++ 古書店『無窮堂』の若き当主、真志喜とその友人で同じ業界に身を置く瀬名垣。二人は幼い頃から、密かな罪の意識をずっと共有してきた――。 瀬名垣の父親は「せどり屋」とよばれる古書界の嫌われ者だったが、その才能を見抜いた真志喜の祖父に目をかけられたことで、幼い二人は兄弟のように育ったのだ。しかし、ある夏の午後起きた事件によって、二人の関係は大きく変わっていき……。(裏表紙より抜粋) ++ やっとの文庫落ちで購入。 アレだアレだという噂を聞いていたので、どんなものかと思っていたのですが、アレでしたね。 この二人の関係、ほんとに友情ですか?と疑問に思うくらいの気遣いと言動で、ほんとにうさんくさい関係。 が、この二人の関係だけじゃなく、古書の買取と二人の過去の重荷を巡るやりとりがおもしろかったです。お互いがお互いに対して気まずい罪の意識を抱えていて、もう一歩を踏み出せないという気持ちの揺らぎが(うさんくさい関係を除いても)ストイックで、繊細でした。 書き下ろしの「名前のないもの」も二人の古書への想い入れが伝わってくるすてきな話でした。
「相変わらず君たちはうさんくさいねえ(略)いつまで親友ごっこしてるんだい」 「親友ごっこ?(略)そんなことはしてないぜ。買い付けの相談をしてただけだ」 「それに私たちは『親友』じゃない」 と真志喜が冷静な声で指摘した。瀬名垣は反論しようとし、秀郎はあっさりと頷いてみせた。 「だから僕は、『ごっこ』って言っただろ」 なるほどね、と真志喜は拍子抜けするほど素直に感心してみせ、さっさと踵を返して門から離れた。
三浦しをん:月魚,p.30-31,角川書店.

++ 恋愛にも大学生活にも退屈し、うつろな毎日を過ごしていたリョウ、二十歳。だが、バイト先のバーにあらわれた、会員制のボーイズクラブのオーナー・御堂静香から誘われ、とまどいながらも「娼夫」の仕事をはじめる。やがてリョウは、さまざまな女性のなかにひそむ、欲望の不思議に魅せられていく……。いくつものベッドで過ごした、ひと夏の光と影。(裏表紙より抜粋) ++ 文庫落ちを長らく待っていた作品。ようやく文庫化で早速読みました。 もっとドロドロとしたものを想像していたのですが、さすが石田氏。リョウがお仕事(≠セックス)を通して成長する姿が淡々と穏やかに書かれていました。 なので逆に、主人公のリョウよりも女性に目が惹きつけられます。女ってすごいけど、女ってこわい、というかんじ。特に、リョウの大学のクラスメイトのメグミがこわい。 リョウの言葉を受けつけず自分の価値観で縛ろうとする、その譲らない正義感。こういう女性の姿が、とてもリアル。こわいこわい。 ところで、リョウと同じクラブのメンバに、アズマという子がいるのですが、この子、とてもいいキャラをしているのです。とってもかわいい外見、真性マゾ(今年の春は体中を切りつけられることにはまったらしい)の性癖。自分をすごく理解している子で、彼のリョウとのセックス(かな?)シーンは痛々しいはずなのに、甘美なかんじでちょっと衝撃でした。
それはおかしな季節だった。日ざしは灼けつくようなのに暑くはない。世界全体が淡いブルーのサングラスをかけたようだった。熱をもたない青い世界で、ぼくは何人もの女性たちとセックスした。(略)誰ひとり似た人はいないのに、振り返ってみるとただひとりの女性を抱き続けていた気がする。
石田衣良:娼年,p.104,集英社.

