女の世紀を旅する
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2010年10月13日(水) |
世界の食糧危機(漁業):魚が足りない. |
世界の食糧危機(漁業):魚が足りない.
●タコ争奪戦
ここ数年、西サハラ沖ではタコの争奪戦が熾烈になっている。日本人は世界で一番タコを食べる国民で、現在、最も量が多いのはアフリカ北西部のモーリタニア産だ。以前は隣国モロッコが主産国だったが、資源の減ったモロッコは漁獲規制を強化。日本の調達先はモーリタニアへと移った。かつてはスーパーなどの店頭で「サハラ産」などと表示されたタコが、国ごとの原産地表示が浸透し、「原産地モーリタニア」とラベル書きした商品が多い。
そのモーリタニアでも過度な漁獲で資源は減少している。モーリタニア産タコの7月の対日輸出価格は1トン7700ドル(ツボ漁の800〜1200グラム品、本船渡し)と、前年同月比で5割上昇している。
魚介類の中でも、タコを食べる国はまだ少ない。それでも争奪戦は年々激しくなっているのだから、マグロや、欧米でも消費の多い白身のフィレ(切り身)がとれるタラなどの状況は想像に難くない。
●天然資源のワイルドキャッチ
絶滅危惧種の国際取引を規制するワシントン条約会議で今春、モナコと欧州連合(EU)が大西洋・地中海産クロ(本)マグロの禁輸を提案した。これにより、日本の消費者の間でも水産物への関心が高まった。禁輸案は否決されたものの、減少が進む水産資源には中国などの新興国のほか、欧米各国の買い付けも増える。世界屈指の魚食大国である日本がこれまでのように水産物の供給を確保できるかは、天然資源の管理と「作る漁業」の育成がカギを握る。
トウモロコシなどの穀物や野菜、牛肉、乳製品といった農産物と、水産物の供給には大きな違いがある。農産物も干ばつ、冷夏など異常気象の影響は受けるが、すでに人間の手で需要に見合った供給を得る手法は確立されている。トウモロコシの生産者は供給過剰で価格が下がれば作付けを減らす。生産現場を見れば一目瞭然だが、大規模化した養鶏業はもはや農業というより工業のイメージに近く、天候の影響を受けにくい「野菜工場」の取り組みも盛んだ。
ところが、水産物だけはそうはいかない。国連食糧農業機関(FAO)がまとめた2008年の世界の漁業生産1億5900万トンのうち、養殖魚は4割の6800万トンにすぎない。その4割も、世界最大の水産物生産国となった中国によるコイなどの淡水魚生産が半分以上を占める。
あらゆる分野で技術を進化させた人類も、水産物の供給は依然として天然資源の「ワイルド・キャッチ」に頼っている。
●水産資源の78%は枯渇か?
一方で、需要の増加は加速している。経済成長によって所得が増え、食生活が変化した新興国のほか、欧米の消費も健康志向で拡大基調にある。BRICs4カ国のうち、ブラジルは2002年から07年の間に輸出が3割以上減る一方、輸入量は3割強拡大した。かつて水産大国として鳴らした旧ソ連(ロシア)も一大消費国へと変身し、「甘エビなどはなかなか日本に回ってこない」(日本水産)。オーストラリア産イセエビなどの高級食材は、デフレの日本を素通りし、富裕層の多い上海など中国の沿岸部へ向かう。
東京・築地市場の2010年1月の初セリでは、香港と日本で店舗展開する「板前寿司」が3年連続の最高値でクロマグロを落札した。今年の最高値は重さ232kgのマグロで、1本1628万円という値段は、2001年の2020万円に次ぐ記録だ。板前寿司を経営するリッキー・チェン氏は「香港の人もおいしいマグロを求めている」と話す。10年の初セリにはマカオで高級日本料理店を経営するフューチャーブライトグループも初参加し、築地市場でもアジアの勢いは増すばかりだ。もちろん日本も新興国などの買いに応戦すればいいのだが、高値で買い付けても低価格志向の強い店頭で価格に転嫁できず、国際市場で買い負けてしまう。
海の環境変化や人間の取りすぎさえなければ、水産資源は自然に数を回復してくれる。そこは消費するだけのエネルギー資源などと違う。だが、漁獲量が増え続け、マグロなどの数を回復していく能力を超せば、資源量は減り続けて枯渇の危機が迫る。さらに69億人を超えた世界人口の増加は、新興国の工業発展とともに海洋環境への負荷も高める。「水産資源の78%は枯渇か、枯渇の瀬戸際にある」とのFAOの分析も大げさではない。
日本人には、かつてニシンやハタハタで起きた資源枯渇が世界レベルで起きようとしていると言えば分かりやすいだろうか。
●強まる漁業規制/クロマグロの漁獲量は4割減
ワシントン条約会議での禁輸案は否決されたとはいえ、マグロなどの漁業規制は年々強まっている。漁獲量が30年前の2倍に増えたマグロ類は、魚種と地域で分けた5つの国際委員会が資源を管理しており、2009年までに軒並み規制強化が決まった。高級なトロがとれるため日本人が好むクロマグロは、大西洋・地中海で今年の漁獲量が昨年より4割減り、太平洋地域も現状より増やさないことで合意している。
