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りょうちんのひとりごと
りょうちん
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2012年11月01日(木)
Vol.799 奇妙な住人・後編

おはようございます。りょうちんです。

前回の続き、奇妙な住人・後編。
「てめー、早く金送ってこいよ! いつまで待たせるつもりだよ! 早く10万出せよ!」と、彼女が激昂する電話越しの相手は親なのかダンナなのか。大金を要求する彼女の大きな声は、イヤでも扉越しの俺まで届いてくる。他人の会話が聞こえないように配慮して閉めた扉も、彼女の大声にまったく意味がない。それにしても、ツッコミどころ満載な彼女である。なぜに彼女の口元には歯磨き粉がついたままだったのか? なぜに電話を借りにきたのが同じ階でもない我が家なのか? なぜに穏やかだった態度が電話越しの相手に急変したのか? そしてなぜに大金を送って欲しいとお願いしている相手に、そこまで強い態度で出られるのか?
いくつもの疑問と飲み込めない状況から、俺はしばらくのんきに彼女のやり取りを聞いていたのだが。一向に会話は終わる様子もなく、本当に困ったのは俺の方になってきた。彼女の遠慮ない大声は、俺の部屋だけでなく、静かなアパート中に響き渡っているに違いない。玄関先で大声でお金の催促をしているなんて、端から見ればまるで我が家に借金の取り立て屋がやってきたようにも見える。我が家には多額の借金があって取り立ての催促が来ているらしいなんて、あらぬウワサも流れかねない。彼女の会話はまだまだ続きそうだったが、すぐにしびれを切らした俺は再び扉を開けると、彼女にケータイを返してくれるようにそっと訴えた。「早くしろよな!」と電話の相手に最後は吐き捨てるように言うと、彼女は再びすみませんと低姿勢になり、律儀にお礼まで言って戻っていった。返してもらったケータイの発信履歴を見ると、県外の、北の方の市外局番が表示された。
彼女が再び我が家を訪れても、今度は絶対居留守を使おうと相方とも話していたのだが、それから数週間して105号室は空き部屋になった。その後、彼女の姿を見かけることもない。彼女はどこへ行ったのか? 少し気になるが、我が家に借金の取り立て屋が来るというあらぬウワサが広まってないか、そっちの方が心配である。