詩-生人-

2009年05月31日(日) 穴と栗鼠

穴に潜り込んだのは 何か悪戯をしたかったから?
そんな言い訳が蘇るのは
一瞬の喜びがあるからで

穴に潜り込んだのは 何か怯えた性だったから?
そんな戯言に左右されるのは
一瞬の油断があるからで

素早くあちらの穴へ 素早くそちらの穴へ
幾つもの塒を変える 栗鼠

穴へ潜り込む その一瞬に
愛想笑いを残して

穴へ潜り込む その瞬きに
哲学を晒して

栗鼠は行く
奥へ 奥へ 



2009年05月30日(土) 人間牧場

放牧された人間の柵に
地球はやがて侵されていく

愚直なまでに真っ直ぐな絶望に燃え尽きた嘘
人間の魂は燃やされて
やがて 朽ちていく

別れの挨拶に出る言葉は
さようなら ではなく

放された想いを巡る旅に出た
人間の欲求をそのままにしたカタチ

人間が放し飼われる この土地で
人間はありのままを見せ合う事も出来ず

唯 土へとの変貌を待つのみ



2009年05月29日(金) 赤目の猿

静かな夜に躍動する
静かな夜だから 辺りを伺う

曇りのち時々 溢れる涙
気づけば朝がやってくる

静かな夜に気配を感じ
波打つ鼓動に気を取られ

赤目の猿は 頭を抱える
寂しさも
侘しさも

全て抱えきれないくせに
全て抱え様と足掻き

眠れぬ静かな夜は
朝の汽笛と共に 暮れていく



2009年05月28日(木) 東京奇談

人混みの中
私を知るのは 一体何人?
人混みの中
私が知るのは 一体何人?

大きな大きな「街」というカテゴライズの中
私という存在は何故
孤独ばかりを吸い尽くす
孤独ばかりを抱え込む?

私の中には 一体何人の孤独が眠る?

ほら

私のお腹の中で 今宵も誰かの孤独が着床する

泡を吹いて 視線を避けて
私のお腹の中で 巣を作り棲まう。

人混みの中
私が抱えるのは 一体何?
人混みの中
私が抱きしめるのは 一体誰の「 」?



2009年05月27日(水) 過激な正義

痛みとか
苦しみとか
絶望とか
失望とか

叫びに惑わされて

自分の自律は何処にあるのやら…

信じたいのは
認めたいのは

そんな事じゃない
そんなものじゃない

私が此処で 大声を挙げて
宣言したいのは

図々しいまでに 肥大した偽善と
弱弱しいまでに 縮小した真相と

壊れきった秩序に他ならない。

壊すば、失う。
失えば、無に。

ならば、立て。
ならば、建て。

叫びに惑わされた
嘘を今日も吐くのか…?



2009年05月26日(火) 雨ニ恋シテ

しとしと と 闇に降る
じめじめ と 闇に彷徨う

雨の中

僕は僕を知るんだ

雨の中

僕は僕を貶す

しとしと と 闇に打つ
じめじめ と 闇に漂う

雨の中

僕は僕を促し
僕は僕に命ずる

雨の中

僕は失意の中
僕は光り輝く 滴を知って

雨の中

走り出す。



2009年05月25日(月) 窮屈な商い

心を縛り上げるのは 貴方の勝手よ
心を滅するのは 貴方の自由でしょう

私が売るのは 此の身一つ
私が差し出せるのは 此の身一つ

お口も穴も
瞳も
足も
手も

此の身の全て晒け出して
貴方に売っても

私の支配者は私自身よ
幾ら積まれても
幾らせがまれても
これだけは 差し出せないのだから。

嗚呼

なんて 稚拙な商いなんでしょう?

嗚呼

なんて ちょろい交換なんでしょう?

世に恥じる 窮屈ささえなければ
私の商いはなんて簡単なんでしょう…



2009年05月24日(日) 大江戸に降る星

何処か遠くに出てみれば
何処か遠くの空の彼方に

降り注ぐような光線が
まるで餓鬼が玩具を散らかした様に

交わって喚いて散らかして

何処かで誰かが泣いている
何処かで誰かが喚いてる

隣人の声が聞こえる 薄い囲いに
体を捻じらせ突っ込んで

交わりに気づかぬ様に

降り注ぐのは中傷か悪夢か
抽出されていく気力と寿命
降り注ぐ愚言の数々に
受け止めきれぬ失望の嵐

夜空を見上げれば 輝きを増す星々
今日も我が街に 降ってくる報い

何処か遠くに出てみれば
何処かで誰かが泣いている
何処か遠くの空の彼方に
何処かの誰かが祈ってる…



2009年05月23日(土) 助演ノ女

私の人生を誰かが測ることなんて許しはしない
私の想いを誰かが勝手に憶測するのなんて もっての他だ!

