約束破り


横目でちらりと盗み見る世界は
暗黙とかいう訳の判らない強迫観念が蔓延っていて
それはそれはとても温くて心地良さそうだ。

夜の闇は案外と明るくなってしまって
迫る朝への期待とか
繰り返す惰性の緩やかさとかが
何だかまるで滑稽になってしまう。

僕はいつでも簡単に揺らぐから
繋ぎとめるのが好きなあの子には
やっぱり遣り難いのだろうけれど
つまらない行程をひたすら反復することが
幸せになるコツだって信じているらしい。
ならばこっそり便乗しよう。

だから僕は
その幸せがどんなものなのか
ちゃんと見届けるまで
もう馬鹿なことはしないって約束するよ。



翻弄


小さな音のはじっこにある
案外と大きな損傷
気付かぬままに閉じ込めてしまっていた
神様がこっそりした悪戯に
わたし達は簡単に翻弄されてしまう

世界の片隅で
神の名の元に
君は待っている
それがどんなに危うくて
すぐに揺らぐ決意でも

待っていてね





大丈夫


うん大丈夫
いや大丈夫
もう大丈夫
まだ大丈夫

この先哀しい思いをしても
多分
きっと
大丈夫だよ。




終焉


終わり方ってさ、大事だよね。
ほら、そんな諺もあるじゃない。
うん、そうそう。


僕はいつでも終わりばかり気になって
疎かに物事のスタートを切る。
だから実力以下のチカラしか発揮出来ないのか
それとも所詮それが実力なのか。

君はいつでも始まりばかり気になって
最後の最後に失敗する。
だから実力以下のチカラしか発揮出来ないのか
それとも所詮その程度の人なのか。

でも僕は、それが面白い。
分析しちゃうと何とも簡単なんだけど
いざ挑むと何とも簡単じゃない。

だから君は
いつも最後に失敗するんでしょう?
だから僕は
いつも最後を夢想するんでしょう?


退廃的だ。




あなたのもの


時の流れる事の何と恐ろしい事。
物体は擦り減っていく。美しく醜く。
あなたの創ったこの世界
いつか全て消える。
人間は虚しい。

それを。あの人は。
あんなにも簡単に言ってしまった。

あなたの闇が見えないように
しっかり蓋をしなくては
わたし達は魅了されてしまう。




上手


緩い坂道のような堕落

物足りないほどの昂揚

あなたを好きだと言う事は

いつもそんな絶望がある




乙女心となんとやら

秋の青い空だ。

コレといった理由はなく
睡眠という安息を
放棄してしまった今日に限って
必要以上に晴天だったりするから
全く目が痛くなるほど眩しい訳で。

声は遠く。
真意は何処やら。
「本当」なんて優しさを
鵜呑みにして。


第三者が関わるコトで
事態を収束出来るのを憶えると
「そういう2人」になってしまいそうだから
いつまでも知らん振りしてた。

知らん振りしていたかった。
認めたくなかったけど
僕が気付いたのが遅かっただけ。

あの人は判ってて
なるべく「ステキな人」のまま
僕に接していてくれたのかも。


受け止める側次第か。

だからコロコロ変わってしまうのだ。




落し物


切ないような虚しいような

何も失くしていないはずなのに
ぽっかりと何かが抜けているような
穴が開いているような


気付かぬうちに
何か落してしまったのだろうか
何か忘れてしまったのだろうか




世界


誰かが言ってた。
「世界はわたしが廻してる」


今更だけど
余りにも的を得過ぎていて
わたしは愕然とする。

ああ、そうか。
そうだったよな。

世界はいつも此処だけにあって、
世界はいつも何処にもなかった。







いいんだ。

僕は生きているから。







君の声を夢想する

好きだという一言すら
伝えられない
余りにも孤高過ぎて

時空を越えて
現実と幻想を超えて

多くを望まないと言いながら
君がわたしだけに言う特別な言葉を
聞きたがっている




切なさ


枕につけた埋もれた耳側から
ちょろちょろと小川の様な水流が聞える

わたしは少し安心して
昔に思いを馳せる

手段の少なかった世の中で
人間に生まれた切なさは
距離でも情でもなく
時間だと気付いた時に

わたしと
その燃えるような空白の間に
恋人との再会に似た
喜びも感じた


風が吹くような懐かしさ
土が匂うような哀しさ
水音のような穏やかさ
炎のような激しさ

遠く過ぎ去った時間が
それらの切なさを生んでいる


刹那とは
切なさからきた言葉だろうか




向上


出来るかい?