高級なクロマグロやミナミマグロはすでに供給減少から価格も上昇しており、代用品として割安なメバチマグロの買い付けが拡大。東京・築地市場ではメバチマグロの8月第1週の平均卸値が、1キロ1065円(冷凍)と前年同月比で2割近く上昇した。
スケソウダラは主産国の米国が資源減少を理由に、2010年の漁獲枠を過去最低の81万3000トンと04年の半分近くに減らした。スケソウダラの身は日本でフィレのほか、すりつぶして竹輪など練り製品の原料になるし、卵はタラコや明太子になる。また畜産や養殖飼料に使うカタクチイワシもペルーなどが05年前後から漁業規制を厳しくした。さらに、公海での操業も国連は「漁獲枠が設定されていなければ原則禁止」という考え方に変わっている。
漁業規制の強化は日本人にとって不利益な動きではない。逆に、このまま需要が増え続け、価格上昇が続けば、漁業規制のない国が乱獲に走るおそれがある。実際にカニやスケソウダラなど資源枯渇の危機にある水産物は、国際市場で高値が付き、外貨獲得源となる種類が目立つ。
消費不振で輸入量が減ったとはいえ、日本人は世界のマグロの3分の1、クロマグロは3分の2を食べる。マグロに限らず、日本はタコの48%、ちくわなどの練り製品に使うすり身の73%、エビに至っては90%を輸入に頼る。過度な漁獲が続けば近い将来、様々な水産物がクロマグロのように追い詰められる。そうなる前に、資源量を持続可能な水準に守る漁業規制は必要な方策だ。
水産資源の管理、安定利用には国際協力が欠かせない。違法操業や密輸の監視にも各国の協力は不可欠だ。資源量の実態を正確に調べ、どの程度の漁獲なら安定した資源を維持できるのか、消費大国の日本が各国の協調を牽引しなければならない。
●「作る漁業」の育成/近畿大がクロマグロの完全養殖に成功
天然資源の供給には限界があり、増え続ける世界需要を満たすには作り、育てる漁業の強化も不可欠になる。養殖分野では今年、企業の積極的な動きが目立つ。マルハニチロはクロマグロの養殖を拡大し、2010年度の出荷量を2700トンと前年度より3割増やし、国内初の沖合養殖も試みる。
養殖事業は親から卵をとり、人工ふ化して再び親まで育てる「完全養殖」が実現して、持続的な商業化にメドが付く。ところが現在、完全養殖できるのはサケ、マス、マダイなど限られた魚種にとどまる。養殖の対象魚として代表的なウナギも卵ではなく、稚魚に頼っている。ウナギ稚魚の国内漁獲量は年10〜20トンで量は安定せず、価格も乱高下する。さらにEUは09年に稚魚の漁獲制限を導入し、13年までに漁獲量を6割減らす方針だ。
日本では2002年に世界で初めて近畿大学がクロマグロで、また、ウナギでも水産総合研究センターが完全養殖に成功している。こうした技術力をいかせば、世界の需要を取り込む新たな成長産業としても期待できる。9月10日には豊田通商が近畿大学との技術提携を発表。同社は年内にも1万匹の養殖クロマグロを出荷できる体制を整える。
クロマグロを養殖で1kg太らせるには15kg近いえさが必要で、その多くはサバやサンマなどの水産物を使う。えさに使う水産物をいかに減らすかは、養殖の事業採算だけではなく、天然資源への負荷を軽減する上でも大きな課題だ。メルシャンは養殖のえさ代を大幅に減らせる人工飼料を実用化する。
養殖技術を産業に変えるには、えさの価格上昇を抑えるとともに、生産合理化でコストを引き下げる必要がある。人工ふ化したウナギの稚魚を成魚に育てるのに、現在は1匹あたり数千〜数万円というコストがかかるが、これを100分の1程度に下げないと商業化は無理だ。
農業分野に成功例はある。戦後、価格がほとんど変わらないことで「物価の優等生」と言われる鶏卵である。生産者は1戸あたりの平均養鶏数を40年で1000倍に増やし、大幅にコストを下げた。その間、鶏卵の供給量は8割増えた。こうした生産合理化には、漁業法など現行法制度の見直しが急務だ。漁業協同組合や既存漁業者の権益を優先する現行法は、企業の新規参入や規模拡大を困難にしている。規制を緩和しなければ養殖事業の合理化も行き詰まる。
日本は世界で6番目に大きい経済水域を持つ。だが漁業の担い手は過去10年で3割近く減り、半数が60歳以上だ。将来が不安なため漁船の新造もできず、担い手と漁船の「2つの高齢化」がのしかかる。水産を日本の成長産業として立て直し、日本人が将来も水産物の供給を確保できるかどうかは、政府の規制緩和と企業の取り組みにかかっている。
(日本経済新聞社編集委員 志田富雄)
2010年10月12日(火) |
世界の食糧危機(農業):70億人に何を食べさせるのか |
世界の食糧危機(農業):70億人に何を食べさせるのか