誰かの下で 私は私で在り続け
誰かの下で 私は私を演じ続け

帰ってくるのは いつも貴方の方で
注目を浴びるのも いつも貴方で

スポットライトの端の方 一番輝く私が居る
スポットライトの端の方 一番輝く貴方を見やる

貴方の輝きが 私の輝き
貴方が一番輝く時 私が一番輝く時



2009年05月22日(金) 爆音心臓

ドクドク
ドクドク
ドクドク
ドクドク

破裂しそうな程
大きな音を響かせて

ドクドク
ドクドク
ドクドク
ドクドク

息が止まりそうな程
大きな音が輪廻して

轟く

もうすぐ君に会いに行く −。



2009年05月21日(木) 月を繋ぐ星々の宴

一双の笹の船を 夜空に浮かべ
星々の上を 泳がせて

辿り着くのは 月の裏側か?

一双の笹の船は 夜空を跨いで
星々の上を 横切って

辿り着くのは 月の表面か?

想いに馳せる 月夜
想いを巡らす 月影

浮かぶ言葉は「 」
病める心は 一双の笹の船に

月を繋ぐ 星々の間を
すり抜けて 巡るは月の宴へ
月面で繰り広げられる 御伽の宴



2009年05月20日(水) 社会離脱

カテゴライズされない透明な存在性を
社会は嫌い

罠は仕組まれ

思考と言うバラドックスに嵌り
孤独は肥大し

罠に掛かり

切り離された家庭という密室の中で
存在を主張し

罠に毒され

断たれていく現実と引き込まれていく妄想の狭間
昼夜逆転した生活が

罠を巻きつかせる

離れない邪推
離れる協調性

枠を粋とする慣性
罠は今日も渦巻く



2009年05月19日(火) 柔らかな胸

君の胸に触れてみたいと
夢にまで見た
君の胸に触れてみたいと
憬れていた

柔らかな感触
滑らかな曲線

その 美しさに魅入られて
その 綺麗さに心奪われて

君の胸に触れてみたいと
いつも思った
君の胸に触れてみたいと
いつも考えた

乱れる思考
溶ける様な錯覚

その 感情に常軌を逸し
その 感性に我を失う

君の胸に触れた所で
柔らかな胸に 触れた所で

その 感動を呼び覚ます事はない



2009年05月18日(月) 喫煙する彼女

煙の中
君の真意を 見誤って
煙の中
もう少し 不器用に立ち回れば可愛らしさも出たのだろうか?

ぽつんぽつんと 明かりが灯る
街の景色が時間を教える

ゴミ捨て場の端で 数本の吸い殻が
思い出すのは 冬の寒い日

煙の中
君の横顔が 曇って見えて
煙の中
もう少し 器用に動ければ大人ぽっく着飾れただろうか?

ぽつんぽつんと 明かりを遮る
ベランダの洗濯物は 今は一人分

洗面所の鏡の前 使う人の居ない洗顔料
思い出すのは 初夏の昼下がり

煙の中
君の素顔を 初めて見た気がして
煙の中
もう少し このままで居たいと思った

煙の中
君の横顔が 綺麗に見えて
煙の中
もう少しだけ 思い出に浸っていたいと思った



2009年05月10日(日) 宇宙の隅で君と。

満点の星空の下
僕は満足そうに頭上を眺める

君のいない世界の涯てなど想像できない
輝く星に誓っても

君と僕の限られた世界の中で
僕は君を想い
君が僕を想ってくれるのなら

満点の星空の下
僕は隣人の顔を見つめる

君のいない宇宙の隅で孤独を抱える事なんて出来ない
輝く星があろうとも

君と僕の限られた世界の中で
僕は君を想う
君は僕を想ってくれるかい?

満点の星空の下
欠点だらけの僕と君

たったひとつの 宇宙の隅で。



2009年05月08日(金) 切なき雨音

街角には人の群れ
真黒な雲が 空を覆っている

すれ違う人の顔
何処か寂しさが漂って

傘で顔を隠して歩く
同じ道を二人で歩いた
あれから今日でどのくらい?

街角には傘の群れ
空を見上げれば 雨が降る

すれ違う人の顔
何処か懐かしさが漂って

傘で顔を隠して歩く
後姿に見とれてしまった
あれから今日でどのくらい?

傘で顔を隠して歩く
同じ道を一人で歩いた
あれから今日までどのくらい?



