A Will
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郵さんが風邪を引いた。
LINEのスタンプが深刻さを壊して、 可愛くて、郵さんらしいな、と思う。
白熊のアイスが食べたいと言うから、 スーパーで買って行ったら、 郵さんはベッドで寝ていた。
長くて細い手足を器用に折り畳んで、 眼鏡をしたまま寝ていたから、 わたしを待っていたのだと、すぐに解った。
郵さんの顔が好きだ。 カリカリ細い手足も。 笑うと出来る皺も。 柔らかい癖毛も。
優しくて、けれど冷たくて、 わたしを好きでいてくれて、 けど、放っておいてくれて、
きっと、こんな素敵な人、他にいない。
郵さんは、目を覚まして、 身体中が痛いと言いながら、白熊アイスを食べた。
わたしは郵さんにぴったりくっついて、 郵さんがテンポ良く、 氷菓を掬って口に運ぶのを見ていた。
熱っぽい、と言っていた割りに、 郵さんはあんまり熱くなくて、わたしの手のほうが、ほかほかしていた気がする。
ごめんね、と郵さんは言って、また寝た。
こんな人、他にいない。
たとえば、わたしは彼のことが好きだけれど、 彼が郵さんより素敵だなんて思ったことはない。
寝ている郵さんの手を握った。 夢うつつで、その手を握り返される。
明日、郵さんの風邪が治りますように。
以前、彼にある話をしたら、 時々、それをネタとして話を振ってくる。
無神経だなとは思っていたけれど、 他愛ないもののはずで、 笑って流せば、それで済むことでもある。
「また、されたらどうする?」
笑えば、済む。
笑って、困ったふりをして、解んないって。
けど、我慢ならなかった。 もう、耐えられなかった。
殺してもらう。
物騒な言葉に、彼の笑顔が途切れた。
「殺してって頼むわ」
解ってほしいわけじゃない。 慰めてほしかったわけでもない。
けど、こんな話をされて平常心でいられるほど、 強くもない。
伸びた彼の手を振り払う。
触らないで、と言った自分の声の低さに、 自分で驚いた。
怒るなよ。
彼の声と手が、まとわりつくようで、 それが嫌で、逃げるように背中を向けた。
怒ってなんかない。
悲しかったわけでも、腹が立ったわけでも。
だけど、彼の顔を見られない。
解ってる。
他愛ないもののはず。 傷付けようと意図したわけじゃない。
でも。いやだ。
笑えない。 笑って済ませる、なんて無理だ。
なんで、話したんだろう。 話したら、こうなるって解ってたのに。
仕事中、遠くへ行くことばかり考えてた。
遠くへ。出来るだけ遠くへ。 もう、誰も追いかけて来れないくらい遠く。
夢も見ないほど。
そんな場所、あったら良いのにな。
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