
なんだかんだ文句を言いつつも完璧に仕事をこなす姿勢は流石は次期王の教育係りと言えようか。 同僚は元々潔癖症であった為、掃除自体が楽な仕事ではあったのだが。
「終わったか。次は昼食を作ってきてくれ」
そこにタイミング良くやってきたジェイドに次の指令が下された。 本気で嫁に欲しいですね、と言ったのはサフィルスが台所に向かった後であった。
しばらくして、『それら』は運ばれてきた。
「おいしいですねぇ…」
着々と『それら』はジェイドの胃に収められていく。 昼食を摂る、それだけを見ればなんら問題ない。だが、今の光景はいかんせん異様であった。何故なら、その昼食はあまりにも膨大な量だったからであった。
「よくそんなに入りますね」
あれよあれよと言う間にジェイドは同僚の手作り昼食を平らげていく。実はサフィルスは前から彼の胃の中にはブラックホールが飼われているのかもしれない思っていた。
「普通だよ。まぁ、お前の作ったモンの場合だと確かに普段よりは多く食べるな」 「はい?」
同僚の言っている意味がよく判らず、訊き返す。
「お前の作る料理は格別おいしいってコトだよ」
言って、また食事に専念する。
「どうせ私の作る食事はおい…って、えぇ!?」
天邪鬼な彼から自然に発せられた言葉だったので、危うく聞き逃しそうになっていたが何とか気付いた。
「お、おいしい…!?」
聴こえた言葉は予想していたものとは遥かに違って。一瞬、自分の耳が腐ってしまったのかとまで疑ってしまった。(笑)
「おいしいですよ!?」 「う…ウソだ!!」 「はい!?」 「あなたが他人を手放しで褒める訳がない!!何か企んでるんでしょう?」
長年いじめら(おもちゃにさ)れ続けてきた悲しいサガというべきか…サフィルスはジェイドの言葉を素直に受け入れることが出来なくなっていた。
「オイオイ、俺はそんなに信用無いのか!?」 「皆無です(←即答)」 「……(笑顔で怒)」
サフィルスは気付かなかった。ジェイドの一人称が『俺』になっているのを。 ジェイドは『俺』と言うときはいつも本音で語っているのだ。
「そこまで言われると流石の俺でも傷付くぞ?!」
明るい口調で言ったが…ジェイドさん、目が笑ってません(怯)
「じぇ、じぇいど…!?」
遅らばせながらサフィルスもそれに気付いた。
「予定変更」
ジェイドはそう一言呟いて最後の一口を口に放り込むとがたりと音をたてて席を立った。
「…は!?な、何が…」
こちらに向かってくる同僚が浮かべている微笑が何となく恐ろしく感じられたため一歩あとずざる。
「おや?ただのボケニブではないようですね!?ちゃんと身の危険は察知できるみたいだ」
一歩、また一歩。二人の距離は少しずつ縮まっていく。 サフィルスは言い知れぬ恐怖感に冷や汗をかいていた。
「身の危険…!?」 「そうです」
クスッと笑うそのしぐさに思わず見惚れかけたが…
「夜のお楽しみに取っておこうと思ったのですが今からでも全然構いませんね。むしろ早いほうがじっくりと堪能できていいじゃないですか。うん、今いただいちゃいましょうか」 (な、何か嫌な予感…)
背中が壁に到達したのが判った。もう逃げ道は無い。
「何を…戴くんですか!?」
今出来る精一杯の笑顔で問う。…引きつってはいたが。
「決まってるじゃないですかv…あなたをですよ、サフィルス」
(やぱりぃぃぃぃぃぃぃいぃっぃ!?!)
「では、いただきますvv」
それから…心の大絶叫も虚しく、メイドサフィルスは行儀良く両手を合わせて食前の挨拶をしたジェイドに翌朝までじっくりと丁寧に優しく、時には激しく(笑)食べられてしまいましたとさ。 お終い。
□□後書き□□
ナvメvんvなvv2回連続女装ネタかい!!(死)いやんvvだってさ〜〜〜どのサイト回ってもアレクが女装するネタは見るけどサフィが女装するネタなんてないんだも〜〜ん。(因みにサフィの女性名は『サファイア』)まぁ、一般的にサフィはアレクラブラブに見られてるしな。私はサフィ&アレクはカップリングとかよりも親子、母娘です。ジェイド&プラチナは父息子。参謀×王子って暗い話が多いですよね…私は性格が賑やかなんでそういうのダメなんです…トホリ。すみません。だからただ単にいちゃつく王子ーズが好きなのかもね、私!! あと、サフィの話。最近私、サフィが大好きです。えぇ!!だって可愛いじゃないですか!受け子さんですよ、彼は!細いし、丸顔だし、関智一だし!!(ヲイ)
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