けんたのプロレス&演芸論
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2002年02月16日(土) 第4回 レスラー論 安田忠夫

 旬な選手も書こう。とかくと、西村選手やラッシャー選手に怒られてしまいそうだが、まさにリアルタイムで旬な選手なので勘弁してほしい。そう、今日IWGPヘビー級王者になったばかりの、安田忠夫選手(以下敬称略)だ。IWGP史上、もっとも不器用な王者の誕生、といっても差し支えないだろう。とはいえ、この「不器用」、立派な誉め言葉である。

 借金王、なんていわれている。確かに博打に手を出したのだから、借金は多いのだろう。でもこのエピソード一つとっても、彼の不器用さが見て取れる。プロレスラーを含むスポーツ選手、さらには芸能人、政治家も含めて、「大物」が「借金」していることは決して珍しいことではない。そして「大物の借金」には明るいイメージが付きまとうものだ。借金の原因が何であれ、「芸の肥やし」「将来への投資」「借金は財産だ」となる。そうできない借金であれば、公にならないよう隠す。渡辺謙の借金が明るみになった。おそらく彼は、病気による借金を公にしたくなかったのだろう。「病魔と戦う悲劇のヒーロー」扱いされたくなかったのだろう。だから隠した。一方、安田忠夫の借金は暗いのだ。笑いの対象になってるともいえるが、それは芸人が笑いをとるのとは違う。嘲笑に過ぎない。レスラーとしてのキャラクター、というのも後からつけたものだ。借金に至る経緯が不器用、その始末の仕方が不器用、その見せ方も不器用。そしてそれがなぜか、支持されている。

 ファイティングスタイルも不器用、言い換えれば武骨そのもの。一直線ファイト、高い技術を持っていない、持とうとしてないようにも見える。純プロレスをやってたころ、ダブルアームスープレックスもジャイアントスウィングも下手だった。でも客は沸いた。そのときの安田の目が真剣だったからだ。声援を送りたくなるくらいに一所懸命だからだ。これは「同情」ではなく「共感」だったのだと思う。エリートレスラーには出せない、「不器用」というカラーを持っているのが、この安田忠夫というレスラーの持ち味だった。そしてそのカラーは、あのころの新日本には必要でなかった、ということなのだろう。

 猪木のもとへ行き、格闘技戦に乗り出す。結果がなかなか伴わないが、だんだん自分のカラーを出せるようになってきた。感情が見えにくくなりがちな総合に、彼は「顔面を真っ赤にして」臨めるようになった。前回にも書いたが、僕は中途半端な「プロ格」マッチは好きではない。ただ、安田忠夫のファイトは好きだ。使う技術はプロレスと少し違えど、安田は安田のまま総合系のリングにもプロレスのリングにも上がる。そして、いつのまにか、どちらでも光れるようになった。IWGPのベルトを巻いてもいい選手になっていた。

 馳浩相手のデビュー戦、プロレスでは「先輩」のヤングライオンたちが必死に安田に檄を飛ばした。その一人、永田を破っての堂々の戴冠劇。これからのカード、安田忠夫が歩む道は、僕には想像もつかない。何しろ不器用な選手だから。でも、不器用だからこそ、あらゆる可能性を秘めている。次は天山だ。その先には何がある。藤田か、小川か、橋本か。あるいは高田か、クロコップか。秋山、小橋、三沢も見えてくる。それぐらいこなさないと、借金返せないぞ、安田忠夫、がんばれ。


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