●ロシアの干ばつの影響で中国産玄ソバは3割も値上がり
「今年の新ソバは高値を覚悟している」。食品専門商社などはロシアを襲った干ばつの影響の大きさに半ばあきらめ顔だ。
家庭料理のカーシャやケーキに玄ソバ(ソバの実)やそば粉を使うロシアは、日本を上回る世界屈指のソバ消費国だ。ところが、干ばつの影響で自国生産が減り、主要輸入先のウクライナの生産も減少した。ロシアは中国から買い付けを増やし、それが日本の輸入価格に跳ね返った。
日本の供給量の7〜8割を占める中国産玄ソバの8月の国内卸価格は、昨年の干ばつの影響で45kgあたり4400円前後と、前年同月比で3割上昇。そば粉製造大手の日穀製粉(長野市)や松屋製粉(宇都宮市)も、相次いで販売価格の引き上げを打ち出した。しかし頼みの中国は、生産者がソバから高騰したトウモロコシや緑豆へと作付けをシフトしている。例年なら新ソバが出回る秋には国内価格も下がるが、中国側はロシアの買い付けを見て強気の姿勢という。
●穀物輸出禁止の「プーチン・ショック」
世界の先物市場の勢力図を米インターコンチネンタル取引所(ICE)と2分するシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)。1848年から穀物の国際相場をリードしてきたシカゴ商品取引所(CBOT)も、CMEが2007年に統合した。CME自身も1898年に設立されたシカゴ・バター・卵取引所(CBEB)がルーツだ。先物市場や金融派生商品(デリバティブ)の歴史が象徴するように、70億人に迫る人類も穀物を中心にした農産物に支えられて今日がある。
ロシア産小麦を積み出すウラジオストク港の港湾設備。今年4月までは正常に稼働していたが…… その忘れられがちな事実を「プーチン・ショック」は世界に突きつけた。ロシアのプーチン首相は8月5日に、15日から年末まで小麦、大麦、トウモロコシなどの穀物輸出を禁止する政令に署名。ロシア東部やウクライナなどの穀倉地帯を干ばつが見舞い、ある程度の減産は織り込んでいた市場関係者も、地下資源と並ぶ外貨獲得源として穀物輸出に力を入れるロシア政府が全面禁輸まで踏み込む事態は想定外だった。8月6日のシカゴ市場では投機マネーの買いが殺到し、小麦先物(期近9月物)は一時1ブッシェル(=約27kg)8ドル41セントと、2年ぶりの高値に跳ね上がった。
「まず自国民を心配する必要がある」。自国向けの供給優先を強調するプーチン首相は生産量次第で禁輸期間の延長も示唆し、ロシア政府は7月に発足したばかりの関税同盟加盟国であるカザフスタンなどに禁輸への同調も呼びかけた。一方、買い手であるエジプトは、すでに結んだ契約の履行をロシアに強く求める。エジプトでは今年度、食パンなどの価格を安定させるための食料補助が当初見込みより7割強膨らむとの見方も浮上した。パンなどの食料不足や価格高騰が社会不安につながりやすい新興国にとって、プーチン・ショックは深刻だ。
ここ数年の豊作で足下の在庫に余裕はあるものの、古手の市場参加者には1970年代前半に旧ソ連を襲った大干ばつの記憶がよぎる。当時は、ペルー沖が主漁場で穀物と同様に飼肥料に使うアンチョビー(カタクチイワシ)の漁獲も激減し、干ばつ被害と相まってシカゴ市場の穀物先物相場が急騰した。72年春から73年春までペルー沖の海水温が高いエルニーニョ現象が発生し、73年夏から74年春までは一転して海水温が低いラニーニャ現象へと変わった(いずれも期間は気象庁の分析)。この状況は、今年の動きと酷似する。
品種改良や栽培技術が進んだとはいえ、農産物の生産から干ばつ、長雨、低温といった異常気象の影響は排除できない。とりわけラニーニャ現象やペルー沖の海水温が逆に高くなるエルニーニョ現象が発生した時は、世界の穀倉地帯を異常気象が襲う確率は高まる。
しかし、地球温暖化の影響があるとしても、異常気象は今に始まった話ではない。ではなぜ、穀物価格の高騰がこれだけクローズアップされてきたのか。そこには3つの要因がからむ。
●価格高騰の第1の原因は人口増加(70億人に接近)と新興国の食の変化
第1は世界人口の増加に加え、中国やインド、中東、アフリカ諸国の経済成長と食生活の変化が穀物の消費増を加速していることだ。中国104%増、ロシア141%増、ベトナム206%増、ナイジェリア190%増。キリンホールディングスが8月10日に発表した2009年のビール生産量と前年比増加率は、先進国の低迷と対照的に新興国の伸びが目立つ。ビール自体も穀物製品だが、世界不況をものともせず拡大する消費量からは、新興国の「食生活の先進国化」がうかがえる。
「市場経済に組み込まれると即席めんの消費が増える」。日清食品ホールディングスの安藤宏基社長の持論である。自給自足に近い生活をしていた人が会社で働くようになれば「食事にさける時間は少なくなり、短時間で食べられる即席めんに手を伸ばす」と解説する。世界即席めん協会がまとめたカップめんや袋めんの年間消費は計1000億食。年間500億食を食べる中国だけではなく、ナイジェリアなどのアフリカや中東諸国の消費増も著しい。即席めんの生産が増えれば、当然ながら原料の小麦消費は増える。
