A Will
DiaryINDEX|past|will
考えすぎなんだよ、と友人は笑った。
だって、考えないわけにはいかないもの。 頭から離れないの。
叱られた気分で、小さな声で反論する。
頼りになりすぎる友人と言うのも考えものだ。
睡眠時間を削り、 何よりも最優先してくれるのを知っているから、 迂闊に声も掛けられないし、泣き言も言えない。
好き、とは言えないから、 何度も意味なく名前を呼んだ。
その全てに律儀に返事をしてくれるから、 可笑しくて、それだけで、大丈夫だと思う。
大丈夫。
わたしは大丈夫。
この人を所有するようなことがあったら、 そのときは、消えてなくなってしまいたいくらい。
この先も、一生涯言えなくて良い。
本音なんか何にも必要じゃない。
わたしの知らない彼がいて、 入り込む余地がないことを悟る。
薄すら寒い寂しさの中で、 彼と目が合い、わたしは手を振った。
笑顔で手を上げた彼を、 やっぱり知らない人だと思った。
入り込んだらいけない。
たぶん、触れることさえナシだ。
だから、手を振ったのだ。
確かに距離があることを、 手を伸ばしても届かないと、 あちらと、こちらに、わたしたちはいると、
確認のために。
日が沈んでも、汗が滴るような熱気の中で、 この暑さに乗りきれない。
浴衣を着た可愛い女の子の集団が、 口を赤く染めて、りんご飴を頬張っていた。
豪奢とは言えないけど、立派である神輿が、 怒声とも歓声ともつかない音の中で、跳ねる。
神さま。
心の中で、呟く。
冷めない熱気を後に、わたしは電車に乗った。
覗き見をしたような後ろめたさだ、と なんだか可笑しくなる。
たまたま、出会う。なんて、 運命的でないとするなら、それは悲劇的だ。
頭の中の、笑顔で手を上げた彼を、 どうにか振り払う。
幻だ。 夏が、暑さが、見せた幻だきっと。
頭が痛いのは、昨日、1本空にしたシャブリのせいだ。
相変わらず、よく飲むな、と笑ったのは、 久々に会った友人だ。
ワインなんか飲めるようになったのは、 結構、最近だ。 一人で空 けたのは昨日が初めてだ。
電話を片手に持つ。
もうシャブリには頼れないから、 頼りがいのある友人にアルコール代わりになってもらおう。
大丈夫。
わたしは、昔から1度だって二日酔いにはなったことがないんだ。
コカ・コーラを買った。
半分も飲めないのはいつものこと。 気の抜けたコーラを彼は嫌悪していたけど、
甘いばかりの、あのコーラのほうが、 わたしは好きだ。
特別でもなんでもなくなってしまったけれど、 普通の日のふりをしないことには、 まだ、やっぱり過ごせそうにない。
悲しいとも違うし、 寂しいとも少し違う。
無力な恋だったな、と今なら言える。 子供で、わたしも君も。 外圧でもかかったら、簡単に壊れただろう脆さで、 それでも構わないと必死で恋をした。
好きで好きで堪らなかった。
今も。せめて今日は。
好きで好きで大好き、と嘯いてあげるね。
君のことを話すわたしは、 きっと13才のまんまだと思う。
おめでとう。 今年も、今日が来たよ。
|