月のシズク
mamico



 チューリップの鉢植えが欲しい

春が近づくと花屋の店先が賑わい出す。
お昼に外に出たら、近くの花屋さんの店先にチューリップの鉢植えが並んでいた。
ひとつ400円だって。そんなもんなのかな。

子供の頃、雪が降る前に土の中にひとつづつ球根を埋めた。
雪が溶け出す頃にあたたまった土から、緑の芽がつんつんと顔をのぞかせる。
つぼみがつくまで花の色がわからない。それが楽しみだった。
咲きすぎると、祖母がチョキンチョキンと切って学校へ行く朝に渡してくれた。
赤、黄色、オレンジ、ピンク。オレンジと黄色のツートーンのが好きだったな。

そんなことを思い出していたら、無性にチューリップの鉢植えが欲しくなった。
今週末にでも買いに行こう。


2001年02月20日(火)



 感応する人々

さっき入浴中に『コンセント』完読。

私の読書時間は、帰りの電車の中と入浴中のみ。
朝の電車はもっぱら、不足した睡眠を補うためにあてられる。
昨日の帰りに読み始めたから、二日間、トータル時間にして3時間弱くらいだろう。
文章をいちいち最初から最後まで舐めるように読むと時間がかかるので、
漢字を拾っていくのが私の速読術だ。

最初は「狙っている」書き口に少し抵抗を感じていたが、
そのうちするすると言葉が私の中に入ってきた。

すっかり忘れていたことだが、「コンセント」という単語で私は「プラグ」を
イメージしていた。そう、コンセントは壁にあるプラグの差し込み口のことだ。
電力供給するための出口、そして入り口。私たちの記憶は、世界のどこかにある
ホストにデータとして蓄積されていて、人は無意識のうちにそこにアクセスして、
データを言語化、視覚化、音声化しているのではないか、という問いかけがあった。

つまり集合的な記憶によって、人々は生きているということ。
(だと理解したのだけれど)

だから誰かが誰かに「感応する」のは、とても自然であり重要なことなのだ。
感応しすぎて、自己の境界線が崩れるのも問題だけれど、頑なに自我を
閉じこめるのも危険。すべてがガヤガヤと騒々しい世の中で、感応する対象に
チャンネリングするのは難しい。

いづれにせよ、生きにくい世の中なのかもしれない。



2001年02月21日(水)



 春のひだまりの中で

2月というのに、驚くほどあたたかな朝だった。
ちょうど桜が咲き始める頃の空気だ。ふわりとなまぬるい日差し。

あまりに気持ちがいいので、会社の裏手にある公園でお昼を食べた。
コンビニで「三色そぼろ弁当」とペットボトルのお茶、それといちごの
アイスクリームを買って。遊んでいる子供を見たことのない、
長細い公園のへらべったい滑り台に座って足を投げ出す。
春の粒子が薄い皮のジャケットにまとわりついてくる。

「このまま脱走したいね」と何度も言い合いながら、
私たちは春のひだまりにとろとろと心を溶かした。




2001年02月22日(木)



 麻布十番の男

午後、チェロを弾いていると電話が鳴った。
両膝に楽器をひっかけたまま受話器を取ると、耳に懐かしい声がする。
「よう、ひさしぶり。今、東京やねん」

高校の同級生で年に数回しか会わない男トモダチ。
あのころは特に仲が良かったという記憶はないが、ひょんな機会で
一緒にアメリカへ行ったりした。奴は京都の大学へ、私は東京へ来て以来、
不定期ながらも連絡を取ったり食事をしたりする仲だ。

この7年の間に、奴の人間的な器は深く広くなった。
使う言葉も立ち振る舞いも、すべてにおいて。

「部屋、探しにきたんや。来月の中旬くらいに引っ越しや。」
そう、大学院を修了して4月からは東京で今をトキメく外資系の大手金融企業に
勤務する。完璧な英語を喋り、明晰な言葉で語り、説得力のある論文を
書き上げてきた男だ。奴のような優秀な人間は、企業側も引く手あまたで
各界からお声がかかっていたそうだ。それでも、奴はとても冷静に自己と
将来を考え、的確な判断を下した。見事なまでに。

「で、どこに住むの?」
「麻布十番や。東京タワーが見える部屋やで」
私は大爆笑した。おいおい、成金野郎にも程があるじゃないか。
さらっと、嫌味なんてこれっぽっちも感じさせないで、
奴は超東京的な土地に住むことを告げる。

