妄想日記 

2003年11月20日(木) ぬいぐるみ(純アニ)

練習でへとへとになって帰ってきた俺の目に飛びこんできたのは。ソファに寝そべるアニキと、大きなぬいぐるみ。



なにやってんの、コイツは。



昨日から帰ってきてないから、疲れ果てて力つきたんだろう。自分の部屋に戻らずにリビングのソファに横になったらそのまま寝てしまったんだろう。
それはわかる。
遊びすぎだっつーこととか、元々体力ないんだから、すぐにへばることとか。そんなことは、一番被害を受けてるんだから、十分知ってる。
だから、ここで寝てるのもわかるしいつものことだし。
別になにかしてやるわけでもなく、そのまま寝かせておくだけだから。別に問題はない・・・・・はずだった。
けど、その日は違っていた。




寝てるアニキの腕には、大きなクマのぬいぐるみが抱かれていた。
そんなもの、男兄弟であるうちにはあるわけがなく。別段少女趣味を持ってるわけでもないから。この家でぬいぐるみ。なんてありえないし。



けど、アニキの手には、ぬいぐるみ。



また、なにしてきたんだよ。
もらい物かなんか知らないけど、どうせロクなことじゃないだろうって。ため息つきながら、アニキの眠るソファの前に座る。
買ってきたコーラを飲みながら、目の前の光景をじっと眺める。
普通は、大の男がぬいぐるみを抱えてる図なんて、気持ちわるいだけだ。女だって、ぬいぐるみ抱いてるのが似合うやつなんてあんまいない。大抵、なにしてんだよって冷たい目で見られるのがオチだ。
だから、目の前の男も。気持ちわるいっつ−か年考えろっつーか。だいたいぬいぐるみを抱く自体間違ってんじゃねー?
なんて思うはずだ。



思ったんだ、最初は。目の前で見るまでは。





「ん・・・・」
人の気配に気付いたのか、アニキがゆっくりと身じろぎする。
なんでか知らないけど、少し慌てて。座る姿勢を直したりして。アニキが目覚めるのを見つめた。
瞬きを数回したあと、ゆっくりと焦点をあわせながら起きあがってくる。そこで初めて俺の存在に気付いたらしく。眠い目を擦りながらも見つめてくる。
「よう、純」
「よう、じゃないよ。なに、それ」
寝ぼけてるのか、指差したのによくわかってない感じで。不思議そうに見つめてくるのに。なんでかしらないけど、どうしようもなく感じながら。
「ぬいぐるみ。どうしたの」
やっと気付いたらしく、アニキは手にしたぬいぐるみを少しだけ離して。ニコっと嬉しそうに笑いながら見せてくる。
「パチンコでゲットした!かわいいだろ?」
クマのぬいぐるみを抱きかかえながら、頭の上に顎を乗せて小首を傾げながら聞いてくる姿は。
21歳のすることじゃないよとか、ぬいぐるみが嬉しいっておかしいとか。そんな
建前もあったんだけど。
ぬいぐるみがかわいい?なんて聞いてくるけど。




はっきりいって。
そういうあんたのがかわいいっつーの。





ふわふわとした感触がよほど気に入ったらしく、ぎゅっと抱きしめながら顔をうずめる姿は、はっきりいって。反則。






「抱き心地、いいんだー!」
さっきから嬉しそうに笑ってるの見てるのは、かわいいからいいんだけど。
けど、ずっとそうされてると。段々むかついてくる。

「俺がいるのに、なにに抱き付いてんだよ」
「え?!わ!」

引き寄せると驚いたアニキは、抱きしめたぬいぐるみを離した。そうして腕にすっぽりと収まるのに満足したあと、俺にとっては誰よりも抱き心地のいいカラダを抱きしめた。



2003年11月08日(土) 『会いたい』(ぶつアニつうかぶつ←アニ)


長い、空まで続くんじゃないかってくらい長い階段を登りきると。
ぶっさんの眠る、場所に辿りついた。



「こんなとこに作ったらさあ。
メンドくさくてぜってー来ないよ」



ぶっさんの墓が出来た日。
墓の前でみんなで集まったときに、呟いた通り。
俺は、年に一回しか来なくなった。



バンビは怒ってて。うっちーは困ってて。
マスターは苦笑いを浮かべていたけど。



だって、しょーがねーじゃん。
来たくなかったんだもん。








ぶっさんが眠る、場所になんて。








なんんも、な〜んにも答えない相手に会いにくるなんて。
つまんねーだけだし。
 







「だって、一人でブツブツ言ってたら馬鹿みてーじゃん?」
なんて、言ったとこで答えが返ってくるわけないし。
単なる『石』に向かって話しかけてる時点で、馬鹿みてーなんだろうなって。苦笑い浮かべた。
けど、今日だけは・・・年に1回だけは。
ここで、この『石』に向かって。話しかけたいんだ。







「ねえぶっさん・・・もう俺、24歳になったよ」







女の子でいう、適齢期だよな。なんて笑って。
ぼんやりと、変わっていく回りを思い浮かべながら、呟いた。





「ぶっさんより、年上になっちゃったよ」





当たり前だよね。
ぶっさんは23歳のまま止まってるんだから。
『生きてる』俺と、『死んでる』ぶっさんじゃ、時間が違うんだって、当たり前のことなんだけど。
1個上になって、始めて思った。
ずっと、小さいときからずぅっと同い年だったのに。先輩になっちゃって。これからはずっと、ずぅっと上になっちゃうんだ。




「ぶっさん好みの、年上になっちゃったよ」







今もバーバータブチで働いてる、ぶっさんよりも年上でも。でもかわいらしい人。
ぶっさんと「結婚」した人。
ぶっさんの、奥さん。
あの人を紹介されたとき。
『年上が好きなんだよなぁ』って言ってたぶっさんの言葉思い出して。ああ、やっぱりこういう人を選んだんだってなんとなく納得して。
あと、もしかしたら残りわずかの命かもしれないけど、一緒にいることを望んだ相手って。




やっぱ、俺じゃ駄目なんだ。




ずっと、思ってた。
ずうっと、小さいときから一緒にいて。これからもずっと一緒にいると思ってたぶっさんが。急に消えてしまうと知って。
それで、初めて自分のなかでのぶっさんの気持ちとか存在の大きさとか思い知らされて。
あらためて、思い知らされたような気がして。




「好き」




その言葉が浮かんでいたけど。
消えて行くぶっさんには、この気持ちは迷惑なだけだって思ってた。
受け入れてもらえるなんて思ってないし。仲間だと思ってたやつから告られても。
優しいぶっさんのことだから、重荷になるって思った。
そんな荷物背負わせたまま逝かせるなんて、出来ないって思った。




だから。
俺、馬鹿だけど一生懸命考えて。
ぶっさんに知られないように、一生懸命隠し続けた。






「けど、言えば良かったかなあ」






マスターは俺の気持ちわかってたみたいで。
ぶっさんの葬式のとき、気持ちを伝えたのかって聞かれて。言わなかったって言ったら。
ため息つきながら。


「馬鹿だなぁ」


なんて苦笑いされた。
俺もつられて笑った。




ぶっさんなら、受け止めてくれたかもしれないって。
あとになって思った。











「ねえぶっさん」






24歳で、ぶっさんよりも年上になった俺。






「今なら・・・・・好きになってくれたかなぁ?」








答えが返ってくるわけないのに。
ぶっさんに向かって、呟いた。


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薫 [MAIL]

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