さらに肉類の消費が増えれば、餌となるトウモロコシなどの消費量は爆発的に増える。穀物市場では“常識”だ。肉1kgを生産する(=動物を1kg太らせる)のには、もっとも効率のいいブロイラーで2kg、豚で4〜5kg、牛だと7〜8kgのトウモロコシが必要とされる。穀物市場から見れば、肉はそれだけぜいたくな食料だ。食生活が変われば大豆などを原料に使う食用油の消費も増える。BRICs4カ国だけで30億人近い新興国でこのまま肉類の消費が増え続ければ、干ばつなどの影響がなくても、近い将来に穀物の奪い合いが起きることは避けられない。
●第2の要因はバイオ燃料の台頭/トウモロコシが燃料に
第2はバイオ燃料の台頭だ。世界最大の穀物生産国である米国では、米農務省の予測で2010〜11穀物年度(10年9月〜11年8月)のバイオ燃料向けのトウモロコシ需要が47億ブッシェル(トウモロコシの1ブッシェルは約25kg。即ち1億1750万トン)と、米国の全トウモロコシ輸出量(20億ブッシェル)の2倍以上に増える。
オバマ政権はグリーン・ニューディール政策の一環として、石油を中心にした化石燃料からバイオ燃料など再生可能エネルギーへの転換を推進する。食料以外の原料を使う製造採算が思うように向上しなければ、限られた農産物の生産を食料と燃料が奪い合うことになる。
石油や天然ガスなどの化石燃料は資源枯渇が進み、英BP社の海底油田事故が今後の増産を一層困難にした。バイオ燃料の台頭で穀物など農産物市場と石油市場の結びつきも深まった。原油価格が高騰すれば市場原理からもバイオ燃料の需要は増え、トウモロコシやサトウキビの価格を押し上げてしまう。
農産物を巡る食料と燃料の奪い合いを国と国に置き換えれば、環境政策を前面に押し出す先進国の政権と、貧困層を多く抱える新興国との対立になる。主要穀物が軒並み高騰した2008年、ブッシュ米前大統領は「世界的な穀物高騰はインドなどの新興国で中間層が消費を増やしたのが主因だ」と主張し、悪玉に挙げられたインドが猛反発した。国連が同年6月にローマで開いた食料サミットで、エジプトのムバラク大統領は「農産物貿易をゆがめているバイオ燃料への補助金は早急かつ真剣に見直すべきだ」と主張した。
●第3の要因は巨額投機資金の流入/穀物は自国消費が主で,1割を世界中で分ける
穀物市場の構造変化に目を付け、巨額のマネーも流れ込む。これが第3の要因だ。2008年の高騰を踏まえ、米国は農産物の先物市場で投機的資金の規制を強化した。しかし、市場機能を損なうような規制はできず、主要国の金融緩和で膨らんだマネーは供給不安がつきまとう穀物市場に向かう。
もともと穀物市場は「薄いマーケット」(丸紅経済研究所の柴田明夫代表)と言われる。10〜11年度の米農務省予測で世界の4大穀物生産量は、小麦が約8億4000万トン、トウモロコシが8億9000万トン、コメ(精米)と大豆がそれぞれ5億5000万トンで計28億トンを超す。しかし、生産量の大部分は自国で消費され、国際市場に輸出されるのは平均で1割強、コメだと7%程度にすぎない。その1割の余剰を日本などすべての輸入国で分ける。
危ういバランスの上に成り立つ穀物の国際市場は、主要輸出国のうち1カ国でも供給に支障が出るとパニックを起こす。2008年にはコメの有力供給国であるベトナムやインド、エジプトが相次いで輸出規制に動き、アジアやアフリカ、カリブ海の輸入国では買い占めや抗議デモが起きた。国と国が、食品と燃料がわずかな余剰を奪い合う穀物市場では08年のような世界食糧危機がいつ再発してもおかしくない。
●日本の穀物自給率は,小麦が11%,トウモロコシは0%
農林水産省が8月に発表した2009年度の日本の食料自給率は、小麦が11%、大豆が6%、トウモロコシに至っては0%だ。トウモロコシにも国内生産はあるが、飼料向けを中心に1600万トンを上回る輸入量から見れば誤差の範囲内で、0%と計算される。牛肉などの肉類は50%以上の自給率を示すものの、自給率が25%しかない飼料の輸入が止まると食肉や鶏卵の生産は激減する。大豆が主原料のしょうゆ、みその生産も大部分がストップする。それだけ農産物、とりわけ穀物市場の影響は大きい。
中国が米国産トウモロコシの買い付けを開始した今春から、「中国もついに輸入国に変わるのか」と穀物市場の不安は増している。中国は1995〜96年度に大豆の輸入国へと転換し、米農務省の予測で10〜11年度の大豆輸入量は過去最高の5200万トンと、01〜02年度の5倍に拡大する。