2004年05月20日(木) |
アリソン3<下> 陰謀という名の列車/時雨沢恵一 |
++ 東側の連邦に暮らすヴィルとアリソンは、友人で西側軍人のベネディクトにチケットを貰い、豪華大陸横断鉄道に乗り、ストーク少佐という軍人と知り合いになる。列車の旅を楽しむヴィルとアリソン。しかし、次々と列車の乗務員たちが殺されて状況は一変してしまう。犯人がわからないまま、ヴィルとアリソンはベネディクトやストーク少佐と一緒に戻る事に。そして、さらなる事件が……!(表紙折り返しより抜粋) ++ これでアリソンの三部作は完結です。 <上>でえ?え?と思わされたことも、解決。 ただ、なぜヴィルがアリソンのパパと同じような道を選んだのか、っていうのが引っかかりますけど、本人たちがいいなら、ハッピィ・エンドと言っていいはず。
「(略)もしも、運命の女神というものがいるとしたら……」 「いるとしたら何よ?」(略) 「彼女はそうとうの阿婆擦れに違いありません」
時雨沢恵一:アリソン3<下> 陰謀という名の列車,p.129,メディアワークス.

++ 現在から三千年以上前の古代中国。時の皇帝紂王により統治された殷は、皇妃に化けた仙女妲己により乱されていた。道士太公望は、人間界を救うための「封神計画」を実行するため崑崙から遣わされた。 ++ 中国の古典「封神演義」をコミカルにかつSFちっくにかつスタイリッシュに描いたマンガ。全23巻です。 週刊ジャンプでリアルタイムで読んでいましたが、このたび久々に読み返しました。しかも一気読み。 コミックサブタイトルでは第3部が、コミックカヴァでは第13部が、ストーリィとしては第22部が、キャラクタは哪咤が、ビジュアルは半妖体の楊ゼン(漢字が出ない)が、宝貝は太極図が、好きでした。そして4年経った今でも、変わらず好き。 4年前と印象が違うのは、ただ一点。「聞仲さますごすぎ」ということ。強すぎてずるいくらいですね。
土にも 水にも 風にも ヒトにも 全てに 居る事が できたなら…(第23部より)
藤崎竜:封神演義,集英社.

2004年05月11日(火) |
四季 冬 Black Winter/森博嗣 |
++ 天才科学者真賀田四季の孤独。両親殺害、妃真加島の事件、失踪、そしてその後の軌跡。彼女から止まっているに等しい人間の時間。誰にも理解されることなく、誰の理解を求めることもなく生きてきた、超絶した孤高の存在。彼女の心の奥底に潜んでいたものは何か……?(裏表紙より抜粋) ++ 四季シリーズ完結です。 このシリーズは、S&Mシリーズ・Vシリーズの外伝もしくは補完的なものかと思って読み始めたのですが、間違いでした。 これこそが本編と言っても過言ではなく、すべてはここに収束するのが理だったかのよう。 もう一度、S&Mシリーズ・Vシリーズを読み返したい衝動にかられています(が、現実は…)。 これまで想像してきたいろいろな疑問の答えが一気に解決され、さらに疑問が生まれてしまいました。 最大の疑問は四季シリーズと百年シリーズの関連。ドクタ久慈の殺された娘ってアキラ?、真賀田博士の傍に居たウォーカロンのパティってルナティック・シティの女王さまのとこにもいませんでした?、などなど。 ところで、このシリーズのサブタイトルを並べると「緑赤白黒」なんですが、Vシリーズの最終巻「赤緑黒白」とは何か関連があるのでしょうかね。
私が私であるためには、 どこからも、いつからも、私が遠ざかる必要があった。 空間と時間からの決別こそ、自己存在の確定。 浮いてみせよう。 何ものにも触れず、 何ものからも受けず、 何ものへも与えず。 すなわち、私がすべてになる。
森博嗣:四季 冬 Black Winter,p.157-158,講談社.

2004年05月10日(月) |
四季 秋 White Autumn/森博嗣 |
++ 手がかりは孤島の研究所の事件ですでに提示されていた!大学院生となった西之園萌絵と、彼女の指導教官、犀川創平は、真賀田四季博士が残したメッセージをついに読み解き、未だ姿を消したままの四季の真意を探ろうとする。彼らが辿り着いた天才の真実とは?(裏表紙より抜粋) ++
「さて、人類はどこまで豊かになれるでしょうか」四季は話す。「自信の中に、どれだけの自由を取り入れることができるかしら。時間と空間を克服できるのは、私たちの思想以外にありません。生きていることは、すべての価値の根元です。では、どうか心安らかに……」
森博嗣:四季 秋 White Autumn,p.180,講談社.

