a Day in Our Life
2005年04月13日(水) |
桜の森の満開の下。(亮雛) |
今夜、時間貰えますか。
そう問われて頷いた先に連れて来られたのは、夜の寺だった。 桜で有名なその寺は、時期が時期ならきっとカップルが多く訪れていただろうけれど、満開にはまだ少し早いその場所には他に人気もなく、ただひっそりと彼らを迎え入れた。 「桜?」 「そう。花見したことない、て言うてたでしょ」 笑い顔を浮かべた錦戸の背後には、風に揺らぐ桜の花弁。 「聞いてたんや?」 「あなたのことなら、いつでも聞き耳は立ててますよ」 それはラジオか何かの余談だったような気がする。とにかくメンバーとの他愛のない会話を錦戸は聞いて、望まれるままにここに連れて来たらしい。確かに花見には違いないけれど、あえて夜桜、というのが錦戸らしいと村上は思った。まぁ最近はそれぞれ仕事が忙しくて、日中に花見をするような時間はとても取れなかったのだけれど。 「花見、言うたらビニールシート敷いて酒飲んで宴会するもんや思てたけど」 「そうしたいんならしますけど?」 「いや、別にええわ」 むしろあれは実際は、花なんか見てへんもんな。こっちのが本当の意味で”花見”な気がする。言って村上は桜を見上げる、その横顔を見遣る真っ直ぐな視線を感じた。 錦戸は、そうやっていつでも村上に対しアンテナを立てて、いつでも望む通りにしてくれようとする。年下なのにそうされることに抵抗はなくて、それが不思議だと村上は思う。まるで当たり前のように受け入れる自分は、愛されているのか、それもよく分からなかった。 ふわり、と風が吹いて優しく桜を揺らした。 「そこ、危ないですよ」 桜を見上げるあまり、僅かな段差に躓きそうになるのをやんわりとした声で止められた。思わず錦戸を振り返ると穏やかに笑んだ顔が、黙って手を差し出す。 「うっかり転ばへんように」 そんな理由で手を繋いで、それで何だか満ち足りて。握った手はじんわりと温かくて、やや肌寒い体を少しでも暖める。黙ってされるがままに手を繋ぎ、ただ二人で桜を見上げた。手が届きそうな夜空の下に、儚くも華やかな、淡いピンクの美しい花々。 「…綺麗やなぁ」 忙しい日々の中で、こんな穏やかな気持ちは久し振りだと思った。ただ静かで柔らかな。そうさせるのはきっと隣の、 「また花見したなったら、いつでも連れて来ますよ」 微笑う錦戸に夜桜が映えて。その時感じた気持ちは、きっと間違いなく。
幸せ、と呼べたに違いない。
***** 辛い時期でした。
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