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遠子(桜井都)

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 遅刻者の釈明と解決術(SO3)(フェイトとソフィア)。

 その日は新記録を更新した。








「ごめんソフィア! おくれ――

 彼のお決まりの言葉は、不機嫌に満ちた少女の顔を見た途端舌の先で凍りついた。

「……………」

 への字に引き結ばれた唇。どう好意的に解釈しても、怒気がないと言えば嘘になる表情は、彼女の可愛らしい顔立ちを妙に大人びて見せていた。
 大学からは徒歩十分の本屋の前で、高校の制服を着ている年下の幼馴染みに彼は一瞬怯んだ。

「ご、ごめん…」
「…いま、何時?」
「…三時半、過ぎ…かな?」
「三限が終わったらすぐ行くって言ったくせに!」

 三十分以上待たされて、笑ってくれる女性はまずいない。
 ごく一般論を痛切に感じながらフェイトは頭を下げた。

「ごめん! 三限がいつもより早く終わって、ちょっとだけのつもりで…」
「どうせまた友達とゲームの話でもしてたんでしょ! フェイトっていつもそう!」
「ごめん! ほんとごめん!」
「ごめんで済んだら連邦警察だっていらない!」

 怒りのあまり泣きそうになっているソフィアに、フェイトは今度こそ狼狽した。
 自分の趣味に関することに没頭すると、つい相手との約束を疎かにしてしまう癖はいいかげんどうにかしないとと思っているくせに、直せない。ましてや長い付き合いの幼馴染み。このぐらいはいつものことだと、つい甘えてしまう。

「本当にごめん! 何でもするから…」
「そんな言葉に騙されない! ゲームでもバスケでも何でも勝手にしてれば!!」
「え、ちょっとソフィア…」
「帰る!」

 踵を返したソフィアの勢いに合わせ、その肩を越えた髪も揺れた。
 慌ててフェイトはその後を追う。怒っていようと、自分より背の低い年下の女の子だ。追いつくのはわけない。

「ソフィア、あのさ」
「…どうせ、私のことなんてすっかり忘れてたんでしょ」
「忘れてなんか…」
「忘れてた、絶対。…いつもそうだもん」

 下りのエスカレーターに足を踏み入れたところで、彼の先を行く少女がぽつりと最後のつぶやきを洩らした。

「……ごめん」
「…………」

 動く階段の上から見た幼馴染みの背の小ささに、フェイトはうなだれかけた。
 これ以上の言い訳をすれば本当に見限られそうな気がした。

「…どうしたら、許してもらえるかな」
「知らない。自分で考えれば」

 振り返らない小さな頭が、エスカレーターの終着と共に髪を揺らして歩き出す。
 大抵はちょっと怒ってもすぐに許してくれる彼女が、こちらを見もしないあたりからその怒気の大きさを彼は悟るよりほかなかった。

「…ソフィア、あの」
「帰るんだから、ついてこないで」
「いや、あの、うち隣じゃ…」
「あっち行って」

 その言葉が最後通牒に思え、フェイトはとりあえず立ち止まった。
 どうしようもない気持ちで人込みに消えていく後ろ姿を見送る覚悟を決める。
 けれど彼女は、彼の足音が止まってから一分も経たないうちに足を止めた。

「…ソフィア?」
「…お腹空いた」
「え、あ、じゃあ何か食べて帰ろうか? おごるから」
「…もともとバイト代入ったからごちそうするって言い出したの、フェイトじゃない」
「あ……」
「…やっぱり、忘れてたんだ」

 今度こそソフィアが泣き出しそうな声になった。
 顔が見えない分不安になったフェイトは慌てて近寄り、顔を覗き込む。

「そんなことないって! ちゃんと覚えてるよ」
「…ほんとに?」
「本当に。ね、だからもう怒んないでさ、何か食べ行こう?」
「…………」

 その大きな瞳で、ソフィアはフェイトをじっと見つめた。
 ここが最良のタイミングだとこれまでの経験から知っているフェイトは、そっと笑って手を差し出す。

「ね、ソフィア」
「…………」

 ソフィアは幼馴染みの顔と手を片方づつ見る。
 逡巡の末、ゆっくりと彼女は彼の手に触れた。

「…もう待ってあげないからね」
「うん、気をつける」

 生真面目にうなずいたフェイトは、どうにか許されたことにほっとする。
 自分より小さい手のひらを痛くない程度の力で包み、肩の力を抜いた。

「さて、じゃあ何食べる?」

 途端に雰囲気を和ませて笑う幼馴染みに、ソフィアは本当に反省しているのだろうかと若干不安になったが、ためいきではなく笑みで彼に応える。

「…とりあえず、座って食べれるところ。立ちっぱなしで脚疲れちゃった」
「…ごめん」
「もういいよ。でもほんとに次はやだからね」
「うん」

 フェイトが神妙な顔つきになる。その顔に弱い自分を、ソフィアは嫌というほど知っている。

「行こ?」

 小さく笑い、互いの手を強く握り直す。
 切れない絆、繋いだ手。

 それはまだ、平穏を信じていた頃の話。








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 久々日記。そしてスターオーシャン。
 三日ほど前から3をやっております。なかなか面白いと言いたいようで、微妙にゲームバランスどうなってんじゃいと言いたいゲームです。