輸入依存へと戦略を切り替えた大豆と違い、中国はコメや小麦、トウモロコシは自給政策を維持する。しかし飼料などのほか、工業用途にも拡大するトウモロコシの消費が中国で増え続ければ、いずれ自給は維持できなくなる。中国にとっては自らの輸入増で国際価格が高騰すれば、地下資源を頼るアフリカ諸国の反応も気になるが、国内の食料不足と価格高騰が社会不安を招く事態はどんな手段を使ってでも避けようとするだろう。穀物市場はいくつものショックの種を抱えながら、70億人を支えている。
(日本経済新聞社編集委員 志田富雄)
2010年10月09日(土) |
ノーベル平和賞に劉暁波が決まる,投獄中の中国民主活動家 |
ノーベル平和賞に劉暁波が決まる,投獄中の中国民主活動家 2010.10.8
【プロフィル】劉暁波(りゅう・ぎょうは)54歳
1955年、吉林省長春市生まれ。88年、北京師範大文学部で博士号を取得。89年春、研究生活を送っていた米国から帰国し北京の民主化運動に参加。天安門事件後、反革命罪などでたびたび投獄される。 2008年12月、「08憲章」(中華連邦共和国の樹立をめざす内容.数千万人の命を奪った共産党の数々の愚行を批判)を中心になって起草し発表。国家政権転覆扇動などの容疑で逮捕され、09年12月、北京の第一中級人民法院で懲役11年、政治的権利剥奪2年の判決を受けた。2010年2月には、北京の高級人民法院が劉氏の控訴を棄却、実刑判決が確定した。夫人は劉霞さん(49歳)。
【ロンドン=木村正人】ノルウェーのノーベル賞委員会は10月8日、中国共産党の一党独裁体制の廃止などを求めた「08憲章」の起草者で、中国で服役中の民主活動家、劉暁波(りゅう・ぎょうは)氏(54歳)に2010年のノーベル平和賞を授与すると発表した。中国の民主活動家の受賞は初めてで、中国政府が激しく反発するのは必至だが,ヤーグラン委員長は「(中国の)政治・経済的な報復を恐れて人権をないがしろにすれば,人権の価値をおとしめることになる。人権と民主主義は,平和機構の最良の手段だ」と主張した。
劉氏は吉林省出身で、北京師範大や米ハワイ大などで中国現代文学などを講義。1989年の天安門事件の際には、米国から帰国して天安門広場でハンストを実施し、逮捕された。 天安門事件後、民主化運動の指導者や知識人の多くが海外に脱出する中、91年の出獄後も国内で民主化を求める論文を書き続けた。 2008年、共産党の一党独裁体制の廃止や民主選挙の実施とともに、言論、宗教、集会、結社の自由などを求めた「08憲章」を、中国の学者ら303人の署名を添えてインターネット上に発表。劉氏はその直前に拘束された。 10年2月、国家政権転覆扇動罪で懲役11年、政治的権利剥奪2年の判決が確定。現在、遼寧省錦州市の刑務所で服役している。 ノルウェーのノーベル賞委員会によると、中国の外務省高官が今年6月、「(劉氏に平和賞を)授与すれば、ノルウェーと中国の関係は悪化するだろう」と同委に圧力をかけていた。 劉氏のノーベル平和賞受賞を契機に、国際社会から中国の民主・人権状況に対して非難の声が高まる可能性がある。
1989年にチベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世がノーベル平和賞を受賞した際、中国政府は激しく反発した。2000年には、フランスに亡命した作家、高行健が華人として初めてノーベル文学賞を受賞している。 昨年のノーベル平和賞は、「核兵器のない世界」の実現を掲げたオバマ米大統領に授与された。 ※ノーベル賞の多くはスウェーデンの賞委員会が決めるが,平和賞だけはノルウェーのノーベル賞委員会が決める。
●「08年憲章」(れいはちけんしょう)の内容
08憲章は、2008年12月9日に中華人民共和国の作家の劉暁波ら303名が連名で出した、中国の政治・社会体制について、中国共産党の一党独裁の終結、三権分立、民主化推進、人権状況の改善などを求めた宣言文である。
★【概要】 中華人民共和国では憲法により言論・報道・集会・デモなどの自由が定められているが、同時に中国共産党を「中華人民共和国を指導する政党」として指定し、他の政党は衛星政党であり、事実上の一党独裁制が行われている。このため最高の国家権力機関と定められている全国人民代表大会を含め、立法・行政・司法・軍事などの全部門で、指導政党である中国共産党の指名や意向によった代表者が選出されて、中国共産党による全権力の掌握が行われている。このため、党の方針に合わない思想や意見は、法によらない逮捕・拘束・強制労働・監視・検閲などを含めた言論統制、人権侵害などが続いている。
このような状況下で、中国の立憲100周年、「世界人権宣言」発表60周年、「民主の壁」誕生30周年、中国政府の「公民権および政治権に関する国際条約」締結10周年に当たる2008年の12月10日付で、中華人民共和国の作家劉暁波ら303名の有識者が実名により連名で、政治体制の民主化や国民の人権保護などの状況改善を訴える意見を示したのが「零八憲章」である。実際の発表日は記念日前日の12月9日である。12月23日には署名者は6191人に膨れ上がった。
