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りょうちんのひとりごと
りょうちん
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2013年05月30日(木)
Vol.805 びわはやさしい木の実だから

おはようございます。りょうちんです。

父と母と訪れた道の駅で、旬を迎えたばかりのびわを見つけた。房総半島はびわの産地だ。早いものが店頭に並び始めている。びわはやさしい木の実だからキズがつかないようひとつひとつ包まれて、きれいに箱の中に鎮座していた。6個入り4500円はさすがに手は出せないが、贈り物なら絶対に喜ばれるに違いない。郵送できますという案内があるのを見て、自分用に買う人は少ないのかもと納得する。
社会人も2年目に入ったあの日、俺は南伊豆にある寂れた温泉地にいた。大学時代からの趣味だった温泉巡りも、当時は多忙な仕事のせいでなかなか行けなくなっていたのだが、連休が取れた俺は久しぶりに地図を頼りにひとりで車を走らせたのだった。朝からひとっ風呂浴びて上機嫌な俺は、次の温泉までは車を停めて歩くことに決めた。天気も良く、5月の心地よい薫風が肩を通り抜けていく。海岸線を走る遊歩道から見る太平洋は絶景で、あわただしい日常を忘れさせてくれた。
目的地が近づき、山あいの道に入ったあたりで、頭上から人の声が聞こえる。するとそこには、木に登ったおじいさんとおばあさんがいた。どうやら、たわわに実ったびわの実を収穫しているらしい。目が合ったのであいさつをしてこの先の温泉に入りに来たと告げると、それをきっかけにいろんな話に花が咲いた。農作業の休憩として話す相手に、俺はちょうど良かったようだ。旅にハプニングはつきものだから地元の人と話ができるのも貴重な体験だと、俺もずっとトークに付き合った。
結構長く話し込んだあと、おじいさんに「良かったらびわを持っていきなさい!」と言われた。市場に出せないやつを今からもいで落とすから好きなだけ持ってっていいよと、そこからはしわだらけの手で手際良く収穫されたびわの実が、雨のようにぼたぼたと落ちてきた。遠慮を知らない俺はふたりの好意に甘え、びわを大量に手に入れる。ありがたくいただいた甘い果実は、乾いた喉をうるおしてくれた。
びわを見るとあの日の出来事を思い出す。あの時は高価な果物だなんて意識してなかったけど、あんなにびわを食べることはもうできないだろうな。