「なんか、どんどん君がギャグみたいになっていくわ」
そう言うと、すこし間をおいて「せやな」と笑いながら奴は言った。



2001年02月24日(土)



 思い込み

日頃、私は自分のことを、まぁニュートラルでフレキシブルな人間だと
思っている。(多少の語弊はお許しください)
でも「方向」のことに関しては、マグナム級の思い込みの激しさである。
そう、私は自他共に認める方向音痴。

午後、錦糸町の墨田トリフォニーホールでの演奏会に向かった。
吉祥寺で380円の切符を買い、お茶の水で黄色い総武線に乗り換えて
「次は錦糸町」という電光掲示の案内も確認した(つもりだ)。
駅に降りて改札を通ろうとすると、ガッシャンと自動改札の扉に行く手を阻まれる。
「ん!?」と見ると「乗り越し精算をしてください」のメッセージが見える。
あれぇ〜、確かに「錦糸町=380円」の掲示を確認したのになぁ、
おっかしいなぁ(ぶつぶつ)と思いながら自動精算機に切符を差し込み、
超過料金70円を投入する。

改札を出て、チラシの裏の地図を見ながら会場をめざす。
なんとなく私が知っている錦糸町と違う。「そごうがあったはずだけど、
ありゃ倒産したからなくなったのかな」とムリヤリ自分を納得させようとするも、
横断歩道を渡る寸前で一抹の不安に襲われ、そのへんのおねえちゃんに
おそるおそる「あのぅ〜」と声をかける。

「ああ、トリフォニーならあっちの道をずぅぅーと線路沿いに歩いてください。
あ、でも一駅乗った方が早いですよ」
と言われ、はたと気づく。JRの駅をはるかに、もう一度みやると「亀戸」の文字。
うっそだろーーー、と心の中で叫びながら「ああ、ありがとうございました」
と踵を返す。おいおい、自動改札でひっかかった時点で気付けよ、と思うが、
私の方向音痴にまつわる激しい思い込みについて思い出す。

・・・ホームを駆け抜けて、錦糸町で飛び降りて、走りましたさ。
間に合ってよかったけれど、私の思い込みって!?反省しろや。>自分



2001年02月25日(日)



 遠い花火

今月で部長さんが退職(転職?)するので恵比寿で送別会があった。
会社を出る直前に左目のコンタクトを落としてしまって一騒動あり、
すっかり遅れての開始となりました。結局コンタクトは出てこなかったけれど、
這いつくばって探してくれたみなさんありがとう。
保証期間だったので5000円で再購入できるそうです。お騒がせしました。

で、恵比寿のガーデンタワー38Fに場所を取ってあったのですが、さすがですね。
一面、ばばーんとガラス張り。そして絶好の夜景スポット。
同じフロアのお店には、昼間ランチを食べに何度か足を運んだことは
あったのですが、夜景は素敵です。窓際に座らせてもらったら、
バカみたいに外ばかり見ていました。東京タワーも近くだし。

それで、発見してしまったのです。
遠く、遠くに上がる色とりどりの花火を。
方向から推測して、午後8時半に365日花火を上げ続ける場所といえば、
そうTDL(千葉弁でいう「でず」)さすがにちっこいし、火薬の音も聞こえない
んですけど(あたりまえや)遠くに上がる花火も可憐で見とれてしまいました。
「今頃、ミッキーが踊っているんだろうね」なんて言いながら。

台場パレットタウンの観覧車も、羽田空港も見えて、ゴージャスな夜だこと。
それにしても、なんで東京タワーと富士山を見たら拝んでしまうんだろ。
単に高いものが好きなだけなんでしょうかね。



2001年02月27日(火)



 あたかも、春の夜のように

雨が降る前だからだろうか。
空気がとてもなまぬるく、まるで桜の咲く夜みたいだ。

コートのボタンをひとつ外して、自転車に乗った。
風がぜんぜん冷たくない。ちょっと湿気をおびて、ぬるいかんじ。
どこに隠れていたのか、近所の猫たちもちらほら姿を現す。
まだ冬毛で全身がボンボンにふくれているけれど、
気持ちよさそうに毛繕いしている。

夜の闇に咲く、白い桜の木を想像する。
そう思っただけで、私の心はわずかに狂い出す。





2001年02月28日(水)
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