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2004年04月20日(火)   ピーター・パンとウェンディ/J・M・バリー原作


だれもが知っている、ピーター・パンの物語。
私も大好きな物語のひとつです。
しかし、夢の島での冒険、楽しい毎日、フック船長との戦い、それを読みながら違和感を感じました。
これは私の知っているピーターじゃない、とかなり早い段階で思い、終わりの方ではそれは確信に変わりました。
子ども向けに簡略化された物語にはない、ピーター(言ってみれば子ども)の無邪気な残酷さが、この原作に忠実な物語にはあったのです。

ロンドンにもどったウェンディを、1年後再び迎えに来たピーターは、ウェンディがフック船長との戦いを思い出すと、
「フック船長って、だれ?」「ぼく、殺したあとは、みんな忘れちゃうんだ。」
と無邪気に言います。
また、ティンカー・ベルについて触れると、
「ティンカー・ベルって、だれ?」「妖精って、とても大ぜいいるんだもの。きっと、もう生きていないんだろ。」
とティンカー・ベルを思い出せないのです。

刹那的な楽しさに目を奪われ、毎日が楽しいことで塗り替えられていく、過ぎたことは忘れてしまう。
そんなピーターがウェンディの存在だけはずっと忘れずにいたのは、子どもにとっての母親(*はじめにウェンディはピーターに「私があなたのお母さんになる」と約束する)という存在の大きさなのかな、と感じました。



「ぼくは、おとなになんかなりたくない。」ピーターははげしい調子で言いました。(略)
「だれもぼくをつかまえて、おとなにすることはできないんだ」


J・M・バリー原作 石井桃子訳:ピーター・パンとウェンディ,p.297,福音館書店.












2004年04月17日(土)   機械仕掛けの蛇奇使い Clockwork Serpents/上遠野浩平

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十七歳の僕は皇帝。でも自分が偉いという気は全然しない。綺麗で優しい婚約者のユイ姫ともぎくしゃくする毎日。伝統と義務ばかりが重たく、自分がしたいことも見つからない……そんな僕が憧れるのは、かつて全世界を相手に戦ったという美しき性別不明の戦鬼ルルド・バイパーだった。だがその子供っぽい憧れが、やがてこの世のすべてを揺るがす混乱に発展しようとは――詠韻文明と呼ばれる奇妙な物理法則に支配される幻想の世界に滅亡と崩壊の陥穽が開くとき、若き皇帝は決断を迫られる……絢爛たる魔人と、容赦なき機械と、揺れ動く少年少女の心が毒蛇の如く絡み合う、これは無為無策な夢物語の顛末――。(表紙折り返しより)
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新しいシリーズものかと思いきや、1冊で完結しているみたいでした。
が、やはり上遠野氏。他作品と連動しています。
最後の章の少女ってイマジネーターですよね。
と考えると、これはブギーさんとか、ナイトウォッチシリーズと繋がってるわけで、きっとルルドもジャグヘッドも虚人との戦闘用に前世紀から残されていたものなのでしょう。
ところでこの本、表紙がセクシィすぎて、一瞬手を退いてしまいました。このルルドの身体に巻きつけられている布、なぜ解けないのか…



『己が尾を呑む蛇の螺旋が至る道程、生死の果てに見る夢は、矛盾の閉塞か、虚無なる無限か』


上遠野浩平:機械仕掛けの蛇奇使い Clockwork Serpents,p.300,メディアワークス.












2004年04月16日(金)   断鎖《Escape》/五條瑛

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過保護な両親から逃れるために家出を繰り返す亮司に、謎の男・サーシャはこう囁いた。「革命を起こさないか、この国に」と――。「革命」という言葉から一番かけ離れている平凡な青年が、アジアの趨勢に翻弄されながらも、少しずつ成長を遂げてゆく。(裏表紙より抜粋)
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文庫落ちしないと思っていた「R/EVOLUTION」シリーズの第一弾です。
ハードカヴァの美しい表紙を文庫には期待していませんでしたが、ここまで素っ気ない表紙なんて…。出版社は売る気がないのかもしれませんね。
今回も文庫落ち恒例のおまけ短編付き。サ様と亮ちゃんの甘い生活(偽)が垣間見えます。
裏表紙の粗筋に、「アジアの趨勢に翻弄されながら〜」なんて書かれていますが、むしろ亮ちゃんを翻弄しているのはサ様。弄びすぎ。
でも、サ様になら弄ばれてもよいです。
こんなにイイオトコ続出の五條小説、読者の多くがおっさんだと最近知ったのですが、内容が内容なので仕方ないけど、もっと若い女性に読んで欲しいものです。



長い指で顎を支え、悩ましげに目を細めてサーシャが笑う。他人の不幸を思い切り楽しんでいる顔だ。偽善者面の欠片もない、清々しいまでの潔さに亮司は却って胸がすく気がした。この男は自分を繕わない。繕う必要もない。他人が自分をどう思っているかなんてまったく興味がないし、また、どう思われようと平気なのだ。それだけ強く”自分”というものを持っているのだろう。(略)
――悪魔。
亮司は心の中で呟くが、その呟きを吐き出す気にはなれず、ワインと一緒に呑み込んだ。


五條瑛:断鎖《Escape》,p.331-332,双葉社.












2004年04月08日(木)   マリア様がみてる チャオ ソレッラ!/今野緒雪

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体育祭が終わり、リリアン女学園高等部の二年生を待ち受けるイベントは、修学旅行!お姉さまや妹との別れを惜しんだ祐巳、由乃、志摩子は、成田空港から飛び立つ。行き先はカトリックの総本山もある、食と文化の国イタリア!全二年生が二手に分かれ、7泊9日でイタリア国内を回る旅行日程。偶然にも、山百合会の三人は同じグループ。蔦子や真美も同じで、何やら波乱の予感が…!?(表紙折り返しより)
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修学旅行、私は国内でしたが楽しかったです。
部活の後輩がお餞別(うちの部は駄菓子詰め合わせ、バスケ部やバレー部は派手下着など代々決まってました)をくれて、ちょうど新幹線から高校が見えるので、校舎に「行ってらっしゃいませ」の横断幕を吊ったりして、送り出してくれます。
でもって、運動部と一部の文化部は旅行先でも朝練します。
5時頃から加茂川沿いで走る女子高生、バッド・ラケット・竹刀で素振りする女子高生、ドリブルする女子高生、発声する女子高生の一団がいたら、私の母校かもしれません。
ちなみにほとんどの生徒かばんに教科書や参考書が入っていました。
今思うと、なんで旅行先でまで日常を引きずっていたんだろ?というかんじですが、その頃は、迫る新人戦と期末テストが怖かったのでしょう。
校訓が「文武両道」で、校歌の歌詞で自らを「大和女子(おみな)」と言い、生徒会モットーが「百花繚乱」というのが、私の母校、女子高です。



「チャオ」
「そう。『ごきげんよう、お姉さま』なら、『チャオ ソレッラ』ね」


今野緒雪:マリア様がみてる チャオ ソレッラ!,p.145,集英社.















ゆそか