 で、フェイトとソフィア。
 年齢差つき幼馴染み、としか取り説の人物紹介ではわからなかったのですが、ゲーム開始十分で幼馴染み以上恋人未満と確定。私の中ではほぼ決定。
 だって会話がただのバカップルなんだー!
 本人たちは微妙に否定しようが、口喧嘩はただの痴話喧嘩。そんな大学生と女子高生。年上のほうがときどき情けないようで、ときどき男の子。
 えらく久し振りに、名前が和風ではない人を書いた気がします。

 思い返せば三週間ぐらい日記を書いていなかったようで。
 その間も色々なことがありましたが、書くのも長ったらしいので割愛。
 身内の人たちはきっと神咲さんの日記で私の生存確認をしてもらえたんじゃないかと。
 そんな彼女に「毎日日記書かないの?」とか言いくさった奴が三週間放置。なかなか笑えない。姉さん最近頑張ってるね。
 私も毎日頑張らねばならないんですけども、ここは日常を書く日記ではなくあくまでもメインは小ネタであるため、ネタがないときは止まりがちみたい(言い訳)。
 人生って世知辛い(そんなことで悟ったように言うな)。

2003年09月02日(火)



 若菜の碁(笛)(アンダートリオ)。

 パチリ、と硬質の音が盤上に響いた。
 黒石を置いた結人は目線だけで相手の表情を窺う。対戦相手の一馬は口端を上げ、眉間に皺まで寄せている。

(…わかりやすい奴だよなー、一馬って)

 笑わないよう注意しながら、結人は内心くすぐったくなるような思いを堪えた。
 勝てる。
 心地よいその予感に浸りかけ、理性の部分で油断するなと自身を叱咤する。

「…結人、ニヤけてると逆転されるよ」

 そこに近くで見ていたもう一人の声が入った。
 未だルールに明るくない結人と一馬の調停役になっている英士は結人の微細な表情を見事読み取っている。

「英士うっせーよ、ほれ一馬早く打て」
「ちょ、ちょっと待てよ!」
「まあいくらお前が考えたところでこの若菜サマにゃ勝てねえよー」
「そういう台詞は俺に一度でも勝ってから言うんだね、結人。一馬、焦らなくていいから、ゆっくり考えてごらん? ほら右上のあのへんとか」
「コラ英士教えんなタコ!」

 結人の非難もしれっとした態度で無視する英士。ふんふんとうなずきながらレクチャーされる一馬。
 やや置いていかれた気がした結人の行動は早かった。
 盤上に両手を広げがしゃがしゃと掻き回す。

「ああもうやめ! どうせ俺の勝ちでいいだろ!」
「げ! 何すんだよ結人! まだわかんねーだろ!」
「いーんだよ! だいたい人の手借りた時点でお前の負け!」
「…っざけんなよ! そんなの結人の屁理屈じゃねえか!」
「知るか!」
「なんでお前いつもそうなんだよ! 負けそうだといつも逃げやがって!」
「誰が逃げてんだよ! 一馬みてーなヘタレに言われたくねえし!」
「俺だって結人みたいな卑怯者にそんなん言われたくねえよ!」

「いい加減にしなよ、二人とも!!」

 ヒートアップした二人に、怒りを孕んだ流水の声が掛けられた。
 額に皺を寄せ睨むのはごく当然の英士少年だ。ぴたりと残りの怒鳴り合いが止む。

「…一馬、俺が口出ししたのが一番悪かった。これからは一人で考えて。でも結人、まだ対局中なんだから一馬が負けを宣言するまて待つのがマナーだよ」
「…………」
「…………」
「二人とも、返事は」
「……おう」
「……はーい」

 よし、と英士は小さく頷きながらそう口に出した。

「じゃあさっきのところまで並べ直すから、決着つくまでちゃんとやりなよ」
「…英士、覚えてんのか?」
「まあね。俺は勝ったほうと対戦するから頑張りなね」
「じゃあ負けたほう一日下僕な! 結人様って呼べよ一馬!」
「ば…っ、もう勝ったつもりかよ!」
「トーゼン。ヘタレ一馬に負けるかよー。俺は天下の結人様だぜ?」
「俺だって負けねえよ!」
「…どっちでもいいけど、二人とも人んちではもうちょっと静かにしなよ…」








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 友人の林朱音ちゃんが描いてくれたもの。

 すごい楽しそうだ若菜。

 題して若菜の碁。
 今年初めてパソ子の前でキーボードばしばし叩きながら笑いました。
 アンタ最高です林さん。何で若菜くんそんな楽しそうなのー!
 まあそんな感じでなぞらえてみたよ☆ というのが本日の一品。
 実際英士さんが教えてんのは一馬ですが。だって英士さんじゃ多分一馬に味方するんだと思って。出来の悪い子はほっとけないお母さん体質の郭少年。兄弟喧嘩も調停するぜお母さん。

