A Will
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どこに行ったの?
起きて早々に、つぶやいた自分の言葉にぞっとした。
乱暴に掴まれたのを覚えてる。 髪の毛でも、手首でも、とにかく力任せにぎゅっと。
不思議だったのは、それがちっとも痛くないこと。 あんなに乱暴だったのに、一度も苦痛だと思わなかった。
そうだ。
思い出すたびに、あの冷たい手は、奇跡なほど優しかった。
どこに行ったの?
磁石が付いてるとしか思えない吸引力で、ぺたりと。 あの感覚。
忘れていなかったんだ。と思ったら、消えてしまいたくなった。
助けて。と次いで漏れそうな言葉に。
わたしは、自分の冷たくなった指で必死に口を押さえた。
涙は零れなかったけれど。
行き先のないのは、ため息も想いも、一緒なのだと、 妙に悟った気分になって、白く見えた息を睨むしか出来なかった。
奇跡だったのだ、と思い込む。
あの冷たさと、それと裏腹な優しさに。
わたしを掴むあの手は、きっと幸せだったのだろうと。
だからきっと。
泣き出してしまいそうだと、思うのは間違いであって欲しい。
2006年02月14日(火) |
欲しければあげるわ。 |
その日、急遽入ったバイトのせいで わたしはコンビニに駆け込んでとりあえずチョコレートを買った。
バイト先の先生たちに渡すために、仕方なく。
スーツを着て、つまらなそうにチョコレート買うわたしを、 店員さんは「大変ですね」と言いたげに一つ一つ丁寧に袋に入れてくれた。
少しだけ早めにバイトに入って、 先生の数とチョコレートの数を瞬時に計算して、 不足がないことに微かな安堵を覚えて、 生徒に対する顔と同じ飛び切りの笑顔で、 内心では死んでしまいそうにつまらない思いをしながら、 「バレンタインデーですので」と言って渡してまわった。
義理すらないような相手に。
これは「何チョコ」って言うのかしら?と笑い出しそうだった。
けど良いの。 嬉しそうだったから。
バイト後は、ホテルにいた。
泣いてしまえるなら、どんなに良いかと思って、 それでも沈痛な顔しか出来ない自分を憎らしいと思って、
そうして、ただ溺れたかった。
大きな声を出しても良いし、大げさなほど動いても、 あの人はただ優しい。
優しくしないでって言ったのに。 乱暴なくらいがちょうど良いのよっていったのに。
そんなことありえないのを知っているから。
結局3回。
果てたのはわたしじゃなくて、あの人だったけれど、 とてもとても傷つけて安心して、それでも好きだと言ってくれるあの人を もっともっと傷つけて、
そんなまともじゃない人間関係。
わたしの選択肢に、未来はないのだと唐突に気づいてしまって、 だから、ただ申し訳なくなってしまった。
朝、起きたときの自分の言葉が未だに許せなくて、 傷つけたい心境。わたしを。わたしが。
知らない男と寝るにしても、労力だけが必要だから、 こんな風にもっと面倒くさい相手を選んだあたり外れないなって思う。
バカなのだ。わかってる。
とても好きなのに。 愛してるっていえるほどなのに。
どうして、この人じゃダメなんだろう。
欲しいのは、ひとつだけ。
バカみたい。
何故?と聞くまでもなかった。 それでも、わたしは聞きたかった。
取り返しのつかない、その言葉を待っていた。
鼓動が早くて、痛い。
わたしは、その日、繋いだ手を、何もかもごと憎悪して愛しかったのだと、 まだ大きなキャンディーを噛み砕く。ばきり。
優しい笑顔が。 愛しいと思える空間が。
苛むのは、何故?
どうしたら良いのか、なんて本当は1番知りたいの。
だから申し訳なくて、だけどコレしか知らなくて、こーゆー風にしか振舞えない。
ガラス越しで。直視できなかった靴がある。 綺麗で、どこにでも行けちゃいそうな気がして、でも届かなかった。
あの靴は、わたしを見つけなかったし。 わたしもガラス一枚すら破れなかった。
悲しいけど、涙はでなかった。
そーゆーものなのだ、と何かで諦めた。
アリストの加速音にうとうととしながら、温めてもらった左手。 初めての経験までさせてもらって、 まったく、本当にお姫様のような扱いを受けた。
ゆっくりと、時間の過ぎるのを感じて、多分、これは、 好きなのだろう、と若干うんざりと思ったりしたのだ。
がりがりと、口の中で甘く砕けるキャンディーは、 きっと何もかも知っているんだろうな、なんて、そう思うよ。
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