2004年05月06日(木) |
四季 夏 Red Summer/森博嗣 |
++ 米国から帰国した真賀田四季は13歳。すでに、人類の中で最も神に近い、真の天才として世に知られていた。叔父、新藤清二と行った閉園間近の遊園地で四季は何者かに誘拐される。瀬在丸紅子との再会。妃真加島の研究所で何が起こったのか?(裏表紙より抜粋) ++
子孫を残すことが、すなわち自分の死をイメージすることに等しいと、彼女ならば気づいていただろう。それだから、一度死ぬことによって、すべての精神をリセットした。手っ取り早い方法を選んだのだ。 自分はどうだろう? たとえば、子供を産むことで、リセットが可能だろうか。否。そんな軽量なシステムではもはやない。無理だ。
森博嗣:四季 夏 Red Summer,p.167,講談社.

2004年05月05日(水) |
四季 春 Green Spring/森博嗣 |
++ 天才科学者、真賀田四季の少女時代。叔父、新藤清二の病院で密室殺人が起こる。唯一の目撃者は透明人間だった!?すべてを一瞬にして理解し、把握し、思考する才能に群がる多くの人々。それを遥に超えて、四季は駆け抜けていく。其志雄は孤独な天才を守ることができるのか!?(裏表紙より抜粋) ++
もしも、彼女の中に溶け込めるならば、それはそれで幸せかもしれない。意識だけが残留して、黙って、静かに、そのプロセスを眺めていられたら、どんなに素敵だろう。きっと、彼女の領域は、素晴らしく綺麗で、何もかも美しいことだろう。上品な調和があって、すっきりと整理され、正しいものの組み合わせで作られているはずだ。
森博嗣:四季 春 Green Spring,p.163,講談社.

2004年05月02日(日) |
探偵伯爵と僕 His name is Earl/森博嗣 |
++ 夏休み直前、新太は公園で出会った、夏というのに黒いスーツ姿の探偵伯爵と友達になった。奇矯な言動をとるアールと名のる探偵に新太は興味津々だ。そんな新太の親友ハリィが夏祭りの夜に、その数日後には、さらに新太の親友ガマが行方不明に。彼らは新太とともに秘密基地を作った仲間だった。二つの事件に共通するのは残されたトランプ。そしてついに新太に忍びよる犯人の影!(カヴァ裏より) ++ ミステリーランド創刊からずっと待っていた森氏の本。しかも挿絵は山田章博氏です。 このコンビを見ることができるなんて…、文章も絵も美しく感激。 子ども向けと思えないほど、言葉遊びな部分が多かったように思いますが、この本を手にとるような子どもはきっとこういう文章もちゃんと読みこなせるに違いないとも思います。 お話は、こんなにあっさりとハリィとガマが殺されてしまってもいいのか?と感じましたが、森氏的に、本来殺人はそういう理不尽不条理なものだといいたかったのかな、とも。 なにはともあれ、ラスト2ページでなんとなくしっくりこなかった原因がなんなのか、わかります。 「僕」について年齢がはっきり記述されている部分はなかったと思うのですが、おそらく小学校高学年ではないかと。その「僕」が一人称のこの話、まさか「僕」の体験に基づく「僕」の書いた小説だなんて…。 違和感があるはずです。それ自体がトリックのようでした。
一番大事なことは、きっと、自分の命を守るということで、その次に大事なことは、できるだけ沢山の人の命を大事にすることだと思う。 人が人を殺すことは、悪いことというよりは、嫌なことだ。 悪いことだからしないのではなくて、嫌なことだからしたくないのだ。 僕には、そういうふうに思える。
森博嗣:探偵伯爵と僕 His name is Earl,p.334-335,講談社.

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