言葉を理解出来ても
言葉の意味を理解出来る事なんて
稀にしかないのかも。

判っていて

いつもキミはボクを試すんでしょう?





信じている


流れる鐘が君にも聞こえている
それは耳を塞ぎたくなるほど静寂に過ぎる時の音

君はこっそり抜け出して
僕に会いに来る

信じている
僕の中の君は変わらない
信じている
君の中の僕は揺るぎない

砂利に埋もれる
小さな石の構造さえ知らないけれど

その存在意義を
見えている部分が全て真実と
信じている

君は何度も耳を塞ぐ







以前はあんなに怖かった朝焼けが
今では愛しい

命の光が弱くなっていくような不安


簡単でいいから声をかけてね
妙な孤独感を味わうのは
誰かが傍にいるせいだとやっと気が付いた






小さなノート


部屋の掃除をしていたら
乱雑な字の詰まったノートを見つけた。


過去の自分は 別の人。

『死ぬ事も出来ないのに
生きる事の方が辛いなんてあんまりだ。』

すみの方に小さい文字。

いつだったか
死んでしまいたいと思った事。
その余りに刹那な気持ちを
上手にあしらう事も出来なかった頃。


本気だった訳じゃなかったのかもしれない。

だけど他人に言われると
とても悲しい言葉。




忘れないで。


すごいね、と言うけれど
僕はいつでも君の言葉が鮮明。

その閃きの向こうに
緩やかな冒涜。


君は少し優し過ぎる。
貶める人が居る事も憶えた方がいいのに。


僕は君のその
鮮明な冒涜に
戦慄しながら惹かれるという
自虐的性癖の持ち主なんだ。


それでも君は
僕を受け入れると言うのか。




発表会


理不尽な物言い

だけど正誤の区別さえ出来ない

その個人世界の披露を

わざわざする必要が何処にあるというのか

悪い事なら忘れてしまえばいい

友人や恋人 などと言う枠の中で

のうのうとあぐらをかく弱き人に

同じように個人世界を生きる僕が

何を言えるのか


それでも

傷付けた事 傷付いた事

僕は忘れない




凶器


敵と味方

てのひらに余る凶器


あなたを傷付けるのは
多分とても簡単だけど

それよりも上手に
わたしが傷付いてしまう





ひなまつり


小さい頃 
何時間も雛壇の前にいて
その遠いような近いような目を眺めてた

学業の意味
ちょっとだけ判ってきた高校生活は
いつも窓の外に見える
桜の木が全てで

誰しもが
学生生活が一番愉しかったよ
何て言うけれど

この苦しさや心地悪さから
開放される事ばかり思う


家では
もう出す事さえ何年も躊躇った雛飾りを
母がこっそりと出していた

遠いような近い目が
僕の気持ちを見透かすようだった




静寂の夜


独りで居る事を意識する時は
逆に必ず誰かを意識していて

何故か恋しい誰かが居ない時の方が
独りを充分満喫出来たり
雪の降る窓の外を眺めても
その孤独感に耐えられたりするのに


会いたいと思うこと

好きとか愛してるとか
その大まかな言葉の意味を理解出来ないまま
がむしゃらに走るような気持ち

学生の頃のような


もうそんなに若くないはずなのに
あの頃のような情熱を抱えて

まだ良く判らない
その大まかな言葉の意味を
独りかみしめる
音のない季節




環境


ひとつ 思い出。


景色は変わる。
あの頃寒空が白むまで
何をするでもなく居座っていた
桜の生い茂る小さい公園は、

大きな駐車場を兼ねて
広々と小奇麗な
見通しのいい冷たい広場になっている。


若さとパワー。

必ずしも比例する訳ではないけれど
今、無意味だと思うあの時間を
大切だと思えてた頃のチカラは

やはり今のわたしにはない。


それでも、
その無意味と思える時間を繰り返して
何となく大人に近付いている。

大人、
というその定義を
まだ判らないままで。



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