★「08憲章」の全文 (2008年12月9日)
一、序文
今年は中国立憲百年、「世界人権宣言」公布60周年、「民主の壁」誕生30周年であり、また中国政府が「市民的及び政治的権利に関する国際規約」に署名して10周年である。長い間の人権災害と困難かつ曲折に満ちた闘いの歴史の後に、目覚めた中国国民は、自由・平等・人権が人類共同の普遍的価値であり、民主・共和・憲政が現代政治の基本的制度枠組みであることを日増しにはっきりと認識しつつある。こうした普遍的価値と基本的政治制度枠組みを取り除いた「現代化」は、人の権利をはく奪し、人間性を腐らせ、人の尊厳を踏みにじる災難である。21世紀の中国がどこに向かうのか。この種の権威主義的統治下の「現代化」か? それとも普遍的価値を認め、主流文明に溶け込み、民主政体を樹立するのか? それは避けることのできない選択である。
19世紀中葉の歴史の激変は、中国の伝統的専制制度の腐敗を暴露し、中華大地の「数千年間なかった大変動」の序幕を開いた。洋務運動(1860年代初頭から約30年続いた)はうつわの表面の改良(中体西用)を追求し、甲午戦争(日清戦争1894年)の敗戦で再び体制の時代遅れを暴露した。戊戌変法(1898年)は制度面での革新に触れたために、守旧派の残酷な鎮圧にあって失敗した。辛亥革命(1911年)は表面的には2000年余り続いた皇帝制度を埋葬し、アジアで最初の共和国を建国した。しかし、当時の内憂外患の歴史的条件に阻害され、共和政体はごく短命に終わり、専制主義が捲土重来した。うつわの模倣と制度更新の失敗は、先人に文化的病根に対する反省を促し、ついに「科学と民主」を旗印とする「五四」新文化運動がおこったが、内戦の頻発と外敵の侵入により、中国政治の民主化過程は中断された。抗日戦争勝利後の中国は再び憲政をスタートさせたが、国共内戦の結果は中国を現代版全体主義の深淵に陥れた。1949年に建国した「新中国」は、名義上は「人民共和国」だが、実際は「党の天下」であった。政権党はすべての政治・経済・社会資源を独占し、反右派闘争、大躍進、文革、六四、民間宗教および人権擁護活動弾圧など一連の人権災害を引き起こし、数千万人の命を奪い、国民と国家は甚だしい代価を支払わされた。
20世紀後期の「改革開放」で、中国は毛沢東時代の普遍的貧困と絶対的全体主義から抜け出し、民間の富と民衆の生活水準は大幅に向上し、個人の経済的自由と社会的権利は部分的に回復し、市民社会が育ち始め、民間の人権と政治的自由への要求は日増しに高まっている。統治者も市場化と私有化の経済改革を進めると同時に、人権の拒絶から徐々に人権を認める方向に変わっている。中国政府は、1997年、1998年にそれぞれ二つの重要な国際人権規約に署名し、全国人民代表大会は2004年の憲法改正で「人権の尊重と保障」を憲法に書き込んだ。今年はまた「国家人権行動計画」を制定し、実行することを約束した。しかし、こうした政治的進歩はいままでのところほとんど紙の上にとどまっている。法律があっても法治がなく、憲法があっても憲政がなく、依然として誰もが知っている政治的現実がある。統治集団は引き続き権威主義統治を維持し、政治改革を拒絶している。そのため官僚は腐敗し、法治は実現せず、人権は色あせ、道徳は滅び、社会は二極分化し、経済は奇形的発展をし、自然環境と人文環境は二重に破壊され、国民の自由・財産・幸福追求の権利は制度的保障を得られず、各種の社会矛盾が蓄積し続け、不満は高まり続けている。とりわけ官民対立の激化と、騒乱事件の激増はまさに破滅的な制御不能に向かっており、現行体制の時代遅れは直ちに改めざるをえない状態に立ち至っている。
二、我々の基本理念
中国の将来の運命を決めるこの歴史の岐路に立って、百年来の近代化の歴史を顧みたとき、下記の基本理念を再び述べる必要がある。
●自由:自由は普遍的価値の核心である。言論・出版・信仰・集会・結社・移動・ストライキ・デモ行進などの権利は自由の具体的表現である。自由が盛んでなければ、現代文明とはいえない。
●人権:人権は国家が賜与するものではなく、すべての人が生まれながらに有する権利である。人権保障は、政府の主な目標であり、公権力の合法性の基礎であり、また「人をもって本とす」(最近の中共のスローガン「以人為本」)の内在的要求である。中国のこれまでの毎回の政治災害はいずれも統治当局が人権を無視したことと密接に関係する。人は国家の主体であり、国家は人民に奉仕し、政府は人民のために存在するのである。
●平等:ひとりひとりの人は、社会的地位・職業・性別・経済状況・人種・肌の色・宗教・政治的信条にかかわらず、その人格・尊厳・自由はみな平等である。法の下でのすべての人の平等の原則は必ず実現されなければならず、国民の社会的・経済的・文化的・政治的権利の平等の原則が実現されなければならない。
