a Day in Our Life
2007年01月24日(水) |
水面下。(淳太と大智) |
「淳太くん、それは計算なん?」
質問には答えないまま、中間淳太は中田大智を振り返った。 「何が?」 「村上くんに媚びる作戦なん?」 直球で聞いてみたら、予想に反して中間は微笑んだ。関ジャニでは珍しい王子様キャラと言われる微笑みは、向けられたのが女の子なら、それだけで射抜かれたに違いない。けれど、中田は女の子ではないし、まして中間にそういう意味での好意は抱いていなかった。あくまで今現在の中田大智の好意は、殆ど一人に向けられていたから。 「大智がそう思うんなら、それでもええけど」 どうせ答えは見えているのだろう、と中間は言外にそう語りかける。綺麗に笑みをかたどった美貌はさすがジャニーズとも言えて、渦中の人物が面食いである事を彼はきっと、心得ているに違いなかった。ウブでピュアな好青年なんて嘘だ、と中田は思う。けれど、そのやり口は嫌いではなかった。 「まぁ、ええか。お互い手の内見せてもオモロないし」 やろ?淳太くん。 笑みを返せば僅かに肩をすくめた中間が大智は怖いわ、と呟く。それを誉め言葉と受け止めて、互いの健闘を祈った。
***** こんなんだったらいいなぁ!という…(以下略)
「またスイーツ?」
丸山の手の平に乗せられた甘そうなケーキを一瞥した村上は、僅かに顔を顰めた。確か数時間前にも甘そうなシュークリームを食べていた気がすると思い出して、更に顔を顰める。もともとがそう甘いものは好きではない村上だから、何がそんなに糖分ばかり取ろうとするのか、全く分からない。 「でも、美味しいんですよ。体が欲しがるんやから、しゃぁないでしょ」 と他人事のように言った丸山は、もうケーキにかぶりつく。フォークも使わずにまるかじりな辺りは男らしいと言えただろうか。そのアンバランスさが丸山らしいと言えば、丸山らしいけれど。 「ていうかお前それ、病気やで」 「何がですか?」 病気呼ばわりにケーキを口に入れたまま、少しの抗議を込めて村上を振り向く。と、目が合った村上は、笑ってはいなかった。 「人間疲れると甘いもんが欲しなるって言うやろ。お前それ、慢性的に疲れとんねん。周りに気ィ使って、ムードメーカー的な役割が、実は性に合うてへんの違うか」 言った村上は真直ぐに丸山を見据えて。下手な誤魔化しをしても見透かされそうな気がした。けれど実際の丸山には身に覚えがあるようなないような、無理をしているつもりはなかったから、村上の言い様の意味が分からない。 「自覚がないんやったら、尚更タチが悪いわ」 ふん、と鼻を鳴らした村上は、にべもない。思わず丸山は苦笑いを浮かべた。何がそんなに、村上の機嫌を損ねたのかと頭を巡らす。その思案顔がまた、村上の苛立ちを増幅させたようだった。 「マル、お前。人には好きや愛してる言うて両手広げといて、その実、完全な手の内は見せへんって卑怯や思わへんか」 ホンマのお前はどこにおんねん。今、見えてるんが全てとちゃうやろ。 むしろ本当の丸山はもっとずっと奥深く、丸山ですら容易には見えないところに居るのではないか。言って村上は丸山を覗き込む。まるでその漆黒の闇の向こうを探るみたいに。 「いややなぁ、村上くん」 村上くんこそ疲れてるんとちゃいますか? 俺にそんな器用な事が出来る訳ないでしょ、と笑ってみせた丸山の、その唇が僅かに歪んだ。 そしてその内心で、密かに微笑う。
あぁ、村上くんには殆どもう、バレている――――。
***** 病んだ丸ちゃんを書いてみたくて。
「疲れとる?」
見て分かる程度には疲れた顔をした横山を前に、村上は微笑みを浮かべた。 久し振りのドラマ仕事は、まだ見知った顔が一人でもいただけよかったけれど、人見知りな横山の気苦労は恐らく、村上が想像する以上なのだと思う。基本が人懐っこく出来ている村上自身には実際、初対面の人に対する必要以上の”疲れ”が分からない。 黙って頷いた横山は、軽口を叩く体力もないらしい。それともそれは数十時間振りに気心の知れた相手に対する安心だっただろうか。どすん、と重力に逆らわずに腰を落としたソファが、大きな振動と共に揺れる。まだ笑い顔を浮かべたままの村上は、膝の上に開いた雑誌は閉じないままに、ちらりと目線を流した。 背もたれに頭を預けて、天井を見遣った横山はふう、と大きく息を吐く。それから左右に肩を揺らして、それで気持ち、疲れを吐き出したかのような。けれどその両肩にずっしりと乗った重みは、きっとまだ残っている筈で。 「……疲れた」 ぽつん、とやっと、吐き出された言葉と同時に、横山の頭が僅かに傾く。こつんと丸い感触がして、肩に乗ったのだと分かった。そうやって、横山が甘えるのは珍しかったから、村上は、横山がよほど疲れているのだと知れた。 「お疲れやなぁ」 くすりと笑って、それ以上はいじるつもりもなく、黙って読みかけの雑誌に目を落とした。そうされた横山は、ゆっくりと目を閉じる。 自分はたぶん、甘えるのも甘やかすのも下手だと自覚をしているけれど、今、そうやって甘えるように村上の肩を借りて。それが何だか心地いいと思った。たったそれだけで実際の疲れが取れる筈もないのだけれど、それでも気持ちは随分と楽になる気がした。ただ、そこにある肩に凭れるだけで。「お疲れ」と囁く声を聞くだけで。 また一つ、息を吐く。 次の仕事まであと数十分、それまでもう少し、こうしていようと思った。
***** 新年早々、疲れてました。
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