 そんな林さんとは、昨日の司馬くん小ネタを差し出し、見返りとして笛のアンダートリオを頂く約束をしていました(詳しくは彼女のところの日記8月1日参照)。
 確か、

 林:「司馬ピノ書いてくれたらアンダートリオ描くよ」
 桜:「アンダートリオ描いてくれたら司馬ピノ書くよ」

 ザ・平行線。
 終いには「よしじゃあサイトに同時アップで決着をつけよう!」ということに。
 それが昨日(7日)。
 互いに無事サイトに各課題更新。
 や、私がもらったアンダートリオはもうちょっと普通に素敵(失礼)でしたよ!(林さんちの貢ぎ物ページ参照)ありがとうありがとう。
 そっちもにしゃりと笑ったのですが、大爆笑したのは若菜の碁だったので。

 で、翌日の今日は確か以前の約束では昨日の反省会(という名の感想会)のはずだったのですが、飲みたい気分の桜井さん林さんと一緒に飲み屋へゴー。
 いろいろ、喋った気がします。
 一番いろんな意味で危険なのは「某テニスの某H帝はともかく目障りなのよ!」という発言だったかもしれません。ええ当然私が言いましたとも。だって(以下自主規制)。
 暴言アリのトークは身内でなきゃ出来ません(そんなにH帝が嫌いか)(大好きの真後ろに位置するぜ)。

 そして、勢いにまかせ林さんに三上(:笛)を描いてもらうことに!(決定)
 うふふふふ絡んだりすねたりふくれたり「みかみミカミ三上みきゃみ」と言い続けた甲斐がありました(林さん大迷惑)。
 そんなわけで頑張ってね林さんミカミアキラをー!
 私はせこせこ藤代書くから!(私信)
 あと「林さんに笠井竹巳を認識してもらう会」を発足しようかな、とか。
 まあそりゃ普通に読んだ限りで笠井くんを認識している人は稀ではないかと。

 しかしオフラインで笛オタトークを出来る人があの人以外いるなんて、激しく新鮮です(あの人=神咲さん)(固定)。

2003年08月08日(金)



 青空と君と(ミスフル)(司馬と比乃)

 世界は広くて、なんだか飲み込まれそうだった。










 青い空に、白い紙飛行機が飛んで行った。
 同じかたちの淡い影が屋上の床を滑り、ドアをくぐったばかりの司馬は顔を上に向ける。予想通りの姿が給水搭の上で脚をぶらつかせていた。

「あ、シバくーん。やほー」

 膝の上に何枚もの紙を広げ、比乃が手を振る。
 必然的に見上げることになった司馬が表情を和ませる気配がわかると、比乃はさらに嬉しそうに笑った。

「いい天気だよねー。見て見て、紙ヒコーキ!」

 いえい、と言いながら比乃は新たに作った白いそれを司馬のほうに見せた。
 見上げる司馬からは笑う比乃と白い紙飛行機が青空に浮かんでいるようにも見える。

「司馬くんもおいでよー」

 気軽な口調で誘われたが、司馬はひかえめな笑みで首を横に振った。比乃のような軽量級だけならまだしも、狭い給水搭の上に自分まで上ってはうっかりタンクを踏み抜いてしまいそうだ。
 何より、普段は見下ろしてしまう相手の笑顔を青空とセットで見上げるのもそう悪くない。

「そっかー、じゃあ見てて。いくよー」

 小さな掛け声と共に、比乃の手から飛行機が飛んだ。
 宙を切って飛ぶ白い紙飛行機。
 青い空にこの上なくよく映えるそれは、迷いなく真っ直ぐ飛び続け、やがて屋上のフェンスも越えて行った。
 その軌跡をすべて目で追い、太陽の眩しさに瞳を細めた司馬の上に明るい声がかかる。

「よく飛んだでしょ?」

 己の功績を自慢する子供の声。
 司馬が笑ってそれを肯定すると、比乃が全開の笑顔を見せた。
 よく笑う比乃には、青い空がよく似合う。見上げたままの司馬はそんなことを思う。

 ああどうかと、願うならこんな日が相応しい。
 どうか、君がいつまでもそんな風に笑っていてくれないかと。

 青い空に雲が見える。
 笑ってくれる人がいるだけで幸せなのだと思えた午後。









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 …短い。
 林さんこの交換物「司馬と比乃」でしたー!
 私はこの見返りに笛のアンダートリオを頂くのです!(その割にはなんだか短いよー…)(ゴメン)。

 珍しく司馬くん視点オンリー。
 しかし喋らないキャラというせいか、端から見たら比乃くん一人芝居に…。
 しかも実は紙飛行機ネタは以前から三上(:笛)で書こうとしていたのですが、比乃にしたら三上より可愛いだろうなあ、ということで書いてみました☆ という裏話。
 三上くんは成績が良くなかった古典のテストで紙飛行機を折り、飛ばして「ああせいせいした」と思った直後に、「あんな点のテスト用紙誰かに見られたら…!」と青ざめて探しに行く話でした。おバカさん。

2003年08月07日(木)

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