●共和:共和とはすなわち「皆がともに治め、平和的に共存する」ことである。それは権力分立によるチェック・アンド・バランスと利益均衡であり、多くの利益要素・さまざまな社会集団・多元的な文化と信条を追求する集団が、平等な参加・公平な競争・共同の政治対話の基礎の上に、平和的方法で公共の事務を処理することである。
●民主:もっとも基本的な意味は主権在民と民選政府である。民主には以下の基本的特徴がある。(1)政府の合法性は人民に由来し、政治権力の源は人民である。(2)政治的統治は人民の選択を経てなされる。(3)国民は真正の選挙権を享有し、各級政府の主要政務官吏は必ず定期的な選挙によって選ばれなければならない。(4)多数者の決定を尊重し、同時に少数者の基本的人権を尊重する。一言でいえば、民主は政府を「民有、民治、民享」の現代的公器にする。
●憲政:憲政は法律と法に基づく統治により憲法が定めた国民の基本的自由と権利を保障する原則である。それは、政府の権力と行為の限界を線引きし、あわせて対応する制度的措置を提供する。
中国では、帝国皇帝の権力の時代はすでに過去のものとなった。世界的にも、権威主義体制はすでに黄昏が近い。国民は本当の国家の主人になるべきである。「明君」、「清官」に依存する臣民意識を払いのけ、権利を基本とし参加を責任とする市民意識を広め、自由を実践し、民主を自ら行い、法の支配を順守することこそが中国の根本的な活路である。
三、我々の基本的主張
そのために、我々は責任をもって、また建設的な市民的精神によって国家政治制度と市民的権利および社会発展の諸問題について以下の具体的な主張をする。
1、憲法改正:前述の価値理念に基づいて憲法を改正し、現行憲法の中の主権在民原則にそぐわない条文を削除し、憲法を本当に人権の保証書および公権力への許可証にし、いかなる個人・団体・党派も違反してはならない実施可能な最高法規とし、中国の民主化の法的な基礎を固める。
2、権力分立:権力分立の現代的政府を作り、立法・司法・行政三権分立を保証する。法に基づく行政と責任政府の原則を確立し、行政権力の過剰な拡張を防止する。政府は納税者に対して責任を持たなければならない。中央と地方の間に権力分立とチェック・アンド・バランスの制度を確立し、中央権力は必ず憲法で授権の範囲を定められなければならず、地方は充分な自治を実施する。
3、立法民主:各級立法機関は直接選挙により選出され、立法は公平正義の原則を堅持し、立法民主を行う。
4、司法の独立:司法は党派を超越し、いかなる干渉も受けず、司法の独立を行い、司法の公正を保障する。憲法裁判所を設立し、違憲審査制度をつくり、憲法の権威を守る。可及的速やかに国の法治を深刻に脅かす共産党の各級政法委員会を解散させ、公器の私用を防ぐ。
5、公器公用:軍隊の国家化を実現する。軍人は憲法に忠誠を誓い、国家に忠誠を誓わなければならない。政党組織は軍隊から退出しなければならない。軍隊の職業化レベルを高める。警察を含むすべての公務員は政治的中立を守らなければならない。公務員任用における党派差別を撤廃し、党派にかかわらず平等に任用する。
6、人権保障:人権を確実に保障し、人間の尊厳を守る。最高民意機関(国会に当たる機関)に対し責任を負う人権委員会を設立し、政府が公権力を乱用して人権を侵害することを防ぐ。とりわけ国民の人身の自由は保障されねばならず、何人も不法な逮捕・拘禁・召喚・尋問・処罰を受けない。労働教養制度(行政罰としての懲役)を廃止する。
7、公職選挙:全面的に民主選挙制度を実施し、一人一票の平等選挙を実現する。各級行政首長の直接選挙は制度化され段階的に実施されなければならない。定期的な自由競争選挙と法定の公職への国民の選挙参加は奪うことのできない基本的人権である。
8、都市と農村の平等:現行の都市と農村二元戸籍制度を廃止し、国民一律平等の憲法上の権利を実現し、国民の移動の自由の権利を保障する。
9、結社の自由:国民の結社の自由権を保障し、現行の社団登記許可制を届出制に改める。結党の禁止を撤廃し、憲法と法律により政党の行為を定め、一党独占の統治特権を廃止し、政党活動の自由と公平競争の原則を確立し、政党政治の正常化と法制化を実現する。
10、集会の自由:平和的集会・デモ・示威行動など表現の自由は、憲法の定める国民の基本的自由であり、政権党と政府は不法な干渉や違憲の制限を加えてはならない。
11、言論の自由:言論の自由・出版の自由・学術研究の自由を実現し、国民の知る権利と監督権を保障する。「新聞法」と「出版法」を制定し、報道の規制を撤廃し、現行「刑法」中の「国家政権転覆扇動罪」条項を廃止し、言論の処罰を根絶する。