2009年05月07日(木) 仮病の上手なお医者様

白衣の下には 同じもの
白衣の上から こんにちは

今日はお腹が痛くなる
昨日は頭が痛かった

今夜も主の帰らない部屋
待ち人一人 帰っていく

白衣の下の欲望よ
白衣の上から覗いてる

明日は胸が痛くなる
明後日は咳が止まらない

今夜も主は帰らない
待ち人今日も待ちぼうけ

仮病の上手なお医者様
診断者には一行だけ

「おやすみなさい」の暗号が



2009年05月06日(水) もう好きにはならないと。

言葉ほど非力な存在はなくて
隣の隣に 笑顔を漂わせ

無力な一日の片隅に
色彩を求めて 立ち尽くす

もう好きにはならないと。
もう好きにはなれないと。

いつでも 浮かぶ綿雲の
白さが胸に広がっていく

言葉には頼り切れない想いがあって
隣の隣に 目配せをして

無力な一日の往生際に
色彩が煌めいて 真っ直ぐに

もう好きにはならないと。
もう好きにはなれないと。

いつかは 同じ空の下
泣き出しそうな空の下

もう好きにはならないと。
もう好きにはなれないと。

いつでも 浮かぶ満月が
欠けていく様に 胸が痛い



2009年05月05日(火) 密室思考

閉じ込められたのは いつ頃からだったのだろう…?

何時 誰に 閉じ込められたのか
記憶に無い

何故 僕が 閉じ込められたのか
記憶が無い

いつも 同じ場所に来ては
行き詰る

詰将棋ならば もう詰んでいる筈なのに
途方もなく終わらない

閉じ込められたのは 体じゃなくて思考だから

ひとりで抱えるミステリーは とても孤独だから
ひとりで怯える時間は とても無情だから

この密室から 解放される鍵は
多分 扉を叩けばいいんだ



2009年05月04日(月) 奇人の朝

起動音と共に目を覚ましたら
朝だった

今日も虚空を泳ぐ夢を見た
空にはわかめが漂い いい出汁を出していた

今日の朝食に味噌汁はない
空が出汁を出すのに使い過ぎた為だ

起動音が鳴り止む前に
歯を研いで

まだ眠そうな朝の空気を噛み砕く
みんな似た様なお面を身につけて

通勤列車に雪崩れ込む
そんな満腹な 列車の中は丸で無意味さ

僕は始発の列車に乗って
悠々自適に読書する

さて 今日は何を読んでやろうか…?
選んだ本には 出汁が一杯出ていた



2009年05月03日(日) 鎧を着た紳士

丁寧に折り目を正した背広を纏う後姿を
横目で見ながら 珈琲を啜る僕の姿

鏡に映る自分の姿は とても滑稽
穴の開いたジーンズが 自分の欠点を指摘する

心の折れた蟻んこは 踏みつぶされるまで
現場で待機

綺麗なハンカチをポケットに仕舞う仕草を
横目で見ながら 新聞紙を広げる僕の姿

傍目からどう映っているのか
スポーツ面ぐらいしか興味の無い 自分が恥ずかしい

心の折れた蟻んこを 丁寧に踏んで行くのは
鎧を着た集団

心許ない蟻んこを 端っこへ追いやるのは
鎧を着た紳士

社会と言う頑丈な鎧は
僕には手の届かない 向こう側へ



2009年05月02日(土) 悪魔の翼

黒い羽根 ひとつ

空の彼方に堕ちていく日常
夜は世界を支配する

黒く染まる空の端で 
今宵も小さく 星が瞬く

囁き声さえ響きそうな 静寂に
翼を靡かせて 空を舞う

想いは遠く 時間が遠く
連れ去っていく
想いはいつも 時間がいつも
消していく

黒い羽根 ひとつ
僕の頬を掠めて 落ちた

足音さえ響きそうな 静寂に
翼の動く 音が伝わる

想いは何処か 時間が遠くへ
連れ去っていく
想いはいつも 時間がいつも
消していく

黒い羽根 ひとつ
いつでも 此処に 落ちている



2009年05月01日(金) 大体、嘘。

言葉巧みに 遊びを続ける
暮れるには早い夜

言葉巧みに 遊びを楽しむ
明けるには早い朝

煙の中で 繰り返すのは
意味の無い戯れ

煙の影に 隠れるのは
意味の無い交わり

一日が指し示すのは
大体の期限
大体の寿命

鮮度を日々 落としていく
世代の中央

言葉巧みに 発し続ける囁きの
真相は闇の中

そんな言葉は 大体、嘘。


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沢野生人

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