A Will
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2004年11月22日(月) |
もう2度といわない。 |
「わかれちゃえ」
いたずらっぽく聞こえるように注意したけど本気だ。 わかれちゃえ。わかれちゃえ。わかれちゃえ。
頭の中で何回も何回もおもってたんだもの。
幸せだとか不幸だとか、そんなことに興味はないけれど、 なんたって楽しいことが好きなんだもの。
どっちに転んだって痛いよ。転んだら痛いんだもん。 だったら、覚悟のあるうちに「えいっ!」ってさ。良い方法じゃない?
いいじゃん。わたしがいるじゃん。
大丈夫だよ。 わたしはいつでも捨てられるから。 「情がない」のはわたしだって一緒。
わたし、いつだって捨てられる覚悟でいるもん。
だからさ。
ねぇ。 あんまり言いたくないんだ。 出来ればもう2度と。
「離婚しちゃえ」
ねぇ、ママ?
薄暗くなり始めたときに吸う煙草の煙が一番青い。
ぷかぷか駅のホームで壁に寄りかかって吸ってたら、 ミニスカートの女の子を連れて彼が歩いてた。 私を一瞥して、鼻をすすって、立ち止まった。
「お前、禁煙するとか言ってたじゃん」
「そうだっけ?」
「俺が、この間お前の家行ったとき、 “私、禁煙しなきゃ”って言っただろーが」
あぁ・・ あれね、あれ。
「口だけかよ」
違うよ。違う。 っていうかさ、なんつーかさ。
「そんなの、この間の話じゃん?」
彼はカッコいい。 モテるだろうなーと思ってたら、モテた。
女の子がキャーキャー言うのを私は彼の近くで眺めてた。
最近、彼に似た芸能人がテレビによく出てる。 その芸能人がテレビに映ると彼がそこにいるみたいで、 シリアスならシリアスなほど笑えた。
美人な女優さんを抱きしめてたりすると、それは傑作のギャグだった。
送信:「今さぁ、テレビに出てるよー。すごいセリフ言ってる」
受信:「違うから!俺じゃないから。でもムカつくから見るな」
送信:「わーー。ちゅうした!ちゅう!」
受信:「しね」
送信:「ばーか」
彼は平気で私に死ねとか言う。 私も平気で彼にバカとか言う。
そのとき私は彼が電話してきたことに全く気づかなかった。 「野ばら」を歌いながらのん気に煙草を吸ってた。
メンソールの涼しい味。
ようやく気づいた着信とインターホンが鳴ったのはほとんど同時で、 私は煙草を空き缶に入れてずれた眼鏡を直しながらドアを開けた。
「どちらさま・・?」
「こちらさま」
「・・・・・松田君?」
「お前、眼鏡の度あってんの?」
知らない男が立ってた。 それは間違いなかった。それは私の知ってる彼じゃなった。それだけのこと。
「好きだ」
一言で、気を失いそうになるなんて、思ってもみなかった。
用心して言われないようにしていた言葉と、 友達を失った喪失感と
口に残った、メンソールの涼しすぎる味。
「ごめん。好きな人いる」
「知ってる」
禁煙しなきゃ、と心の底から思った日の夜。
わたしってこんなに忘れっぽかったかしら?
首傾げたくなるくらい、 名前も、顔も、性格も思い出せない。
あぁ。けど似てる。
前髪が額にかかる、その感じとか。 ご飯を食べるときの、その仕草とか。 笑うときに一瞬目を大きくするの、とか。
なんでかな。
好き、だったはずなんだけど。
なんで会わなくなっちゃったんだっけ。 グレープフルーツジュース飲みながら考えた。
やっぱり思い出せない。 花火、した人。
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