12、宗教の自由:宗教の自由と信仰の自由を保障する。政教分離を実施し、宗教活動が政府の干渉を受けないようにする。国民の宗教的自由を制限する行政法規・行政規則・地方法規を審査し撤廃する。行政が立法により宗教活動を管理することを禁止する。宗教団体〔宗教活動場所を含む〕は登記されて初めて合法的地位を獲得するという事前許可制を撤廃し、これに代えていかなる審査も必要としない届出制とする。
13、国民教育:一党統治への奉仕やイデオロギー的色彩の濃厚な政治教育と政治試験を廃止し、普遍的価値と市民的権利を基本とする国民教育を推進し、国民意識を確立し、社会に奉仕する国民の美徳を提唱する。
14、財産の保護:私有財産権を確立し保護する。自由で開かれた市場経済制度を行い、創業の自由を保障し、行政による独占を排除する。最高民意機関に対し責任を負う国有資産管理委員会を設立し、合法的に秩序立って財産権改革を進め、財産権の帰属と責任者を明確にする。新土地運動を展開し、土地の私有化を推進し、国民とりわけ農民の土地所有権を確実に保障する。
15、財税改革:財政民主主義を確立し納税者の権利を保障する。権限と責任の明確な公共財政制度の枠組みと運営メカニズムを構築し、各級政府の合理的な財政分権体系を構築する。税制の大改革を行い、税率を低減し、税制を簡素化し、税負担を公平化する。公共選択(住民投票)や民意機関(議会)の決議を経ずに、行政部門は増税・新規課税を行ってはならない。財産権改革を通じて、多元的市場主体と競争メカニズムを導入し、金融参入の敷居を下げ、民間金融の発展に条件を提供し、金融システムの活力を充分に発揮させる。
16、社会保障:全国民をカバーする社会保障制度を構築し、国民の教育・医療・養老・就職などの面でだれもが最も基本的な保障を得られるようにする。
17、環境保護:生態環境を保護し、持続可能な開発を提唱し、子孫と全人類に責任を果たす。国家と各級官吏は必ずそのために相応の責任を負わなければならないことを明確にする。民間組織の環境保護における参加と監督作用を発揮させる。
18、連邦共和:平等・公正の態度で(中国周辺)地域の平和と発展の維持に参加し、責任ある大国のイメージを作る。香港・マカオの自由制度を維持する。自由民主の前提のもとに、平等な協議と相互協力により海峡両岸の和解案を追求する。大きな知恵で各民族の共同の繁栄が可能な道と制度設計を探求し、立憲民主制の枠組みの下で中華連邦共和国を樹立する。
19、正義の転換:これまでの度重なる政治運動で政治的迫害を受けた人々とその家族の名誉を回復し、国家賠償を行う。すべての政治犯と良心の囚人を釈放する。すべての信仰により罪に問われた人々を釈放する。真相調査委員会を設立し歴史的事件の真相を解明し、責任を明らかにし、正義を鼓舞する。それを基礎として社会の和解を追求する。
四、結語
中国は世界の大国として、国連安全保障理事会の5つの常任理事国の一つとして、また人権理事会のメンバーとして、人類の平和事業と人権の進歩のために貢献すべきである。しかし遺憾なことに、今日の世界のすべての大国の中で、ただ中国だけがいまだに権威主義の政治の中にいる。またそのために絶え間なく人権災害と社会危機が発生しており、中華民族の発展を縛り、人類文明の進歩を制約している。このような局面は絶対に改めねばならない! 政治の民主改革はもう後には延ばせない。
そこで、我々は実行の勇気という市民的精神に基づき、「08憲章」を発表する。我々はすべての危機感・責任感・使命感を共有する中国国民が、朝野の別なく、身分にかかわらず、小異を残して大同につき、積極的に市民運動に参加し、共に中国社会の偉大な変革を推進し、できるだけ早く自由・民主・憲政の国家を作り上げ、先人が百年以上の間根気よく追求し続けてきた夢を共に実現することを希望する。 ★ 署名者 職業別に見ると、人権・民主活動家等78名、学者60名、作家・詩人37名、法律家34名、マスコミ関係者・フリーライター25名、芸術家・農民などその他69名。これらの人達は民主派知識人ともいわれる。
地域別に見ると、香港、マカオを含まない中国大陸部に限られ、北京市80名、湖北省38名、上海市30名、広東省25名、浙江省24名、貴州省20名、山東省10名、その他76名となっているなど、地域的な人口分布に比例せず、偏りがある。
★【影響】 2008年12月にネット公表と同時に、賛同者の署名を募り、共感した人がブログに転載するなど、内容が世界的に知られた。しかし、中国国内では政府側の指示で閲覧をできないようにする工作が行われた。 2009年1月に知識人22人がネットで中央テレビによる「洗脳」を批判。同年12月25日、劉暁波は北京の第1中級人民法院で国家政権転覆扇動罪により懲役11年の判決を言い渡されたが、服役中の2010年10月08日にノーベル平和賞を受賞。
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